【再掲載】水分を補給するとはどういうことか

再掲載です。

夏の練習で、よく水分補給をしてと言われますが、スポーツ栄養学での「水分補給とは何か」についてる考えたことはありますか?

水分補給とは何か。当然ですが、水分を飲むことではなく、水分を体内に取り入れることです。

下記は産経新聞の引用ですが、

「水分を補給しても、腎臓は尿として水分を体外に排出します。この尿が増加することを利尿と言います。利尿作用が強い飲み物は、補給しても思ったほど水分が身体に残らないというわけです。アルコールは腎臓の血液の循環を増やし、結果的に尿が増えます。ビールなどのアルコールを飲むと、飲んだ以上に排尿があります。夜中や朝にのどが乾くのを経験した方もおられると思います」

*アルコールはなぜ水分補給にならない?脱水予防で尿意は我慢してもいい?医師に聞いた より引用

つまり簡単に言えば、摂取した水分量から、排尿された分を引いた量が、水分補給された量となります。多めに水を飲んでも、全部おしっこになってしまったら意味がないということです。

*https://www.acefitness.org/education-and-resources/professional/prosource/april-2016/5855/the-newest-index-on-the-block-the-hydration-indexより引用

まぁ、長く生きていれば経験値から分かって来たりもしますが、科学的な実験によって、数値化されているBHI(Beverage Hydration Index = 飲料水分補給指数)という値があり、個人差もきっとあるので、完全に正しいとは言えないものの、考えるけっきけとしてはよいデータではないかと思います。

このグラフでは水の飲料水分補給指数を1とした場合に、それぞれの飲み物にどれだけ水分補給能力があるのかを示しています。数値が高いほど、能力が高いということです。

最も優れているのは経口補水液(OS-1などが有名)です。水分補給を目的に作られているので当然と言えば当然でしょうか。ついでは牛乳、オレンジジュースと続きます。

逆にびっくりするかもしれませんが、スポーツドリンク(実験ではパワーエイド)は水よりも水分補給能力が低いです。これは水分補給だけではなく、栄養素なども含まれているからだと考えられます。そして、最も水分補給に適していないのは、アルコール類ではなく、ノンアルコールのコーヒーでした。コーヒーと牛乳を混ぜれば、プラマイゼロになるかもしれませんね。

簡単に解説しましたが、元のしっかりとした記事(英語)は下記です。経口補水液は常備しておくと便利です。

The Newest Index on the Block: The Hydration Index


食欲とは 栄養・栄養学について考える 10

この記事は下記の記事からつながっています。先に読まれることをおすすめします。

写真はここで紹介する「科学者たちが語る食欲」という本の宣伝文句ですが、栄養・食事・健康に関する本では、ここで語られるべき話題は科学に属するはずなのに、内容が、エセ科学者以前に、料理は手作りのほうが体によい(根拠なし)か、食事に感謝した食べよう(反証不可能)、給食は三角食べがバランスが良い(食べる順番は血糖値に変化を与えるが、なぜそれを短時間の給食に当てはめた)など、本当にひどいものが多いです。

これはまだわかっていないことは多いからです。例えば、ネットで「打撲の治し方」と検索すると、無料情報でも、かなり正確な正しい情報にたどりつけます。逆に、「免疫の上げ方」で検索すると、出てくる記事はそれぞれに別々のことが書いてあり、調べれば調べるほど正しい情報がどれだかわからなくなります。その理由は、確実な打撲の治し方は判明しているが、確実に免疫を上げる方法が、そもそも判明していないからです。

さて、今回のテーマは食欲とは何かですが、ネットで調べてもホルモン(空腹感)の話くらいしか出てきません。免疫くらいに誰でも知っている日本語ではあると思います。その本質は何でしょうか。

生物学の研究者である、この本の著者(2名)は、野生の動物(ヒヒ)は食料が豊富にあって、食べたいものを食べても、肥満にならず、日々、一定のカロリーを摂取しているという調査結果から、研究を始めます。同じものばっかり食べれば、カロリー管理は簡単ですが、ヒヒは30日間で90種類の食品を食べて、日々同じカロリー量を維持した。これはプロの栄養士でもエクセルで計算する必要があるほどの高度な計算です。それをなぜ、知能が高いとは思えない動物にできるのか。

彼らは、単純な昆虫の食欲から研究を始め、昆虫に炭水化物とタンパク質の割合が異なる餌を与えて育てるとどうなるのか、すると、炭水化物とタンパク質の摂取量に相関関係があると判明します。そこから、これをより、複雑な動物にスケールアップしていき、最終的には63人の人間を対象に実験を行った。

その結論を彼らは「タンパク質レバレッジ仮説(The Protein-Leverage Hypothesis)」と名付けたが、この主張は非常に単純で、人間はタンパク質を一定量(必要カロリーの15%分のタンパク質)摂取するまで食欲があるという単純なものです。

