この記事は2015年12月8日に書かれたものです。最新の情報とは異なる可能性があります。ご注意ください。

マニアックインタビュー : ローガン・ワイルド

SONY DSCワールドカップインドアインドア1日目はレオワイルド選手のサプライズから始まりましたが、公式練習は好調のうちに終わりました。

前回は準備が足りず、もともとディートン選手にインタビューする予定でしたが、タイミングを逃しました。トップ選手が時間をとって対応してくれるのは基本的に公式練習日だけです。これ以降はいろいろとかかった緊張のある時間になってしまいます。なので、今回は事前に連絡を取り、公式練習後にローガン・ワイルド選手に時間をとってもらい、インタビューをしました。

SONY DSCローガン選手はアーチェリー業界でも超トップのエンジニアです。自分が尊敬するアーチャーの一人です。1999年にアメリカ代表になってからは多くの大会で優勝しただけではなく、イーストンに勤務し、商品開発から技術サポート(消費者ではなく契約しているプロアーチャー向け)までこなしているので、チューニングや他社商品には詳しく、現在はシャフトメーカーから、弓のメーカーのエリートに移籍して同じような業務を担当しているので、彼ほどの知識を持つにはあとどれほど頑張ればよいのか見当もつきません。道具についても、技術についても、シューティングについても、すべて一流です。
SONY DSCそんな、すごい人にインタビューするわけですので、心がけたことは特にマニアックなことを聞くこと! インタビューにありがちな「今年の目標」とか、「集中法」などありきたりなことは聞かず、ひたすら細かい点にフォーカスしました。どんな質問にも快く回答してくれたローガン選手に感謝です。

以下、インタビューとなります(1時間10分)。

山口: 私もエナジー35を使っていますが、標準装備されている丸みのあるグリップではトルクに関しては寛容なところがあるかもしれないが、一定のグリップを作り出すことが難しいです。私はパテでビクトリーのようなグリップに変えました。このグリップのターゲットアーチャーにとっての利点は何でしょうか。

エリート_Vgripローガン: あなたの言う通り、よりフラットなグリップのほうが安定し、手に大きい人にも合います。ビクトリーのグリップが一番ターゲット向きです。私たちは2016年にエナジー35にビクトリーグリップ(V-Grip)の搭載を決定しました。

山口: エリートのケーブルガードはトルク量を調整できます。しかし、多くのメーカーの考えは、トルクはできるだけ少ないほうが良いというものです。あなたたちはなぜ、調整できるようにしたのでしょうか。

ローガン: 確かに多くのケースではトルク量はミニマム(羽に接触しないギリギリ)がベストかもしれませんが、お客様の環境は人それぞれなので、オプションとしてトルク量を標準(=これまでのストレートケーブルガード)に調整することもできるし、それより多くすることもできるようにしています。特殊なケースではそれがうまくいくこともあるのです。例えば、すごく短い矢を使っている人(引き尺ではなくオーバードローという意味)や、スパインがあまりあっていないアーチャーの場合です。彼らにはそのオプションが必要な時があります。

山口: 標準的なセッティングでは、スタビライザーバランスはニュートラル(上カムで弓を持ち上げた時にレベルバブルが真ん中に来る)が良いとされていますが、あなたの弓はサイドのウェイトが多く、もっと弓(上カム)が左に傾いていきます。さらに、レオ・ワイルドの弓はもっと左に傾きます。なぜ、そのようなセッティングにしているのですか?

ローガン: グリップをするときに私たちにはナチュラルトルクという概念があります。人それぞれですが、リラックスした状態で弓を持つと自然に弓を右に傾けてしまう現象です。それはすべての人固有のものではなく個人差があるものです。グリップのナチュラルトルクが大きい人はその分だけ左側にウェイトをつけて、同じ量の反対側への”弓の”ナチュラルトルクを作り出すことで、それを相殺でき、リラックスした状態で弓をホールディングできるようになります。

山口: 日本では、それは反対側にウェイトをつけることではなく、グリップが正しくないからだという考えが一般的です。なので、ウェイトで相殺するのではなく、グリップを試行錯誤することで修正していきます。

ローガン: 人の体はそれぞれで違います。一般化された理想的なもの(正しいグリップ)を目指して自分を弓に合わせるよりも、弓を自分に合わせるべきです。少なくとも、(初心者はともかく)高いレベルではそうであるべきです。

山口: エリートの弓はレットオフを自在に調整できます。私は高いほうが快適にシューティングできますが、あなたはどうしていますか?

