*掲載されている情報はすべて2012年11月5日時点のものです。
2009年設立の独立系弓具メーカーであるフランスのUUKHA(X-Composite)社。個人的には2010年から連絡を取っており、2010年7月に日本に最初にこのメーカーを紹介しました。今回、弓具の評価技術の設置と運用のノウハウを共有するため、フランスのラ・ロシェルにあるUUKHAの本社を訪れました。
ラ・ロシェル(La Rochelle)はフランス西部にある港町で、パリからはTGV(フランスの新幹線)で約3時間、早起きして日帰りで行ってきました。UUKHAのオフィスは海岸から車で3分ほどのところにあり、とても美しいオフィスでした。
オフィスの中に入ると、右側に研究棟があり、中庭ではトマトが栽培されていました。11月…にはちょっと旬は過ぎてしまったようですが。。
秘密保持契約により、工場と研究室の全体の写真は公開できませんが、部分部分では写真を撮ることができましたので、紹介させていただきます。まず、上の写真はプロトタイプのUX100リムを試作するときに使用した金型です。
UUKHAの社長であるパトリックさんは、大学卒業、ずっとスポーツ用品を研究開発する機関に勤めていました。そこでは、素材工学の専門家として活躍し、ラミネート技術で作るサーフボード(パトリックさんはプロ級のウィンドサーファーで、アーチェリー歴よりもそっちの方が長い)から、コンポジット技術で作るヘリコプター用のカーボンヘルメットまで、あらゆるスポーツ用品を開発してきました。
そして、2009年、自分が47歳になった年に会社を辞めて、独立し、UUKHAを立ち上げました。現在で会社は3期目にあり、7名の従業員(インターンを含む)を雇用しています。
会社のキャラクタには、ムササビを起用。これは、会社の設立時に高精度のリムを製造するための機械に5,000万近い費用を投資したことから、ムササビのように一度今いる木(スポーツ用品開発の大企業)から飛び出してしまったら、確実に次の目標(次の木)にたどり着けないと、落ちて死んでしまうという決心を表現したものだそうです…(社長さんの顔があまりにも真剣だったので、突っ込みませんでしたが、ムササビは風に流されたりして目的の木にたどり着けずに地面に落ちたとしても死ぬことはない…)
実は最初から、コンポジットのリムを作ることを決めたわけではなく、最初は多額の投資を必要としない、ラミネートリムの開発からはじめたそうです。写真はその時にイタリアから取り寄せた素材のあまりだそうですが、素材の専門家としてのノウハウを駆使し、各国から最先端の素材を取り寄せて、最高級のリムの開発に取り組みましたが、開発を進めていく中で、ラミネートリムの場合に最も必要とされるのは、よい素材やその組み合わせよりも、トップメーカーの各社が競っているコア技術は「接着技術」にあるという結論に達しています。
各社のフラッグシップモデルでもリム全体のわずか15-20%程にしかカーボンは含まれていません。新しいリムを開発するためには、さらに高性能なカーボンを使用するか、カーボンの量を増やすかの2択ですが、どちらを選択したとしても、課題は最高級のカーボンのコストではなく接着。パトリックさんラミネートリムのコア技術は素材の特性を生かすよりも、いかに、それらをくっつけるかの方だという結論に達しています。
社長のパトリックさんが得意とするのは接着技術ではなく、素材を組み合わせて性能を高めあう技術だったので、この時点でUUKHAはラミネートという選択肢を止め、コンポジットリムの開発にフォーカスします。
コンポジットリムの開発はラミネートリムよりも困難ですが、ラミネートリムの接着に相当する部分だけをピックアップすれば、難しいものではありません。より強度の強いリムを作るためにはより高温に・より高圧と、それに耐える素材を選択すればいいだけです。そうして開発されたUX100フルカーボンリムには上記の高性能のUDカーボンが大量に入っています。このカーボンの特性は上の写真の通り、特定の方向に対してのみ、強度を発揮することです。実際に体験しましたが、この素材は横には裂けるチーズよりも簡単に裂くことができますが、縦方向には鋼よりも強い強度を持っています。
