スペイン・サンタンデールのMMBC ARCHERYを訪問してきました。MMBCは会社名で、傘下に世界最大の弦ブランド”STRING FLEX”と、新素材を採用する事を得意とするFLEX ARCHERYがあります。以降統一して、FLEXと書きます。
以前訪問したフランスのUUKHA同様、のどかな港町に位置しています。
入口はアロープラーで飾り付けられています。このアロープラーは特製のもので、製造するアロープラーの素材の色を変えるときに、前の色の素材と新しく入れた色の素材が混ざった出荷できない製品を再利用しているそうです。
入口のスペース。アーチェリー製品の製造を開始したのは、20年ほど前ですが、その前はアーチェリーのプロショップを営業しており、完全に製造業に転向したのは3年前。その時の名残のショップスペースだそうです。
会社のトロフィールーム。写真中央は社長のマリアさん。スペインチャンピオンだった時のメダルです。1970~80年代にスペインでトップにいた名選手です。英語がしゃべれないのであまり交流ができませんでした…写真下が通訳・技術者のグレゴリオさんです。持っているのは、アメリカの長期研修で取得したUSA ARCHERYのレベル4のコーチング資格です。外国人(連盟に所属していない人)が取得できる最上位のコーチング資格だそうです。
社長のマリアさん、エンジニアのグレゴリオさんともにアーチェリー歴40年近くで、1970年代~80年代にスペインのトップとして活躍し、80年代~90年代にプロショップ兼協会役員(大きな試合のプロデュースなど)として活躍し、90年後半から、アーチェリー用品の製造に転向し、大きく成長した来たので、最近では製造業に専念し、プロショップも閉じてしまいました。ちなみに、スペインには20店舗ほどのプロショップがあるそうです。
弊社でも立ち上げ中なので、参考にするためにテストルームを見学しました。写真は使用している設備の数々で、上は4000コマ/秒のハイスピードカメラ、下は最近、原糸の評価精度を上げるために導入した0.001mm(1µm)単位で太さを測定できるセンサ。
こちらは原糸テストです。テストに使用しているのはAstra/8190/8125g/FF+/ダクロンです。テスト結果をどう評価するか(つまりどの原糸が優れているか)、その話は中核的なノウハウなので今回は書きません。
上の動画でどのように原糸を評価しているかわかると思います。テストを行っていない弦は品質が安定しません。同じBCYの素材を使った弦でも、完成度に違いが出るのは、入荷した素材をそのまま使うか、どこまでチェックしてから使うかの差です。
まず、メーカー(BCYやブローネル)から、原糸が1ポンドごとのスプールと呼ばれる単位で入荷してきます。ちなみに、FLEXでは、月に100~200ポンドの原材料を使用しています。単純計算で月に10,000~20,000本は弦を製造しています。
入荷したすべてのスプールは、250kgの力でストレッチされ、原糸の状態を確認します。それぞれのスプールごとに、出来の良いものと悪いものがあり、悪いものをはじきます。残ったスプールは、許容範囲内にある誤差をバーコードで管理し、製造時に誤差を機械で補正します。
動画の2番目の映像では、弦をストレッチし、その後の変化を見ています。伸ばした時の変位があっても、弦を製造するときに伸ばせばいいだけなので問題ありません。問題はいったんテンションをかけて伸ばしても、元に戻すと縮もうとするものです。この場合、競技で使用するときも250kg(550ポンド)ほどの力はかからないものの、発射時に弦は伸ばされ、逆に矢取り時に弦が縮み、元に戻ったりして、ハイトが安定してくれません。
長さが安定しない弦は競技では使用すべきではありません。動画を見ていただくとわかると思いますが、ストレッチを止めて戻すと、上に動く弦が存在するかと思います。これは弦が元に戻ろうと縮んでいるからです。このような弦はハイトが安定せず、競技では使用できません。また、FLEXでは上位モデルは出荷時にストレッチをかけて、弦の状態を安定させていますが、この処理を行ってもこの弦は安定しません。
その代表格はダクロンです。ダクロン弦は全く長さが安定しない弦で、マリアさんも1970年の初めにダクロンで1250点をうったことを誇りにするくらいです。。。
この場合、FLEXでは製造後、写真のような状態で2日間”熟成”させます。それによって、弦の状態が安定し、その状態で初めて、長さを測定してパッキングすることで、誤差を押さえています。
続く。