コンパウンド向けイーストンシャフトの選択方法の変更

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イーストンのシャフトセレクトチャートが更新されました。毎年若干の修正と、新しいシャフトが追加されるだけですが、今年はコンパウンド用のチャートが大幅に変更になり、最新のモデルに対応するようになりました。

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2013年までのチャートは、何年続いたかわからない「-210fps」「211-230」「231fps-」というカテゴリーでしたが、ハイスピードモデルで360fps以上、競技用モデルで320fps前後、2万円台のエントリーモデルでも260-70fpsという時代には全く合わないものでした。

そのカテゴライズがついに時代に適合したものに修正されました。新しいカテゴリーは

「-275fps」
「270-300fps」
「301-340fps」
「340-350fps」
「350fps-」

という5つになり、現行モデルのスピードにあったカテゴリーに修正されました。

「340-350fps」と「350fps-」に関しては、「301-340fps」でボックス番号を計算し、「340-350fps」なら、その番号に1を足す、T8ならT9で選択し、「350fps-」なら、その番号にさらに1を足して、T8ならT10を参照することで適切なスパインのシャフトを知ることができます。

最新のチャートでシャフトを選択することをお勧めします。

リカーブでは大きな変更はないです。


極細原糸フューリー(FURY)が発表されました。

Fury

BCYからは、2014年モデルとしてBCY-Xが発表されましたが、ブローネル(Brownell)から、11月ごろからテストが進んでいる極細の原糸、フューリー(FURY:猛威)という原糸が、2014年に正式に販売が開始されることが発表されました。

8125Gなどのダイニーマ弦は14本程度、8190弦は18-20本弦程度でイーストンのノックSサイズ(0.88インチ)にフィットしますが、このFURYは22-24本弦で完成弦を作る必要があるそうです。コンパウンド弦では32本が推薦されています。現在競技用原糸の中で、最も細い8190よりも、15%程度細いと予想されています(28本束ねて0.83インチになるそうです)。

“I can confidently say that the Fury is one of the best materials we at Brownell have ever produced”

ブローネルからは、今まで製造した原糸の中でも最高のものだというメッセージが出ていますので、テストを楽しみにしています。1-2月にテスト用の原糸が入荷する予定です。これだけ細いと、5色混合弦でも製造可能になる気がします。


矢のディンプル効果がついにターゲットの世界に

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↑下記論文より引用

アーチェリーとディンプル効果についてご存知でしょうか。ディンプル効果とは、物体の表面にディンプル(くぼみ)を設けることで、より遅い速度で空気を乱れさせる(乱気流を発生させる)効果のことを指しています。

ディンプル効果が、結果として、どのようなメリットをもたらすかは、運動の状態によって違います。例えば、回転するゴルフボールでは飛距離が伸びるそうです。

アーチェリー業界ではどうかというと、2009年にディンプル効果により、横からの力から受ける力を低減することができるというレポートが発表されました。ポイントは、この実験が矢のような低速で動くものにも働くことを証明したことです。

Side Force Suppression by Dimples on Ogive-Cylinder Body(英語 – PDF)
http://www.texasarchery.org/Documents/Dimples/Side%20Force%20Suppression%20by%20Dimples%20on%20Ogive-Cylinder%20Body.pdf

横からの力ということで、さっそく2011年にはFUSEがスタビライザーにディンプルをスタビライザーに設けることで、横からの力(横風)から受ける影響を低減するカーボンブレードESスタビライザーを発表し、ある程度の支持を得ました。

NAP-Crossfire

アーチェリーにおけるディンプル効果がはっきりと実証される前に、アメリカのNAPアーチェリーが、おそらく経験則によって、矢のポイントにディンプルを設けることで、矢飛びをよくするというポイントを開発しました。

詳しくは時間ある時に読んでみようと思いますが、NAPは矢におけるディンプル設計の特許を持っていると主張しています(*)。

*原文 : The one-piece cartridge is packed with features starting with patented dimpling, similar to that on a golf ball, which prevents air from “Sticking” to the cartridge that in turn provides increased flight control.

コンパウンドから発射される、特にポイントの重いブロードヘッドにおいては、矢のポイントが左右に触れながら飛んでいくパラドックス運動を大きく考慮する必要はなく、矢はほぼまっすぐ飛び出します。

対して、ターゲット競技ではそれほど簡単な話ではないので、なかなかディンプル効果を利用した商品は登場しませんでしたが、いつに、ターゲット用のディンプルポイントが登場しました。

dimplespointイタリアメーカーのポイントです。メーカーの説明書がイタリア語で残念ながら読めません…。申し訳ございません。素材はイーストンの純正ポイントと同じステンレスですが、価格は約3倍です。

メーカー商品説明書
http://www.texasarchery.org/Documents/Dimples/Punta%20al%20vivo.pdf

少し前から販売されていて(確か2011年)、ちょっと不具合があり、一度マーケットから消えましたが、マイナーチェンジして再登場するそうです。よりパラドックスの大きいリカーブでの実績はほぼないですが、パラドックスの影響をほぼ受けないコンパウンド競技では使用アーチャーが国内記録を塗り替えるなどの実績を残しているそうです。

mike5コンパウンド用のみとしての取り扱いで現在検討中です。


WIN&WINが正式に自転車のフレームに参入

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作っているとは聞いていましたが、正式に自転車のフレームの販売に参入するようです。

INNO MAX/INNO CXTハンドルなどのカーボンハンドルの製造に使用されている技術を転用して、フルカーボンフレームの製造販売を始めるようです。

自転車のカーボンフレームのことはよくわからないですが、カーボンシャフトを製造するイーストンなども技術を転用してカーボンフレームを作っているので、相性は良いのでしょう。