実際のつくり方ですが、写真の一番下が、あらゆる方向に対して強く軽量なカーボン。UX100のコア素材であるUXカーボンは特定の方向からの力には、チーズよりも耐久性がないので、このカーボンをサンドイッチのようにリムの両側に使用することで、コアの特殊カーボンを保護します。その次に白の層はリムの味付けとなるタレに相当する素材。その層は一層だけで、全体の重さに対する割合も10%にも満たないものですが、その層がリムの味を出すそうです。その上にさらにUDカーボンをいろいろな方向・いろいろな特性のものを(この部分が1番の秘密だそうです)、20層近く重ねて、レーザーカッターでそれぞれの素材をリムの形に切り取り、重ね合わせて、それを高温で半熟卵のような状態にし、その上から高圧をかけてプレスすることで、一体成型します。
出来上がるリムは非常に強いものになるので、それを研磨してポンド出しをして、センターを確認して出荷されます。丁寧に作っているというか、金型が1つしかないので、現在のUUKHAの工場では1日に10本程度(つまり5ペア)のリムしか作ることができません…のでスタッフが付きっきりで管理しています。
UUKHAのコンポジットリムは2010年から発売されこれまでに5,000本作製し、故障はわずかに3本です。これは他のメーカーの商品では考えられない数字で、1~2桁違いの数字です。HOYTのF7は30本に1本、WIN&WINのINNO EX POWERは100本に1本の割合で故障しています。
その次に、2011年にUproLiteというハンドルを開発しました。このハンドルは本体はUX100と同じ技術で製造していますが、カーボンハンドルのその特性から、高い精度で作ることができません。もちろん、すごい誤差ではなく、0.1mm単位の誤差です。ただ、接合部の0.1mmの誤差は60cmほどのリムの先端では、ズレが1mm程度になってしまい、シューティングに影響を与えます。WIN&WINでは3D計測し、誤差を修正するための金属プレートを張り付けるという手法を使用しています。
精度が求められる一方で、この部分には強度も求められています。上はHOYT社のローコストモデルのみに使用されているパーツですが、ストレスに耐えられず、形がゆがんでしまっています。もともと、ローエンド度モデルは高ポンド(高いストレスの環境)で使用されていることを想定していないといえば、それまでですが、リムポケットには、高い精度とともに、強度も求められ、さらには、調整がしやすいことも大事なポイントです。
UUKHAではカーボンハンドルのベースを測定し、その上に特殊プラスチック・フォージドジュラルミン・黄銅の3つ素材を組み合わせることで、この素材を組み合わせる技術がUUKHAのコア技術の一つなのですが、この組み合わせで、精度・強度・調整しやすさ、それと生産のしやすさの4点実現しています。
…と、ここまでが、すでに商品という形で公開されているUUKHAの技術説明になります。この後に行われたミーティングの中身は公開できませんが、いつか、それらの技術・ノウハウが商品として世に出た時には解説できるかと思います。
紹介が遅くなりましたが、ミーティング後にUUKHA社の玄関で、社長のパトリックとプロトタイプの金型とUUKHAの最新モデルとで写真を。
ミーティング後は車で会社から3分の近くのビーチへ案内していただき、その後、食事をごちそうになり、市内の観光案内までしていただきました。こちらとしては、平日(月曜日)に伺ったつもりだったのですが、町に人が多いので、聞いてみたら、どうやら振り替え休日で、休日出勤させてしまっていたようで、大変失礼しました。
47歳で独立して、大企業を相手に、たった3年で、フランス選手権を制し、フランス代表にも選ばれたUUKHAの今後にも期待です。ちなみに、社長の息子はまだ22歳ですが、現在ロンドンの大学で父と同じコンポジット技術の研究を行っているそうです。
山口 諒
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