フェイスブックで「純国産アーチェリー開発 下町ボブスレーの敵討ちだ(日刊スポーツ)」という記事を目にしました。写真は引用せず、記録のため文面は最後に引用します。リンクが生きている間はリンクで読んでください。
さて、国産アーチェリー(ハンドル)の問題点に関してはこれまで何度も書いてきました。また、下町ボブスレーに関しても記事を書きました。
問題ばかりを書いて、批判だけしていても仕方ないので、「下町ボブスレーの敵討ち」をするため、今回は提言をいくつかしたいと思っています。いずれにしても、「使うか」「使わない」で2020年には結果が出る話ですので、この記事に関しては、このまま内容修正せず、2020年の東京オリンピックで答え合わせしたいと思います。
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1.開発方針を改める
まず、記事によれば、”外国製に関しては愛好者からは「作りが粗い。細やかさがない」などの不満が耳に入る。”とありますが、その通りです。それを日本企業が作れば、作りが繊細で細かいものができるかもしれません。しかし、そもそもアーチャーはそれを求めているのか考えていただきたい。バリがあっても、タップが切られていなくとも、グリップの裏など見えないところの塗装が適当でも、「愛好家」はともかく、トップアーチャーはそんなところを気にはしていません。
ハンドルに限って言えば、ジオメトリ、アライメント、重量配置、ダンピング設計、グリップの形状・その加工可能性、全体での安定性などが評価のポイントとなるところであり、もし、国産ハンドルを作るのであれば、その部分でのアイデアが必要であり、特に一番重要なジオメトリに関しては、シンポジウムで一切言及されていなかったのですが、そのまま、ホイットのものをパクることにならないことを願っています。
「かつてアーチェリーを製造したメーカーに勤めていた技術者」がプロジェクトに関わっているということなので、かなり安心しましたが、例えば、実績あるGMXのホイットのジオメトリと重量配置をそのままに、リム接合部分だけを改良して、プランジーホール上下できるというのでは…期待しています。
もう一点、中小企業としてアーチェリーのマーケットなら挑戦できるという発言がありましたが、プロジャクトメンバーのスケール観には大きな疑問を抱いています。たとえば、今年のATA(主にアメリカのプロショップと大手代理店が集まるイベント)には、10000人近くの関係者が集まりました。
>国内の競技人口は約6万人も、海外は約600万人。
この調査が何をベースとしてたものかはわかりませんが、アメリカ合衆国魚類野生生物局の2016年の調査によれば、ターゲットアーチェリー(非オリンピックスタイルのコンパウンドボウとベアボウを含む)はアメリカだけでも1240万人です。もちろん、全員がオリンピックスタイルではありませんが、道具を製造している会社はほぼ共通しています。
ほかのATAの調査を合わせると、少なくとも、アメリカだけでも、アーチェリーのマーケットは2,000億以上にはなると考えています。この数値は国内だけで3,000億近いゴルフのマーケットには及ばないものの、恐らく、国産アーチェリーの開発している方々の想像よりもアーチェリーマーケットは巨大です。開発からマーケティングまで多くの資金が投入されているのです。
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The Survey estimates that 12.4 million people 6 years old and older used archery equipment recreationally in 2015. Most of them, 9.8 million, or 79% were 16 years old and older. The remaining 2.6 million, or 21% were 6 to 15-years-old.