カーボンハンドルでは圧倒的なシェアを持つ本業のアーチェリーとの相乗効果を願いします。


TopHat X7用ブレークオフポイント

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取扱開始しましたTopHatのX7用ブレークオフポイント。

極小の10点めがけて大口径の矢を放り込んでいきますが、その肝心な矢を構築するのに僅かなシャフトの番手と数種類の重さのポイントのみで、様々な引き尺やドローウエイトをカバーするのにはなかなかの経験と勘が必要で、今でも多くの選手の悩みの種だと思います。

そんな悩みを少しでも解消するには、いくつものパターンを試す事が重要になってきます。かといって高価なワンピースポイントをじゃんじゃん試すのは費用面においてあまり現実的ではありません。

そこで、このTopHatの出番です。

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上は(2315用)3段ブレークオフ、下が(2314用)2段ブレークオフ。

3段のブレイクオフは、1個当たり15グレイン、2段は1個当たり20グレイン。

径が大きいためにブレイクオフするためには、少々手間取りますが、安全に作業を行うためにはプライヤーを2丁用意しましょう。

*ポイントの外径は約8.2~3mmなので、一般的なペンチやラジオペンチでは安全・確実に挟むことが困難です。写真の形状のプライヤーの使用をお勧めします。

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プライヤーのアゴにしっかりとはさみ、もう一方のプライヤーでオフする部分をガッチリつかみ、力をかける向きに注意しなが・・・・・

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ポキッ

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少々の力が必要ですが、2丁のプライヤーを使用すればきれいに折ることが出来ます。

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切断面はこんな感じです。イーストンのブレークオフポイントのように折った後の“バリ”を気にするようなことはほとんどありません。

すっきりと折れてくれます。ただし、切断面は結構鋭利な角度になりますので、指先や手を怪我しないように十分注意してください。

ちなみに全てを折ると、インサートされる部分の長さは約24mm~26mm。そして折られた部分の長さは約5mm~7mm。ポイントの先端(外に出ている部分)が約14mm~17mm。となっています。

現在はX7用の販売ですが近々FATBOY用も取扱い開始致します。

色々とお悩みの方はぜひ一度試してみてください!!

 

 


ホイットのクアトロリム 評価テスト その1 - 設計と矢速

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ホイット(HOYT)のクアトロ(Quattro)リムが入荷しましたので、本日テストを行いました。その1です。

SONY DSCこのリムの売りは対F7リム比で40%も剛性が向上し、安定性が向上したこと…とカタログに書かれています。これに関しては、明日、再度テストし、その2に書きますので、本日、それ以外の話です。

リムにはSPEED(スピード)とも書かれています。剛性が向上し、スピードも向上していたら、かなりすごい事ですが、カタログを見ると、矢速も向上しているとは書かれていません。

IMG_20131112_120615ということで、まずは矢速をF7と比較しました。

結果は下記の通りです。

F7リム : 202.62fps

クアトロリム : 202.02fps

と2012年に登場したF7リムのほうが矢速が速いという驚くべき結果になりました。わずかな差ですが、およそ1ポンドで2fpsほど矢速が変わるので、0.3ポンドほどF7のほうが矢速が速いということになります。

*初速を計測。5射平均値。HPX25インチハンドル、8190弦(105.4gr)、X10 550(312gr)、実質42.0ポンド、ティラー差5mm、ハイト8.5インチ、ATA28インチ引き、イーストンの矢速計による計測。F7・クアトロいずれもMサイズのフォームコアリム。68インチ。バランスのため、センタースタビライザーのみ装着。シューティングマシンによるリリーサーリリース。

 

なぜ、F7リムのほうが矢速が速いという結果になったのかというと、リムの重さが全く違うからです。

F7リム(M38) : 383グラム(上リム191、下リム192)

クアトロリム(M38) : 415グラム(上リム207、下リム208)

とF7リムと比べて、8%もリムが重くなってしまっているのです。それでも、ほぼ同じだけの矢速を達成しているので、設計としては悪くないと思いますが、アーチャーが体感する矢速という点では、クアトロリムに変えて、矢速が上がったと思うことはないでしょう。その分、引きは柔らかくなり、触っただけでも、ねじれ剛性がかなり向上しているのがわかります。具体的な数値は明日に計測する予定ですが、今回のクアトロリムは重く・矢速が向上しなくても、剛性と安定性を重視したリムになっているといえます。

F7リムという軽く矢速が速いリムが登場した時には、多くのアーチャーがW&Wのリムっぽいという感想を抱きましたが、クアトロリムで矢速よりも安定性を重視した創業者ホイット氏の信念に回帰したリムといえます。

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細かい部分を見ていくと、リムチップまわりはF7リムと同じです。写真はともにクアトロリムのほうが左、右がF7リムですが大きな違いはありません。

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少しわかり辛いですが、上の写真の左側の手前がクアトロリムで、奥がF7リム。写真右の奥がF7リムで、手前が990TX(F4)リムです。リムチップを真横から撮影したものです。今回もリムのカーブはほぼ同じですが、新しいリムになるたびに、わずかにリムチップのカーブが強調されて、立ち上がってきているのがわかるかと思います。

 

SONY DSC多くのディーラーからクレームが上がっているリムロッドを取り付けるブッシングのすき間に関しては、改善がなされなかったのは残念です。弊社ではこのすき間が原因での故障、リムロッドブッシング交換・修理が3件発生しています。金具を変えてブッシングとリムの接する面しっかり密着させるというだけの話だと思うのですが…。その方が振動吸収性も向上するので、2015年に期待というところでしょうか。

