弾弓について、近代の使用などの情報を追加するものです。弾弓自体に関しては、前回の記事をご確認ください。
前回、弾弓についての記事を書きましたが、調べていくにつれて、弾弓の研究が少ないこと、その理由として、2000年前の弓、弦やスリングがセットで出土することはまずなく、弾(石・陶)や鏃は出土することが多いこと、そして、考古学者は往々にして、鏃は弓の存在の証であり、弾はスリングの存在と結びつけたがり、その他の可能性を考慮しません。そこで現代まで続く弾弓の記録をまとめてみることにしました。
これはトップの写真と同じ場面を描いた中国の皿(美術館提供の画像の解像が低い…)ですが、中国の戦国時代(紀元前5世紀〜紀元前3世紀頃)に成立したとされる春秋左氏伝の一場面です。
霊光は不徳であった。物見櫓の上から石を弾いて、下を通る者が慌てて避けるのに興じたりした。
常石茂 著『新・春秋左氏伝物語』,河出書房新社,1958.P.170
まぁ、とんでもない王様なわけですが、不名誉なことに「石を弾く」という表現はこれが最古で、当時の道具を考慮すると、弓で弾いていたと考えられています。その1000年後に唐か、唐の物を模した正倉院の弾弓が日本に伝わっていますし、その後、14世紀に書かれた大元聖政国朝典章(政治書)では弾弓規制に触れており、
都城の小民、弾弓を作り及び執る者は、杖打ち77回、その家の財の半を没す。
梅原郁,(訳註)中国近世刑法志(下),創文社
と、都市住民には弾弓の所持を禁止することが書かれており、この時代でも平民に用いられていたことがわかります。実は20世紀に入り、中国で弾弓の一大ブームが起こるのですが、それは後半に。
この本は16世紀のはじめにドイツで書かれた技術書ですが、ここには弾弓が描かれています。5世紀までの状況についての資料は全くありませんが、多くの学者はヨーロッパでは弾(玉)を飛ばす手段としては、弓ではなく、スリングであったと考えています。この状況が変わっていくのは権力者の領地に対する所有の概念の変化で、国は領地は王の所有物であり、そこに生息する動物もまた王の所有物であり、庶民に対する狩猟規制が導入され始めます。
庶民は当然のような反発して密猟をはじめますが、大型の狩猟具は見つかる可能性が高いので選択されないようになり、小型の罠など密猟に適した狩猟具が選ばれるようになっていきます1。
一方で、(日本の戦国時代の)戦後に武士の間で火縄銃が実用品から贅沢品に変化してように、ヨーロッパ貴族の間でも狩猟用具は豪華なものに変化していきます。クロスボウも弾弓(弾弩弓*)として再デザインされ、貴族にふさわしい装飾が施されるようになります。
*弾弩弓って…「弾」「弩」「弓」3つとも単体で弓という意味あるよ…
用途としては、鴨やうさぎのような鳥・小動物に用いられたようです。現代でもスリングの一種として、弾弓タイプのクロスボウは規制されていないので、どこかで使用されているかもしれません。このタイプのクロスボウは日本でも規制対象ではない可能性が高いです。
では、中国はどうだったかというは写真は20世紀前半の近代中国弾弓(写真はオークションサイトより)ですが、戦後一大ブームになります。
戦後、中国の毛沢東が四害駆除運動として雀の駆除を指示し、そのガイドブックの中で、弩、及び、弾弓が推奨されたことから、中国におけるこれらの需要が一気に高まります。中国の研究者Stephen Selbyが当時を知る弓職人にインタビューした記事では、職人は匿名を条件に雀の駆除運動によって一気に需要が高まり、しかし、その3年後に雀が実は昆虫も食べていたことが毛沢東にも理解され、生態系が著しく変化したことで、1000万以上が餓死する事態になり、もはや、雀を駆除するどころではなく、ソ連から25万羽輸入する事態になったことで、当然弓に対する特需はなくなり、現在に至るとのことです4。
このインタビューがされた1999年には北京に7つの弓職人店があったようですが、現在ではどうなっているのでしょうか? 戦前に中国で弾弓を購入した研究者の方も何人かいるそうなので、探せばどっかにあるのかな。続く。
- Almond Richard, Medieval Hunting, 2003 ↩︎
- Baillie-Grohman, William A. (William Adolph), Sport in art; an iconography of sport during four hundred years from the beginning of the fifteenth of the end of the eighteenth centuries.1913 ↩︎
- 除害灭病爱国卫生运动手册 (中央爱国卫生运动委员会办公室), 1959,北京 ↩︎
- https://www.atarn.org/chinese/juyuan/juyuan.htm ↩︎