(The preliminary report of the 2016 National Survey of Fishing, Hunting, and Wildlife-Associated Recreation より)
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2.行動する
ボブスレーの例からわかりように、彼らの最大の問題点は「ジャマイカ」でしょう。メイド・イン・ジャパンなのに、なぜ、国内チームに使ってもらえないのか、なぜ、日本の連盟と協力できないのか。国内選手に使ってもらえるかは、現状完成していないので、何とも言えなくとも、今からでも、全日本アーチェリー連盟や選手とのパイプ作りを開始するべきです。
担当者と連絡を取り、例えば、試作品とパンプレットだけでも持って、今年の全日本ターゲット選手権に、国体に、全日室内にブースを出店して、全ア連と現役のトップ選手と関係を持つ。完成してから、それを2019年の全日本ターゲットでやっても遅すぎるのは自明です。同時進行ですぐにでも、連盟との関係づくりを始めるべきでしょう。
また、マスコミという点でも、行動がずれていると感じます。今回は日刊スポーツさん、確か、会場では日本工業新聞さん、そして、NHKさん。どれも立派ですが、アーチェリーをやるのであれば、まずは、雑誌アーチェリーさんを招待して(*)、取材してもらうのが先決ではないでしょうか。だって、アーチェリーなのですから。
その他、シンポジウム・イベントには、経済産業省や東京都中小企業振興公社、江戸川区生活振興部の方を招待するより、現役のアーチャー、有名なチームでコーチ・指導にかかわっている方、競技団体の監督さんなどを招待するほうがよっぽど今後にとって大事だと思います。
*自分が知る限りではシンポジウムには招待されていなかった
3.自腹を切る
参加している補助事業を見る限り、おおよそ、税金は1000万円弱投入されているように見えます。その是非はともかく、正直言って本気でトップ選手に使ってもらおうと思うのであれば、全然足りません。後発なのですから、今のホイット(および販売店)の営業や、ウィンジャパンの営業の方のかけている費用を考える、本気で使って思おうと思うなら、全国各地を飛び回り、関係作り等々、相当な出費、自腹を切ることとなります。
開発して、展示して終わりが「ものづくり」であればともかく、営業して、使ってもらい、選手に帯同してメンテナンス・サポートするまでが「ものづくり」なら、かなりの出費になります。その覚悟が最終的には問われるのではないでしょうか。
頑張って下さい。
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(ここから)
下町ボブスレーのリベンジを図る。東京の下町、江戸川区の町工場の社長たちが純国産アーチェリー弓具の開発に取り組む。プロジェクトリーダーで金属加工を手掛ける西川精機製作所の西川喜久社長(52)は20年東京五輪での採用、その後の一般販売、事業化を目指す。2月の平昌五輪で、下町ボブスレーは2大会連続の不採用に終わった。自国開催の五輪では、今度こそ、日本のものづくりの質の高さをアピールする。【田口潤】
きっかけは江戸川区の広報紙だった。10年前、西川精機製作所の西川社長は紙面の片隅に「アーチェリー初心者講習会」の文字を目にする。子供時代から弓矢に興味があり、いつかアーチェリーをやってみたいとの思いがあった。すぐに申し込んで体験すると、魅力にはまった。休日は区内の競技場に通うようになった。
すると、そこはものづくりの職人。「アーチェリーを見れば見るほど、自分で作ってみたい」との衝動に駆られ出す。現在製造するメーカーは米国と韓国の2社が占めている。かつてはヤマハなども製造していたが、10年以上前に日本企業は完全撤退。外国製に関しては愛好者からは「作りが粗い。細やかさがない」などの不満が耳に入る。「うちは機械屋。作ってみよう」と決断した。
5年前、まずは12分の1のミニチュアサイズのものを作製してみた。仕事の後、図面を書き、レーザーを使いながら約1カ月で完成。熱意に共鳴した愛好家からは、かつてアーチェリーを製造したメーカーに勤めていた技術者を紹介された。今は違う仕事に従事しているものの、アーチェリー作りの情熱を持続している人物。部位の寸法、位置など、設計技術を学び、研究した。ちょうど、その頃、東京五輪招致が決まった。
当初、アーチェリー製造はライフワークだったが、20年東京五輪の夢も加わった。自然と熱が入る。昨年からは同区内の中小企業とプロジェクトを結成。ネジ1本のミリ単位の調整を進め、同年9月には試作品第1号を完成させた。今後も改良を進め、東京五輪前年の来年には、最終形を完成させる計画だ。
夢は広がる。国内の競技人口は約6万人も、海外は約600万人。東京五輪で採用され、その後は大量生産し、事業化していくことが最終目標になる。「アーチェリーを製造する唯一の地域が江戸川区。アーチェリー村となれば、地域創成にもつながる。東京五輪で、日本代表選手に使っていただき、事業化となることが理想になる」。
今年からは東京都の経営革新計画承認支援事業としても認められ、アーチェリー製造は本業になった。「毎日のように壁にぶつかり、試行錯誤の連続だが、とにかく日本製の本物の一品をつくりたい」。下町ボブスレーは2度の五輪に挑戦も失敗した。道程は簡単ではないが、日本のものづくりの強みを世界に発信するためにも、東京五輪という大舞台のチャンスを射止める。
(以下省略)