SONY DSC改善がなされたという点では、リムとポルトの接合部の設計がW&Wと同じになりました。トラブルが発生してから、シールを貼ってみたり、リムボルト側の素材を変更してみたりしましたが、INNO EXシリーズのような設計が、結局このタイプが一番リムが安定すると思います。

次回に続く…


HMC 22 のエクステンダーだけについてのレビュー

HMC22のレビューですが、2回に分けます。まずは、前半です。届いたロッドをテストしましたが…HMC+が十分にいいロッドで困りました。
現在、テスト用の弓は「INNO MAX + INNO EX POWER 42ポンド+ HMC PLUSのセンター・サイド + CX2 Vバー + ブラックマックス(終売品)エクステンダー」というものですが、このセッティングで十分に振動吸収がなされており、HMC22の良さを理解することが困難です…。
ということで、これまでメーカーの人との話を振り返れば、HMC 22の一番の目的はコンパウンドでも使用できる高い剛性を持つロッド、ライバルはこれまでのイーストンやFIVICSではなく、ドインカーのプラチナムシリーズやB-stingerを想定した設定になっています。
と考えれば、42ポンドの弓では振動吸収能力の違いを感じ取るのが困難かもしれません(ロッドの重さが違うので、シューティング感が違うことは容易にわかります)。
低いポンドでは、HMC+がおすすめなのは明白ですが、低いポンドだけではなく、30ポンド台後半まではHMC+の方がよいと思います。(セットとしての)HMC22が選択肢に入ってくるのは、明らかに40ポンド以上です。
その話はもう少し煮詰めて、コンパウンドでもテストしてから、今度書きます。
ここからはエクステンダーの話です。セットとして…つまり、センター・サイド・エクステンダーでHMC22の良さが分かるのは40ポンド以上ですが、エクステンダーだけであれば、一般的なポンドでもお勧めできます。

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以前、WIN&WINが販売していたエキスパートというハンドルです。構造的にはとても興味深いハンドルでした。今年、HOYTが同じようなコンセプトのハンドルを作っているので、時代を先取りしすぎていたといっていいかもしれません。
*カーボンとアルミの接合部が剥離するというトラブルも抱えていました。
昔のアメリカの資料を読むと、”愛機”という概念があり、それを使って、ターゲット、フィールド、ベア、ハンティング…すべてのことを1本の弓でこなしていました。
そのため、良いハンドルに求められていたのはオールマイティな性能でした。一昔前までのハンドルはスタビライザーなしでもうてるように設計され、あらゆるセッティングで一定の性能が出るようになっています。
しかし、現在では、というよりも、本当に近年ですが、より特化された設計が増えています。ベア用のハンドル(スピギャなど)、ハンティング用のハンドル(WINのRCX-17やHOYTのバッファロー)など、設計を特化することで性能を高めたハンドルが増えています。
2013年にホイットが出したプロコンプエリートはとてもスタビライザーなしでうてるようなモデルではありません。このハンドルは重いセンターと合わせて使用する前提で開発されています。しかし、そもそもユーザーがセンタースタビライザーなしで、このターゲット競技用として販売されている弓を射つことがあるのかと考えれば、そのようなことはまずないと思われるので、スタビライザーなしでもうてる配慮を”しない”事で、ハンドルの性能を引き上げています。実際、今行われているワールドカップでのこの弓のシェアはかなりのものになっています。
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エキスパートハンドル。ほとんどのアーチャーはエクステンダーを使用していますので、エクステンダーを込みで、エクステンダーありきで、ハンドル(弓)というものを考えた時、このデザインはその一つの答えとしてありだと思います。ちなみに、設計としては大変挑戦的ですが、個人的には保守的な設計が好きなので、テスト以外で使用はしませんでした。
記憶が正しければ、この出っ張っている部分は3~3.5インチのエクステンダーに相当します。逆テック構造で、上下からエクステンダー部分をサポートし、振動吸収と左右方向のブレを減少させ、飛び出しがよくなります。まぁ、写真通り、かなり前重心になるのでその面でも飛び出しは抜群でした。
奇抜なデザインだったためか、2年ちょっとで販売が終了してしまいましたが、記憶に残るハンドルの一つです。
このハンドルの設計に限らず、ハンドルからエクステンダーまでは1つの固体(以前な書いたソリッドなフィーリングで)として使用したいというお客様の要望は常にあります。たくさんのアーチェリー用品に出会える立場だからか、終売品にもかかわらず、当店のスタッフでX10スタビライザー(旧モデル)とブラックマックスを使用している人間が一人ずついます…。。
今でも問い合わせが来ることもあります。どちらも、5~6年前には生産が終了しているモデルであるにもかかわらずです。
これらのモデルに続く商品として、HMC22のエクステンダーは期待できるのではないかと思っています。全部HMC22でそろえるのは高ポンドでないと、メリットを実感しづらくても、エクステンダーだけHMC22にすることで、ソリッドなフィーリングを得ることは可能です。
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左はHMC+、右がHMC22です。カタログ値では7%の違いですが、ブッシングを比べるとかなり太いです。
重さですが、
・HMC + 5インチ 68g
・HMC 22 5インチ 86g
*ブラックマックス 5.5インチ 70g
でした。公式にHMC+と比べて、どの程度多くカーボンを使用しているかは公表されていませんが(形から計算すると17%増です)、カーボンの使用量はかなり増えていると思われます。また、重さはロッドのカーボン使用量の増加に伴うものです。
これは、生産が終了した(まだ在庫はあります)HMCとの比較でもわかります。
・5インチエクステンダー(ブッシング + 5インチロッド + ブッシング)
-HMC 100g
-HMC 22 86g
・28インチセンター(ブッシング + 28インチロッド + ブッシング)
-HMC 160g
-HMC 22 177g
ロッドよりもブッシングの重さが大きいエクステンダーではHMCの方が重いですが、ロッドの方がブッシングよりも重くなるセンターではHMC22の方が重いです。発売当時は革新的なスタビライザーだったHMCも、今では、ブッシングばかりが重いロッドになってしまっています…技術の進化恐るべし…。。。
HMC 22をエクステンダーに使うことで、(たぶん2005年あたりから)主流になりつつあるソリッドな感覚を体験することができ、かつ、重さもHMC+比で15gほど、HMCからの乗り換えであれば、逆に軽くなります。
ポンドが低いお客様でトータルでスタビライザーの剛性高くしすぎると、逆に振動が増してしまうことがあります。クラブ等に所属されているのであれば、高性能の剛性の高いスタビライザーを16~20ポンドのウッド・樹脂ハンドルにつけて射って見る事で、どういった現象か知ることができます。ただ、エクステンダーだけ剛性を高くすれば、振動は相対的な柔らかいセンターロッド・サイドロッドに逃げていきますので、さらにその先により柔らかいタンパーがあれば、振動が逆に増えてしまう状態になる可能性はかなり低いです。軽いポンドのお客様には、まず、エクステンダーのみで試してみることをお勧めします。
…本日はここまで、明日、コンパウンドなどでもテストし、センター・サイドについての後半部分書きたいと思います。


