この記事は2021年9月10日に書かれたものです。最新の情報とは異なる可能性があります。ご注意ください。

【別解釈】KSLショットサイクルへの理解。

この記事は補足です。まずは、下記のリンク先の元の記事を読んでください

KSL Shot Cycle - 日本語版 (KSLインターナショナルのウェブサイト)

韓国代表、オーストラリア代表のコーチでの成功を得て、現在はアメリカチームのコーチをしているリー・キーシクさんのシューティング理論(KSL ショットサイクル)について、許可を得て、公開されている部分(収益目的でなければ利用可能)の翻訳を行いました。当然原文に忠実に翻訳したので、翻訳しながらも、ここは補足が必要だなと思った部分があったので、こちらで補足を加えたいと思います。ですので、まずは、こちらのリンク先の翻訳した記事を読んでから、または、読みながら、この記事をお読みください。

また、KSLショットサイクルは「インサイドアーチャー」という日本語に翻訳され本でも紹介されています。そちらのほうが先です。その本の理解について、あまり多くの方とディカッションしたことがありませんが、身近のリカーブアーチャーに聞くと、難しい・よくわからないという意見が多いです。これは本の翻訳にあまり成功していないからだと考えます。KSL理論に特に難しい部分はなく、今までのシューティング理論に加えて、新しく「角運動」「ローディング」「トランスファー」が追加されていますが、その翻訳があまり良いとは思えないのです。

角運動の説明(I:P.85)として「つまり、角運動とは常に変更している直線の運動で、常に変更している方向が曲線を描くということだ。」…いかがですか?

アバロンのときも思いましたが、私にも誤字・間違いはたくさんありますが、上のような通じない日本語は使用していないと思います。雑誌アーチェリーさんの通じない日本語を気にしないのはどうかと。

ということで、すで翻訳されていますので、私の方は別解釈とします。もともとKSL理論を十分に理解している方は、逆に混乱するかもしれないので、読まないほうが良いかもしれません。KSL理論を知らない方、まだ十分に理解できていない方向けに、新しい視点と解釈で理解をしていただくことを目的としています。

・私の翻訳 = Y / インサイドアーチャー = I

まずは、角運動(Y:9章,I:10章)について解説していきます。これは、私の翻訳したものでは、動きの比率(円形の動きの比率またはROCM:Ratio of Circular Movement)と呼ばれています。

いきなり難しい言葉ですね。角運動とはなにか、ぐぐってみると、あまりヒットしないと思います。最初に出てくるのは、角運動量でWikiの定義は、「角運動量とは、運動量のモーメントを表す力学の概念である。」とあります。いきなり挫折しそうな日本語ですが、ここで使うのは、角運動であり、角運動量ではないので安心してください。

角運動量はともかく、角運動とは単純に回転運動のことです。物体の運動は大きく2つに分類でき、直線的な「並進運動」と「回転運動(角運動)」です。では、なぜリーコーチは難しい言葉を使うのか。

KSL理論は2次元の理論です。今までの「まっすぐ引き・まっすぐ押す」という1次元の理論とは違います。1次元の理論を拡張するために、回転運動(角運動)が必要となり、更にそれを微分(後述)して、並進運動に変換し、2つの運動を組み合わせることで、2次元の動きに拡張しています。

以前には、回転による動きの比率( ROCM:Ratio of Circular Movement)と全部説明が入った言葉を用いていましたが、角運動のほうがスッキリしています。意味は同じです。

言葉は長くなりますが、 回転による動きの比率( ROCM:Ratio of Circular Movement) の方で説明します。造語のほうが個々人の理解が同じところから始まることが期待されます。上の図は(いつかちゃんとした写真に変えたい…)はシューティング時の引き手のひじの回転の回転運動による軌跡です。ドローイング中の青、これは曲線、曲がっていますね。アンカーに入っていく黄色では、曲がってはいますが、湾曲が少なくより直線に近いです。最期のクリッカーを落とす部分では、直線に近くほぼ曲がっていないことがわかると思います。つまり、回転による動きは曲線を描きますが、微分と同じ概念で、その一部を切り取ると、切り取る一部が短いほど、直線的な動きとみなせます。そして、肩甲骨は軸となる背骨により近いので、僅かな角度の回転でも、引き手の肩、引き手の肘によって動きが増幅され、大きな動きとなり、クリッカーを落とすのに十分な1-2mmの伸びあいとなります。

KSL International Q&Aより

アーチェリーにおいては一貫性が重要です。従来の理論、リーコーチが、”「継続的な外側の動き」での指導手法(Y:8章)”と呼ぶものは、「まっすぐ引いてまっすぐ押す」と単純ですが、人体は1次元的ではないので、合理的ではないと彼は考えます。そこで回転運動を中心とするKSL理論となるわけですが、ドローイングでは大きく回転する回転運動、伸び合いでは、その回転量をごくわずかとすることで、体幹とLAN2(写真参照)による回転運動という一貫性を維持しながら、それを直線的な動きに変換して、最終的には「まっすぐ引いて押す」従来の1次元の直線的なシューティングに収めていくわけです。

最初に取り上げた迷訳は”So angular motion can be thought of as continually changing linear direction, as long as the continually changing linear directions follow the path of a curve.”という英語ですが、「つまり、回転(角)運動は連続的に曲線の経路をたどり、絶えず方向を変えていく直線の向きだと考えることができます。」と私は訳しますが、理解していただけるだろうか。