一日に必要なカロリーが2000kcalなら、2000×0.15/4=75g となる。4は1gあたりのタンパク質のkcal。この量のタンパク質を摂取したら、食欲が満たされるということになる。

この仮説の結果は非常に単純なものですが、ここから、多くの理論がしっかり確立していない問題に対する引き出せるのが、この仮説のすごいところです。

食品のカロリーは基本タンパク質・炭水化物(糖質)・脂質の3つから成り立っています。すべてそのバランスです。人間の食欲がタンパク質量に対して一定なら、低タンパク質(高糖質・高脂質)の料理をよく食べる人は、より多くの量(カロリー)を摂取しないと食欲を満たすことができず、肥満となる。逆に高タンパク質(低糖質・低脂質)の料理をよく食べる人は、より少ない量(カロリー)で食欲を満たすことができ、痩せる。これは一般的にインリスン*によって説明される糖質制限(=高タンパク)ダイエットを別の側面から説明することともなります。

*糖質とタンパク質はともに1gで4kcalで、特別に糖質はカロリーが高いわけではない。

どうでしょうか。非常に興味深い説ではないでしょうか。より詳しい説明・理論に関してはぜひ本を読んでみてください。次回はこの結論から、更に導き出される話についてです。

続く


4年間を振り返る 栄養・栄養学について考える 9

栄養・栄養学について考えるシリーズの9回めです。記事だけでも理解していただけるようになっていると思ってはいますが、より理解するためには上記の本をおすすめします。

これまでの話は下記のリンクからご覧いただけます。

記事カテゴリー - 栄養学 

さて、9回目で長いシリーズで前回の記事が4年前なので、一度短く振り返ってみます。この一連の記事は栄養学という学問に不信感を持ったことがきっかけです。高校でアーチェリーを始めた当時は、本に書かれた内容をそのまま信じていましたが、大人になってみると、不信感が出てきたのです。

これは個人的に不信感を”持っていない”数学の本(ABC予想入門)です。”入門”と書かれているだけあり、実際の内容をかなり噛み砕いて書かれています。まぁ、それは当たり前なのですが、その分十分な中身が含まれていないので、入門を理解できた・解説に疑問を持った・入門レベルの上に進みたいという人のために、より詳細な内容、内容の根拠が書かれているのが、本として当たり前です(知勇学生とかが対象なもの以外)。数学だけではなく、物理学や化学も同じです。

しかし、これは、「決定版 栄養学の基本がまるごとわかる事典」という大人を対象とした本の資料リストですが、入門(=基本)とはいえ、初めて見たときは正気なのかと目を疑いました。薄い本ではありません、240ページもある本です。

例えば、この本には「痴呆症の予防に地中海食」というトピックが登場しますが、参考となる論文すら書かないのは…学問の本として体をなしているのか…理解ができません。これが栄養学に対する不信感の始まりです。

ちなみにこれが今回の記事のベースとなっている本の根拠となる論文類です。クリックすると拡大しますが、60本程度の論文が主張の根拠とされています。論文が存在するから正しいとは限りませんが、裏付けとなる論文が存在するかすらわからないより、遥かにまともです。

さて、栄養学に不信感を持ちながらも勉強していくうちに、たどり着いた結論は、栄養学は研究をしておらず、「栄養に関わる」科学者の研究結果を、まとめる学問ではないかという結論です。

例えば、物理で最近グループによって観測された重力波ですが、その研究によって、ノーベル賞を受賞したのは当然物理学者です。物理が物理学者によって研究されている証拠です。

しかし、栄養学においては、例えば、多くの栄養学の本に引用、管理栄養士の試験にも出るという日本人の食事摂取基準(2020 年版)は何人もの学者が参加して報告されたものですが、座長の専門は「腎・高血圧・内分泌学」、副座長は「地域在宅医療学・老年科学」、ワーキンググループの座長は「疫学保健学講座 社会予防疫学分野」だそうです。いずれも医学博士で、専門は栄養学ではありません。

栄養学は科学なので、絶対どこかで研究はされているのですが、栄養学という枠組みの中では研究されていないというのが、私の結論です。これが栄養学の専門家という人の書く本に対する自分の不信感の原因だったと今では考えています。

長くなりましたが、今回の記事のベースとなる本の「食欲」紹介する本は現在栄養学での課題とされている下記の問題に対する医学ではなく、生物学の専門家によって行われた研究です。

エネルギー産生栄養素バランスは、他の栄養素の摂取量にも影響を与える。これらの栄養素バランスと食事摂取基準で扱っている他の栄養素の摂取量との関連を、日本人の摂取量のデータを用いて詳細に検討する必要がある。

日本人の食事摂取基準(2020 年版)、P168より

簡単に言えば、適切なカロリー量は概ね疑いの余地がないほどにわかっているが、そのカロリーの供給源であるタンパク質・脂質・炭水化物をどのようなバランスで摂取すべきか、それがまだわかっていないので研究しましょう。ということです。これは各国共通の課題です。それを生物学の観点から研究し、一つの答えを出したわけです。