雑誌アーチェリー…1995年という節目…メーカーさんごめんない。

2010年の1月から、3年かけて、雑誌アーチェリーのバックナンバーをすべて読み返しています。本日、1997年まで読み、2001年からはリアルタイムで読んでいるので、もう少しです。
本日は図書館で5時間かけて、1989年から1997年まで読みました。以前にこんな記事を書いた時に、コメント欄に1995年を節目に、雑誌アーチェリーが変わったというコメントありました。
いつから雑誌アーチェリーは沈黙したのか(70号~91号)
http://jparchery.blog62.fc2.com/blog-entry-498.html

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現在の雑誌アーチェリーは試合の写真集とアーチェリーショップで商売している人間が書いた記事ばかりですが、昔の雑誌アーチェリーはなかなか、キレのある雑誌で、ものを言う雑誌でした。
上の写真は91年の7月号です。当時の学連を知らないので記事の内容についてはコメントできませんが、特定の大学に対する意見申し立てで、今の雑誌アーチェリーでは絶対載せないような内容です。
雑誌アーチェリーが口を閉ざすきっかけとなった記事はどうなものだったのか、いろいろと予想を立てて、本日、初めて読みました。

>1995年の3・5月号ですね。
>僕もこの記事を見て、スタビライザーをイーストンに変えて正解だったと思っています。
>スキーに関しても、いろいろなメーカーの板やブーツを、でもスキーヤーなどが評価しているのをみると、
>アーチェリーメーカーの商品をアーチャーが評価するのは何も問題ないと思います。
>ただ、世界が小さいせいか、どうしてもお互いが気になって正しいことが書けるかどうか…
>ただ、技術的にしっかりしている人間が評価をするのであれば、とても面白い特集ができるだろうし、
>別冊として出しても売れそうではあると思います。
上のようなコメントをいただいていましたので、道具を評価したら、悪い評価がついたメーカーから、クレームがついたのか(つまり、メーカーがクレーマーだった)のかと思っていましたが、読んでみると全く違っていました。

流れを整理します。
(1995年3月号) 
感性の科学という弓具研究の記事がスタート。執筆者不明(監修は弓具科学研究班…誰?)。趣旨は弓具の進化は、行き着くところに行きついた、今後はもうスペックではない、感性が求められる時代だから、感性について語るというものすごい野心的なもの。
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しかし、記事の中身は…間違っていないけど、完全にずれている。記事の中身は「スタビライザーの理想形とは」について書いているのに、最後にいきなり、上の図が掲載されている。でたらめな記事なので、比較された商品名は省きますが、イーストン、エンゼル、ヤマハ、K、Kプロ、シブヤ、ハスコという7社9モデルでした。
本当に載っているのはこの図だけ…何ポンドでテストしたのか、だれがテストしたのか、長さはそろえたのか、重さを、それとも、みんなトップウェイト1つだと、ウェイトの数をそろえたのか…何一つ根拠が乗っていません。さらに次号で訂正のデータが出るのですが、重さ157gでテストしたイーストンのロッドの軽さが二重丸で、105gでテストしたエンゼルのロッドの重さを丸、150gのヤマハのロッドは三角印…いったい何を基準に評価したのか、軽さ…重さという意味以外にどういう評価基準があるのかわかりませんが…謎すぎます。
これは完全にクレームをつけたメーカーの問題ではなく、記事を書いた人間の問題です。
このグラフ以外の記事は「理想のスタビライザー」についてです。例えば、その結論が「振動吸収」だったとすると、次のステップは、何を持って振動とするかです。以前に書いた比較記事では、センサーはグリップに付けました。結論は振動が30%減ったというものですが、つまり、グリップ(=体に伝わる振動)と定義して計測しています。発射音の一つの発生源はリムポケットです。おそらくですが、ここにセンサーをつければ、振動は30%減っているか疑問です。
振動吸収を比較するのであれば、まずは何を持って振動とするかを定義しなければなりません。その次は、どのように測定したかを記録します。第三者機関に依頼した場合は、必要ないかもしれませんが、自分でやるなら、他人が追試できるようにする責任があります。
そうしてようやく、点数付して、上のような表を作るものです。
しかし、この記事では、スタビライザーの理想形をたかった後は、用語の定義(何を持って振動吸収とするか)と試験のやり方(どのようにすれば記事が正しいと確認できるか)を全部すっ飛ばして、自分の結果だけを載せています。
(1995年5月号)
冒頭、謝罪から始まります。
「前回、掲載した「各社カーボンセンターロッド比較表」にいくつかの誤りがあった。硬さ、軽さ、振動吸収、経済性の4項目に分け、それぞれに「◎」「○」「△」の3段階評価をしたが、その評価基準があいまいで、中には事実と完全に異なる評価もいくつかあった。」
(雑誌アーチェリー 1995年5月号)
その後謝罪だけではなく、けじめとして、長野県工業試験場にテストを依頼…しかし、ここがまた素人でダメなのだが…高価な機械を使ってスタビライザーのテストをします。また、日本バイメタルさんは辞退したので、テストしないとのこと(商品提供を受けているから?)。
長野県の試験場の風間さん(アーチェリーの素人)はかなり努力したと思うが…なんの実験をしているのかわからない。ハイスピードカメラで商品のテストをするとき大事なのは、どこに絵に収めるか、どのシャッタースピードで収録するか、どこにピントを合わせるかである。プロのカメラマンはカメラについては、プロでもアーチェリーを知らなければ、正しいテストができない。レンズ合わせのテストで撮ってもらうとき…たいていのカメラマンはなぜか、弓を射つ僕にピントを合わせる…弓具テストなので…レストに合わせてください…。。。
さて、長野県工業試験場のテストが意味をなさないのは、振動モードごとにテストをするという不思議な設定をしたいるためです。
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(小野測器さんのホームページより引用)
振動モードというのは、スタビライザーがどのように振動するかということです。見ればわかるように一次モードのように振動するようなスタビライザーは何の役にも立たないでしょう。自由端(ウェイトがついている側)が上下に振られ、そのカウンターとなる振動がないので、その揺れはそのままハンドルに戻ります。
5月号の試験では、なぜかそれぞれのモードでの振動吸収能力を測定しています。
この測定に何の意味があるのか全くの不明です。なぜなら、(少なくとも自分の知識の範囲内で)アーチャーが振動モードをコントロールことは不可能です。
「このスタビ2次で振動してるけど、チューニングして、3次に変えて、うってみよう」
といったチューニングができるとは思いません。