ローガン: レットオフにはあまり意味がありません。大事なのはホールディングウェイトです。記録し、管理すべきなのはホールディングウェイトで、体力が落ちた時、ピークウェイトを落としてもよいが、ホールディングウェイトは維持すべきです。それができない弓もありますが、エリートはできます。

私のホールディングウェイトは17ポンドです。ホールディングウェイトはリリースの感覚を変えます。高い(ローレットオフ)とスムーズに流れるようにリリースでき、低い(ハイレットオフ)とスタティック(ゆったりとしてという意味かと、直訳は静的な)なリリースになります。どのようなリリースが自分に合うか調整しながらやってみてください。レットオフを調整するリムストップを同期するときは、上から位置を合わせたほうが良いと私たちは考えています。

山口: ストリングストップはどう考えていますか? 私は外したほうが弓のフィーリングをダイレクトに感じられ好きです。

ローガン: 外してしまえば、振動が増えます。私はつけています。また、好き嫌いはドローレングスにも依存すると思います。でも、確かにあるとないのとでは感覚は大きく違います。私のおすすめは、ある状態で30本、ない状態で30本。そのグルーピングで判断すればよいでしょう。

山口: あなたは以前ホイットでしたね。レオもホイットからエリートにしましたね。そのとき、何かを変えましたか?

ローガン: ハイブリッドカムからバイナリカムに変わったことによる変化はスパインの変化です。ホイット時代からポンドもドローレングスも変えていませんが、合うシャフトはホイット時代のプロツアー470からプロツアー420に変わりました。私はその理由はヨークシステムの有無だと判断しています。

山口: カムリーンについてとはどう考えていますか?ヨークがない分エリートは効率性が良いことはわかりますが、カムリーンの調整が困難です。

ローガン: カムリーンを悪いこととは考えていません。以前、レオが世界大会に出た時に使っていた○○○○の○○○○カムは考えられないほどのカムリーンを持っているとんでもないシステムでしたが、レオはその試合で優勝しました。大事なのは一定性です。

山口: 私はいま太いシャフトを使っています。エリートでも3Dの試合で競っている人もみんなゴールドチップですね。WAのルール改正に伴って、WAでも太い矢が有利と考えますか?

ローガン: 何がベストのシャフトかという議論は難しいです。私がイーストンにいたころには、すべてのシャフトを試しましたが、ベストなコンディションでもっもとグルピングしたのはA/C/Cでした。そこで設計部門と相談してできたのがA/C/CとX10プロツアーの中間の特徴を持つA/Cプロフィールドです。弟のレオがこれを使いワールドカップ150点満点を出しましたね。しかし、あらゆるコンディションでベストなのは結局X10プロツアーだと思います。ゴールドチップのような太い矢で試合に出場することは良いコンディションに賭ける、一つ賭けとなります。

ゴールドチップを使ったディートンはワールドカップで優勝しましたが、ワールドカップのような何ステージもある試合では平均していい結果となるでしょうが、(ナショナルチャンピオンシップやナショナルチーム選考会のような)一発勝負の試合でどうでしょうか。

山口: 先日、私はシューズについての議論を提起しました。シューズについてあなたはどう考えていますか?

ローガン: 私は少し角度のあるソールが好きです。使っているのはテニスシューズです。わずかに一方向に傾いているほうが、その方向だけに抵抗すればよいので、私にはそれが安定につながります。角度が付きすぎているものと、フラットなソールは使用しません。

山口: シューティング以外に何かトレーニングはしていますか?

ローガン: コアエクササイズとランニングです。あとは、1ガロン(4.5キロ)の水差しを押し手で保持してのトレーニングです。

山口: 押し手の特訓ですか?私はリカーブを長年やった後にコンパウンドに転向しました。その時に一番感じたのは、上腕三頭筋の使い方の違いです。より使わなければいけないように感じます。それが、そのトレーニングにつながるのでしょうか。

ローガン: リカーブとの違いは押し手はリラックスした状態で働かなければいけないことです。フルドローした状態で、押し手の筋肉を触ってもらってください。緊張があったらダメです。リカーブは筋肉をフルに使って押すことができますが、コンパウンドはできません。だからこそ、余計に筋肉が必要となってきます。

私が知っている限りでは、チャンス選手のホールディングが最も理想的です。まったく緊張していないので、長いホールディング(エイミング)の後にリリースしてもグルーピングします。

山口: では、ホールディング時の肘のラインはどうでしょうか。矢の延長上がベストですよね。

ローガン: それもグリップ同様に個人差があります。デイブ選手の肘は非常高いですね。対して、パーキンス選手の肘の位置は延長線上どころか、緩む方向に出ていますね。肘の位置も人それぞれです。

ただ、すべてが人それぞれではありません。安定してエイミングできることが一番大事です。そして、再現性があること。あなたのフォームで安定してエイミングでき、再現性が高いのであれば、もうフォームを修正することにとらわれる必要はないです。弓を自分に合わせることに時間をかけるべきです。

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山口: ありがとうございました。明日の試合頑張ってください。

ローガン: Good luck Ryo!

公開記事で書ける話はここまで。未公開話は店舗にて!

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山口 諒

熱海フィールド代表、サイト管理人。日本スポーツ人類学会員、弓の歴史を研究中。リカーブ競技歴13年、コンパウンド競技歴5年、ベアボウ競技歴5年。リカーブとコンパウンドで全日本ターゲットに何度か出場、最高成績は準優勝。

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