次のあまり見覚えのない用語として「ローディング(Loading)ポジション」があります。インサイドアーチャーでは「負荷ポジション」という翻訳を使用しましたが、私としてはしっくり来ません。ローディングという言葉、カタカナで見ることはほぼありません。しかし、

・ロード

・LOAD

・Now Loading…

という言葉ならどうでしょうか? バイオハザード1で言えば、扉が開く瞬間ですが、読み込み/読み込み中という意味で、ゲームやパソコンで見かけることも多い言葉だと思います。LOADを負荷と翻訳することもできますが、スポーツ界ではあまり使わないと考えます。アーチェリーだと国際貨物の伝票や、クレーン車などで、「負荷」という意味で使われているだけです。

リーコーチの本では、バレル(銃身)やセーフティ(安全装置)、トリガー(引き金)といった射撃で使われる言葉を多く出てきます。射撃では、LOADは装填(火薬を込める)という意味で使用されます。私としては、LOADを「負荷」ではなく、装填に近い意味で翻訳、使用すべきだと思います。また、ローディングを負荷と翻訳すると、現在進行系にできず、色々と意味不明となります。

自分はそのままローディングと訳しました。写真上の赤い矢印(押し手から引き手の肩まで)を”銃身”とみなし、そこに矢を装填する(矢を”銃身”を同一直線上に置く)という動作となります。同一直線上に置く以上、これ以上、LAN2が回転してしまうと、ズレてしまうので、2次元的な回転運動はここまで。ここからは微小な回転運動に「移行」し、瞬間的な直線運動(instantaneous linear motion)になり、クリッカーを落とし、リリースに繋がります。

赤のVの部分が9章エイミング & 伸び合いに出てくる「Vディップ」

そこで最期の言葉がトランスファー(移行)です。私は移行と、そのままのトランスファーと両方の言葉を使って翻訳しましたが、上で説明した「回転運動から直線運動への移行」と、引き始めは人体の構造的な制限によって、背中の筋肉で引くことはできず、どうしても、腕や手の力で引き始めることになります。引き込むにつけて、背中側にテンションを転換(トランスファー)することが可能となります。リーコーチによれば、0.5秒ほどかかるそうですが、引き込まれた位置で、引き始めに発生した腕や手などの不要なテンションを背中側に転換するわけです。この2つの事を行うステップです。

・角運動 - 回転運動、または、瞬間的な直線運動

・ローディング - 射撃の装填のように、自分の”銃身”に矢を込める、同線上に置く動作

・トランスファー - 直線運動への移行・背中側の筋肉/LAN2へのテンションの転換

この3つの言葉が理解できれば、あとは難しいところはないと思います。もう一度、KSL理論を復習してみてはいかがでしょうか。不明な点があればコメントください。


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Ryo

(株)JPアーチェリー代表。担当業務はアーチェリー用品の仕入れ。リカーブ競技歴13年、コンパウンド競技歴5年、2021年よりターゲットベアボウに転向。リカーブとコンパウンドで全日本ターゲットに何度か出場、最高成績は2位(準優勝)。次はベアボウでの出場を目指す。

3 thoughts on “【別解釈】KSLショットサイクルへの理解。

  1. リー・キーシク氏の「インサイド・アーチェリー」で最も違和感を覚え、数多くの誤訳・誤字など
    、理論そのものを疑うことになった最たるものが、角運動量でした。理系の私にとってそんな運動が存在する訳がなく、貴殿が訳したように「回転運動」を伴った運動ではないかと長年考えてきました。これからじっくり拝読させていただきます。楽しみです。

  2. 誤訳・誤字は自分もしょっちゅうなので責めることはできませんが、単純に、日本語として、それ通じます?というレベルのものを出版する当たりは少し違う気がします。読んでいただいて意見いただけたら幸いです。

  3. 貴殿の翻訳(新解釈)した記事は、KSL理論をコンパクトかつ平易にまとめたもので、大変わかりやすい内容になっているのではないかと思います。リー氏がKSL理論という“新しい概念”で(アーチェリーを)説明しようとしているのであれば、そこに含まれる新しい概念に新たな名称をつけることは何ら問題はないと思います。ただそれが「角運動」では・・・。それ(angular motion)を直訳しただけでは、その理論を説明できていないと思います。かつてのバックテンションみたいなものでしょうかね・・・。
    前置きが長くなりましたが、翻訳記事について、KSL理論の内容(記事の内容)自体はリー氏に伺ってみなければわからないと思いますが、誤記と思われるものと、意味不明(私の理解不足ですが)などを。
    1. スタンス
    後半、「かかと側に重心を置いて立っていて、不安です。」 この“不安”は“不安定”では?
    また、「胸(胸骨)は、・・・”低く保つ”必要があります。」 この”低く保つ”とは何に対して低く?
    6.ドローイング
    前半、「ひじの位置も“ヤバ役”正しい・・・」 の“ヤバ役”とは?
    7.アンカーリング
    後半、「一定した「ノックから”見まで“の位置」を・・・」 の”見まで“とは?
    9.エイミング & 伸び合い
    前半、「“浮かんいる(float)”」
    中段の(小さな動き)と(大きな動き)の説明はこれで正しいですか?
    12.リラックスとフィードバック
    前半、「・・・、“続くの”ショットで・・・

    重箱の隅を突っつくような指摘で失礼しました。

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