以前ハイスピードカメラでFUSEのカーボンブレードの24インチ~33インチまでを撮影しましたが、すべて2次モードで振動していました。長さを変えることでコントロールできるかもという自分の淡い期待は見事に打ち砕かれました。。。
つまり、大事なのは「そのスタビライザーがどのように振動するか」(=何次モードで振動するか)であり、振動モードはある程度固有なものなのに、1次モードではA社が、2次モードではB社が、3次モードではC社が優勝とやっても…で、だれが総合優勝になるのでしょうか。。。。
風間さん、本当にご苦労様でした。
(1995年7月号)
2号続けてピントはずれの弓具評価記事(しかも、辞退したい会社は辞退できるシステムはちょっと違う気がします)で、3回目…そして、これが大きな野望を持った「感性の科学」の最終後になるのですが、構成は弓具科学研究班から、本誌編集部にかわります。
そして、記事の中身はホイットのテクミチョフさんの資料を参考にしているというもの。さすがにこの記事は何の問題もなく、いい記事ですが、今度は具体的な商品名には一度も触れられることなく、全体を通して、理想的なスタビライザーの一般論で終わります。
考えてみると、独自で資料を集めないで、メーカー・プロショップが書いた記事を使うのはこのあたりからが始まりかもしれません。それより前はアメリカ、韓国、フランス、スウェーデンなどのトップアーチャー・コーチが書いた記事が中心ですが、だんだんとトップメーカー、大手プロショップの人間が各記事がほとんどになっていきます…実業団の減少で、ショップで働いていないトップアーチャーの減少という問題もかかわっているのは思いますが。
ということで、1997年まで読み進めました。95年のこの事件以降、キレている記事はほとんどなくなります。道具についての記事は、それぞれの良い点とスペックの紹介だけになり、ハンドルやリムについての語るのは、メーカーの人間だけになっていきます。
1998~2001年はまだ読んでいません。それと、サラリーマンとして海外赴任していた2004~2005年の雑誌アーチェリーも読んでいませんが、70年代から通して読んできて、やはり、95年のこの事が”何も語らない”きっかけになったのかと思います。
(追記)
…昔に雑誌アーチェリーさんに記事を投稿したら、レベルが低い(誰でも知ってる)といわれ、却下されましたが…まぁ、いいです。


HOYTの創業者 Earl Hoyt Jr. インタビュー

以前に、WIN&WINの社長のパクさんのインタビューをブログに掲載したことがあります。2年近くたちますが、今に続くことがいろいろと書かれていると思います。
ネット上には正しい情報もあれば、正しくない情報がありますが、HOYTの創業者に関して言うと、検索するといくつか記事がありますが、どれも彼が書いた文書やインタビューを読んだ自分の印象とは全く違います。HOYTの創業者の考えに関しては、本人の著書やインタビューなど、資料が豊富にありますので、今回は4冊の本から、抜き出し、一つの記事にまとめてました。


下記はHOYTの創設者のホイット氏(Earl Hoyt Jr.)のいくつかのインタビューをつなぎ合わせて、編集したものです。ベースになった記事は、下記の4冊の本で読むことができます。
・Archery (1972) 著者 Earl Hoyt, Don Ward
・Traditional Bowyers Encyclopedia (2007) 著者 Dan Bertalan
・Vintage Bows – 1 (2011) 著者 Rick Rappe
・Legends of the longbow (1992) 著者 多数

