射法の分類 古代と現代のリリース射法について

洋弓の歴史について書き上げて1年立ちますが、勉強するほどに、まだまだ不明瞭なところがあると感じるので、もう一回勉強し直そうと思っています。その中でまず引っかかったのが、射法の分類です。まぁ…歴史についての本ではまず最初に出てくるところですね。

多くの資料では「ピンチ」「地中海」「モンゴル」の3つの方式に分類しています。日本のアーチェリー業界では一番権威であるだろう「アーチェリー教本」でも、2000年の改訂版のP.6-7で触れていますが、正直、何かの文書をコピペしたような文書になっています。日本での洋弓史の初期に書かれた「洋弓の楽しみ方(1965年)」に書かれた内容とほぼ変わらないので、この35年何も進んでいないようにも思えます。

弓についての研究者の状況を見てみると、スポーツ科学学会では間違ってマックス・エーンスを射法の分類を行った研究者と勘違いしているし、一方で考古学会では、正しく認識できているが、研究が失われた状態になっています。

いくつかの文献に引用されているが、正確な論考名・発表年などは不詳である。Morseはこの論考において、射技を第一次式・第二次式・第三次式・地中海式・モンゴル式の五種類に分類し、第一次式を最も原始的なものとし、モンゴル式を極めて発達したものとしている。

松木 武彦 原始・古代における弓の発達–とくに弭の形態を中心に

前に書いた記事で、マックス・エーンスは自著にモースの「Ancient and modern methods of arrow-release. (Essex U. S. A. Institute Bulletin. 1885. )」の研究を引用したと書かれていますので、スポーツ科学界が著者を間違い、考古学会では失われているとされているのは、この論文で間違いないでしょう。

私はずっとこの射法の分類のあまりの単純さに、このモースの研究は非常にレベルが低いではないかと思っていましたが、実際に読んでみると、全く違っていて、非常にレベルの高い研究です。というか、そもそも、モースは射法の分類について、5つであると断言していません。今まで、モース、または、「モンゴル式」「地中海」といった射法の分類について語っている人、ほぼモースの論文読んでないでしょう。デタラメばかりでびっくりしています。

ざっくり言ってしまえば、約150年前、1885年、通信手段すら限られていた時代に、モース自身は5つに分類したが、例えば、アルカイック・リリースのような情報が少なすぎて分析できなかったものも多いので、(モースが集めた)私の情報を個々に一旦まとめるので、後輩たちで更に研究を進めてほしいといった論文でした。

smithsonianmag.comより

ちなみにこのような足で弓を支え、両手で弦を引くタイプのリリースなどが情報不足で分析できていないとしています。

ということで、私としては論文も見つけたし、コピペではない正しい情報、モース自身の言葉に触れることができたので、それを踏まえて、次の段階の調査を始めますが、しっかりと内容を理解するために、ゴールデンウィークの3日使って、モースが射法を分類し、現在多くの言説の元になった「Ancient and modern methods of arrow-release.」を日本語に翻訳したので、アーチェリーについてより詳しく知りたいという方はぜひ。

古代と 現代のリリース 射法について – PDF 2MB

図面、岩の碑文、フレスコ画、浮き彫りなどをコピーする際にもっと注意する必要性を指摘します。手の位置、弓矢の先端の形や特徴、羽の形など、細かな点に注意を払う必要がある。さらに、古代の物や絵の中から、アームガード、サムリング、アローレストなどを識別する可能性と重要性も指摘したい。また、旅人や探検家は、弓矢を使うという単純な事実を観察するだけでなく、(1)引き手の姿勢、(2)弓を垂直に持つか、水平に持つか、(3)矢が弓の垂直の右側にあるか、左側にあるか、(4)この論文ではコメントしていないが、余分な矢を押し手に持つか、引き手に持つかを正確に記録する必要がある。

古代と現代のリリース 射法について

現在でも民俗学・考古学の論文を読むと、ものすごく丁寧に道具そのものを分析しています。しかし、それがどのような道具だったのかという点にはあまり関心がないようで、モースが指摘していることは、21世紀でも十分に通用するのではないでしょうか。

昔読んだ本ですが…今回、読んでもないのに堂々と語る人が世の中に大量にいることにびっくりしました。読んでから語ってよ(T_T) 私は翻訳までしたのでモースの論文ちゃんと読んでいますよ!


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Ryo

(株)JPアーチェリー代表。担当業務はアーチェリー用品の仕入れ。リカーブ競技歴13年、コンパウンド競技歴5年、2021年よりターゲットベアボウに転向。リカーブとコンパウンドで全日本ターゲットに何度か出場、最高成績は2位(準優勝)。次はベアボウでの出場を目指す。

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