赤字は実際のインタビューを翻訳したもの。黒字は自分の補足です。補足も論点はずれていないと思いますが、実際のホイット氏の発言は赤字だけですのでご注意ください。



Eddie Lakeから変身

1930年代のミズーリ州セントルイス…エディ・レイク(Eddie Lake)というギターリストが毎晩地元のダンスホールを盛り上げていた。彼のバンドはラジオでも有名になったが、1938年に彼のバンドは解散することになる。このエディ・レイクこそがのちのアーチェリー界に、ホイットとして記憶される偉大なイノベータである。

* Eddie Lake はホイットがラジオ局からギターリストとして響きがよくないと指摘されて使用していた芸名。

弓との出会いとアーチェリービジネス
ホイットが弓と出会った時、弓には2種類しかなかった。リカーブか、コンパウンドかではなく、「誰かが作った弓」か「自分で作った弓」かだ。ホイットのアーチェリーとの出会いは、アローポイントに始まる。学校が友人から滑らかなアローポイントを貰い、その美しい流線型のデザインに夢中になった。1925年、14歳の時にボーイスカウトのマニュアルを読んで、ヒッコリーの弓を自作した。しかし、ヒッコリーはねじれに弱く、2つ作った弓をどれもすぐにねじれてしまった。

そこで、ボーイスカウトではなく、アーチェリーの専門誌を購入して、専門の知識を仕入れることにした。「Ye Sylvan Archer」という雑誌は当時唯一のアーチェリー雑誌だった。それを購読し、そこに広告が出ていたHunting with the Bow and Arrow(1923)という購入し、そこから専門知識を学びとり、オレゴンからイチイの一枚板を購入して、初めての実用的な弓を作り始める。

*これは所謂セルフボウというもので、一枚板からできている。そのほかにバックドボウやコンポジットボウなどがある。

1931年、大恐慌の中、ホイットは父親と副業で矢づくりの仕事を始める。30代の時、景気が回復したのを受け、セントルイスのワシントン大学に通い、エンジニアリングを学ぶ。昼は大学と父親の会社の手伝い、夜はギターリストという生活を送る。

*アメリカでは社会人学生は珍しくない。

40代初頭がホイットの人生の転機だった。大学を卒業したホイットはカーティス・ライト航空のエンジニア部門(のちのマクドネル航空)に職を得ていた。しかし、父親の会社が戦争の影響で倒産したことにより、父親は矢づくりが副業から本業となる。自分も週60時間の本業をこなした後に、父親の矢づくりを手伝うようになる。
しかし、1946年に矢作り職人として多くの顧客を持っていた父親が病に倒れ、ホイットはアーチェリービジネスから手を引くか、エンジニアとしての職を辞すかの選択をすることを迫られ、彼の決断がアーチェリーの歴史を変えることとなる。

「アーチェリービジネスに舵を切ったことは、最初のうちは間違った決断だと思っていたんだ。マクドネル航空での良い仕事を離れてから最初の3、4年、アーチェリーの仕事の出来はひどかった。でも4年目から風向きが変わったんだ。それからは右肩上がりさ。その傾向はずっと続いていた。」
(Traditional Bowyers Encyclopedia P.183)

ホイットは1946~1978年までアーチェリー業界のトップを走り続けた。1978年、ホイットは会社の経営権をCML Groupに売却し、5年後の1983年に経営権はイーストンに、さらに売却された。その間、ホイットは社長から退いたものの、副社長と研究部門の責任者、コンサルタントとして、かつて、オーナーだった会社に籍を置いた。
ホイッとはアーチェリー業界団体(AMO 現ATA)の理事としても、活躍し、現在のアーチェリーの道具に関する基準(AMOスタンダード)の95%以上に関与している。

ハンターとして
ホイットはハンターでもあったが、あまり、情熱的とは言えなかった。

「あるときフレッド・ベアーと話したけど、彼は僕に言ったんだ。彼のハンティングに対する情熱は、対象が何であれ、大きな獲物を仕留めることだってね。僕は逆にそんな欲望は持ったこともなかったね。…中略…いまでは獲物を仕留めることはまったく重要ではなくなってしまった。一番大切なのはハンティングのその場にいるということなんだ。…中略…単純に僕は大自然の中で獲物を追い回すことそのものを楽しんでいるんだよ。」
(Traditional Bowyers Encyclopedia P.185-186)

*フレッド・ベアーは当時のトップメーカーBear Archeryのオーナーで、伝説的なハンター。

ロングボウの思い出
今でこそ、リカーブボウメーカーとして知られるホイットだが、彼はロングボウを作ることから始めた。ロングボウを作るとき、特にひいきしていたのは、オーセージだった。

「僕はオーセージをちょっとひいきして使っていた。すごく丈夫な木だからね。ハンティングボウには特にそうだったよ。イチイの方がより引き味が優しいシューティングボウになり、ターゲットシューティングには最適だった。でも僕がオーセージを好んで使っていたのは、それがミズーリ原産であり、丈夫で良いハンティングボウを作るのに向いていたからさ。
あとは手に入れやすかったということもある。でも、外に出てオーセージを見つけてそれを切り倒し、そこから弓を作るという単純な話でもない。山を1マイルほど下っていっても、弓を作るのに十分な均一性とまっすぐさを持っている木を見つけることは簡単ではない。何故ならオーセージは大抵曲がりくねって育ち、一枚板から作ることはほぼ不可能だ。普通は木をフィッシュテールして接ぎ合わせる。そうすれば同じ丸太から接ぎ木を取ることができるから、同じ性質を持ったウッドを両方のリムに使うことができる。」

(Traditional Bowyers Encyclopedia P.186)

現在の弓からは異様に見えるが、当時はレストがなく、シューターのこぶしに矢を載せてシューティングしていた。そのために、羽のトリミングをしっかりしないと、射ったときに、羽の筋が拳の肉をえぐって飛んでいく、しかし、アローレストとしての機能を果たしてきた、傷だらけの拳は、むしろ、ホイットには誇らしいものだったようだ。

ホイットの執務室のオーセージのロングボウの横には、古いスタティクリカーブボウがある。

*リカーブの深さにより、セミリカーブ・スタティックリカーブ・フルワーキングリカーブの3種類に分類される。

「僕はカムやスタティックリカーブから、シューティングが滑らかでより効率的なリカーブに移っていった。歴史的に見るとこの進化は比較的最近できたものだ。最初のリカーブは30年代後半に登場した。そのタイプのリカーブを最初に作ったのはビル・フォルバース(Bill Folberth)だった。彼は情熱的なアーチャーであり、イノベータであり、初めてリカーブを導入した人物だった。」
(Traditional Bowyers Encyclopedia P.188)

*Folberth Bowのオーナーで、弓のラミネートやリカーブに関する特許を持つ(US2423765)。

執務室にはほかにもいくつもの思い出深い弓がある。1947年、ホイットは初めてリムのダイナミックリムバランスを得ることに成功した。つまりは、上下のリムの長さを初めて同じにした弓を作った。昔の弓のグリップはただの棒のようなものだったが、1948年にはピストルグリップを弓に搭載した。1951年には安定性を向上させたデフレックスボウと、パフォーマンス重視のリフレックスボウの製造を開始。60代の時には、ハンドルに安定性を持たせるために、ハンドルの重さを増やすこと仕組みを開発。ウッドハンドルに穴をあけて、その中に鉛を入れるというものだ。

「あるとき僕は弓にウェイトを入れるという発想がミスだということに気がついたんだ。より伸ばした状態のウェイトがあればもっと良くなると考えた。スタビライジングの原理を説明するために僕が挙げた例は、箒を柄の端で持って、その移動への抵抗の感覚を掴むということだった。そうするととても速く動かすことはできない。でも柄の真ん中で持つと、さっきと比べて驚くほど動きへの抵抗はなくなる。これが単純な物理の法則を用いたスタビライザーの原理の説明だ。」
(Traditional Bowyers Encyclopedia P.188)

1961年、ホイットはこの原理を利用したスタビライザーが搭載された弓を持って、アルカンザスのホットスプリングスでおこなわれたナショナルフィールドアーチェリーアソシエーションチャンピオンシップに行った。会場では「ドアノブ」と馬鹿にされたものの、この弓を使用したロン・スタントンが、新しい弓で新記録を樹立し、その仕組みは一気に有名となった。

グラスからフォームへの挑戦
1970年代前半、エキゾチック・ハードウッドの値段が高騰し、低価格の金属ハンドルが人気となった。ホイットは、エキゾチック・ハードウッドから、メイプルに変更するものの、結局は1973年にすべてのラインナップが金属ハンドルになる。

リムでは、まずグラスファイバーを研究した。グラスファイバーをリムに使用することに関して、ホイットは決してトップランナーではなかったが、熱心に研究した。特に注目したのはグラスの色。もっとも性能が悪いのはグレーのグラスファイバー。グレーの顔料が接着材に影響し、接着が不完全になってしまう。白もダメだった。白のグラスファイバーを作るのには大量の顔料が必要で不純物が増えてしまう。日光の影響を抑えるためには、リムは黒にしないという大原則があったが、黒のグラスファイバーは一番性能がとてもよかった。もちろん、透明のファイバーもよいが、黒とは大差がない。

ホイットの次の挑戦はフォーム素材だ。

「初めてファイバーグラスを使い始めたとき、ウッドコアボウと呼ばれているもののコアがイチイだろうとオーセージだろうとなんら代わりはないと思った。だってそれ自体がより性能の高いモジュラー素材に挟まれてしまっているからね。この素材、ファイバーグラスは非常に素晴らしい素材で、矢を推進させるエネルギーに長けていた。そのために、ウッドコア基礎(glue base)とスペーサーにすぎなくなってしまった。コアの重さ以外は、もはや弓のダイナミックな物理特性に影響を与えることはない。

コア材にブレークスルーができた。それは比重がメイプルよりも軽いプラスチックで、直径60マイクロンほどの微少中空体からできている。この素材は非常に高い耐久性能がある。必要な物理的特性をすべて持ち合わせ、湿度の影響を全く受けず、熱や寒さにも強い。僕たちの新たな特許技術のシンタックスフォームコアはすべての面でよくなっている。これが長年に渡る「コアウッド」のスタンドダードとなる可能性は高いと思っている。」
(Traditional Bowyers Encyclopedia P.189)

*シンタクチックフォームのこと。微細中空ガラス球入りエポキシ樹脂。

しかし、フォームコアの製造はとても困難だった。まずは、フォームの内側には気泡が含まれているが、この大きさを均一にすることができなかった。試作品はすいすいチーズのように気泡は大きさがバラバラで、とても均一ではなかった。また、完成したフォームの加工も困難だった。マイクロスフェア構造という特性のために、ブロックからラミネートするために切り出すとき、グラスファイバーの何倍もの負荷が機械にかかり、刃がすぐにボロボロになってしまうのだ。いくつかの困難を乗り越えたホイットのシンタクチックフォームコアリムは、いくつもの世界記録を塗り替えることになる。

スピードよりも安定性
リムの性能には多くの面がある。ホイットが最も重視していたのはリムの安定性だ。スピードよりも、リムが安定して正確に、ミスに対する許容性が大きい事を重視して設計していた。安定性・スピードのほかにも、スムーズさや、効率性、振動の少なさなども必要だが、すべてを一つのリムに盛り込んだ究極のリムはまだ存在していない。すべてのメーカーは、優先順位をつけて、妥協しながらリムを設計している。

「メーカーによってそれぞれが異なる特定の能力に力を入れているのが分かる。多くは精確性を犠牲にして、スピードに傾倒している。しかし、高いパフォーマンスから発生するストレスによって、弓の寿命は縮んでしまう。どの能力に力をいれるか、重要度はそれぞれ異なる。僕の場合、最も優れた弓とはこれらすべての要素のバランスが良く取れている弓で、かつ安定性に重きを置いているものだ。」
(Traditional Bowyers Encyclopedia P.191)

コンパウンドとクロスボウ
矢作り職人としてアーチェリー業界でのキャリアをスタートさせ、ロングボウの製造からリカーブボウの製造に移行したのち、ホイットはコンパウンドボウの製造をスタートする。アーチェリーのマーケットは大きく変化し、アメリカ最大のマーケットであるハンティングボウはロングボウ/リカーブボウからコンパウンドボウにかわっていく。1970年代にその変化についていけなかったアーチェリーメーカーの多くは破たんした。シェークスペアのアーチェリー部門やウィング・アーチェリー(世界初のテイクダウンボウを開発したメーカー)などだ。

「僕は昔コンパウンドに対して偏見のようなものがあった。昔の古い会社はみんなそうだった。ベアやピアソン、他の先人たちもみんなコンパウンドに背を向けていた。彼らはみな、それを弓とは思わなかったんだ。僕らは偏見にまみれ、視野が狭かった。」

「僕にとってクロスボウは、(ロングボウと)歴史的には対等でも、ロングボウほどのロマンスが感じられない。この主張は議論する余地があることは分かっている。でも僕は、クロスボウが人気のあるものになるとは考えていない。その鍛錬には、手で握って、手で引いて、手でリリースする弓ほどの挑戦が必要ないように思える。当然、クロスボウに情熱を注いでいる熱狂的な人たちがいて、彼らが自分のやっているスポーツを促進しようとしていることも理解できる。それは僕にとっては関係のないことだけど、彼らの成功を祈っているよ。」
(Traditional Bowyers Encyclopedia P.198)

ホイットはコンパウンドボウを開発し、販売する決断をする。一方で、クロスボウとは距離をとり続けた。今でも、ホイット社はクロスボウの製造はしていない。
ホイットのインタヒューを読むと、やはり、現在のアーチェリーメーカーの開発者とは明らかに違う。最高の競技用リカーブボウを開発していたものの、用語の使い方(self bow – backing – working recurve)や考えは、ロングボウの開発者そのものだ。

ホイット社を78年に売却した後も在籍していたが、のちに、ロングボウ職人のJim Belcherとともにロングボウ中心のアーチェリーメーカー(Sky Archery … ホイットの死後マシューズに売却)を立ち上げたことからも、やはりロングボウを作りたい気持ちは強くあったのではないかと思う。


Carbon Express 2013 ついにプロトタイプから製品に

まず最初に断っておきますが、現在、トップアーチャーのほぼ全員がイーストンのシャフトを使用しており、その性能をかなり良いものです。よく、トップアーチャーはお金を貰ってイーストンのシャフトを使っていると勘違いしている人がいますが、イーストンの優れた作戦は、そういったところではなく、非常に優れた高性能のアルミシャフトをかなりの低価格で販売することで、アーチェリーを始めた時からイーストンのブランドに親しみさせ、そのまま、上記モデルに乗り換えてもらうというものです。
そのため、競合他社では上位モデルでイーストンよりいいものを作ろうとする会社は多くあるものの、イーストンが廉売しているモデル(XX75など)でイーストンと同等の性能で同等の価格で販売する(もしくは、することを試みようとする)メーカーは、現状存在しません。
その上位モデルでの競争に多いて、唯一イーストンと戦える段階まで来ている(2012オリンピックでイーストン以外で唯一金メダルを獲得)、カーボンエクスプレス(CX)がターゲットモデルとして新しいシャフトを発表しました。
3年前の2010年から、このプロトタイプの話は聞いていました。イーストンは上位モデルで樽型(真ん中が膨れている)デザインを採用していますが、本当にこれが最も優れた答えなのだろうかという疑問は昔からありますが、しかし、中央に重さがあり、両端が柔らかく、中央が硬いシャフトのほうがグルーピングがよいのも確かです。
この事実から、新しい可能性を考えると、CXでは、逆樽型シャフト(外側はストレートで内部に厚みの変化を持たせている)を開発してきました。2010年から3年もかかったことを考えるといろいろあったのでしょう。ずっとは進展していなかったので、プロジェクト自体消滅したものだと勘違いしていたほどで…。
X10とACEはインナーコアにアルミを使用していますので、自然に(外側)樽型シャフトデザインになります。イーストンの人に聞いても、これが最高だといいますが、”樽型”シャフトが最高だということは正しいですが、考えてみれば、それが外側に膨らんでいる必要性はあまりないのではないかと思います。
3年間かかったCXの新しいシャフトにぜひご期待ください。また、これまでコンパウンドでしか販売してこなかったCXのシャフトですが、テストの結果がよければ、リカーブでの取り扱いも考えているところです。
2013年新商品(5~6月発売)

shaft.jpg

(取引先のランカスターの写真を引用)
CX Nano-SST 30トン・カーボン 100% || Straightness +/- .002” || Weight Tolerance +/-1.0 grain || Spine Select Tolerance +/- .002”
CX Nano Pro X-Treme 46トン・カーボン 100% || Straightness +/- .002” || Weight Tolerance +/-1.0 grain || Spine Select Tolerance +/- .002”