続く


プロアーチャーの選択 栄養・栄養学について考える 7

ゴールデンウィーク最終日、皆さんはどうお過ごしでしたか。自分は読書をしておりました。ゴールデンウィーク前に手配していたジェーク・カミンスキー選手が書いた「トレーニング・フォー・アーチェリー(Training for archery)」が届いていたので、さっそく読み込んでみました。英語ですが、間もなく販売も始める予定です。

中身ですが、題名通り、アーチェリーのトレーニングについて書かれたものです。シューティング技術やチューニングに関する内容は含まれていません。

アーチェリー専用のトレーニングについて書かれた本が多くない中では、なかなか読み応えのある本でしたが、今回は本を参考にして日本アーチャー向けのサプリメントについて考えます。というのは、この本の中で、ジェーク選手は「Wilderness Athlete」というブランドのラインナップを使用して、アーチャーに必要なサプリメントの選択方法と摂取方法を説明してくれているのですが、このブランドはアメリカでしか販売されておらず、代理店はなく、並行輸入で入手する事すら難しいようです。

ですので、今回のこの記事では、日本国内で入手可能なサプリメントで、アーチャーにとって必要なものについて書いていきたいと思います。

ちなみに、アーチャー向けのサプリも販売されています(アメリカ国内で)。その中身については前回の記事を参照してください。

アーチャー向けのサプリの中身は 栄養・栄養学について考える 6

さて、アーチェリーで必要なサプリを考えるとき、その役割は大まかにいくつかに分けることができます。

*下記、すべての情報に関しては完全な科学的なエビデンスはないです。エビデンスに乏しいことを前提に読んでください。

– エネルギー/電解質の補給
– 筋肉の回復
– 関節のけが防止・抗炎症効果
– 不足しがちな栄養素の補給

です。ジェシー選手が紹介するブランドではそれらをすべて単一のブランドで賄うことができるようですが、国内でそのようなブランドを見つけることができませんでした。それぞればらばらのブランドになりますが、同様な効果があるものを探してみました。

目的別

ビーシーエーエー アルギニンプラス - DNS

・トレーニング直前 – BCAAの摂取で集中力を持続させ、アルギニンで血流の増進をはかる。

–(メーカー商品情報 抜粋)–
BCAA(Branched Chain Amino Acid :分岐鎖アミノ酸)は、身体作りにも役立つし、運動時のエネルギーになるが、それに加えて脳内の疲労物質を抑えることにも、関係してくる。高強度の運動や長時間の運動により、血液中のトリプトファンの濃度が高まり、脳に移行してセロトニンという物質を作り出す。セロトニンは精神を安定させたり身体の生理機能を調節したりと重要な役割を果たしているアミノ酸であるが、これが運動時には、厄介な存在となる。運動中にセロトニンが脳内に移行し、脳の中で増え過ぎると集中力を低下させ、精神的な疲労を引き起こしてしまうからだ。

そんな時強力な味方になるのがBCAAだ。

BCAAとトリプトファンは脳に移行する時、同じトランスポーターであるため、血液中BCAAがたくさんあると、限られたトランスポーターでは相対的に多いBCAAの脳への移行が増え、トリプトファンの移行が減る。勝負どころで君の強い味方になってくれること間違いないだろう。

また、アルギニンもアスリートには有効な武器となる。血流も増進し、BCAAを身体中に素早く届けることで、パフォーマンスをサポートしてくれる。
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パワーシェイク

・トレーニング後 – トレーニング前と違い、プロテイン(タンパク質)だけではなく、たんぱくの割合し減っても、他の栄養素も含まれているバランスの良いものほ摂取する事。

–(メーカー商品情報 抜粋)–
理想的な身体とはどのような身体の事か?それは筋肉質で、無駄な脂肪が無い身体。その身体を作るためには、1日を通してたんぱく質をはじめとした様々な栄養素を摂取することが鍵となる。

その時こそパワーシェイクの出番。ストローを挿すだけで1本で10gの良質なホエイプロテインが摂取できるだけでなく、炭水化物や良質な脂質、22種類のビタミンやミネラルも摂取できる。
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アクエリアス(ポカリでも)

・エネルギー/電解質の補給 – どんな運動でも必要です。

–(メーカー商品情報 抜粋)–
汗で失われるミネラルをはじめ、動くカラダに必要なアミノ酸、クエン酸を配合。カラダを動かすあらゆるシーンで、水分バランスをサポートします。

※1 ミネラルとは、ナトリウムのことです。
※2 BCAA・アルギニン
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(その1)スーパーフィッシュオイル – 大塚製薬

・関節のけが防止・抗炎症効果 – DHAとEPAを摂取する事。関節・筋肉損傷を抑えて、筋肉痛を緩和する効果。

–(メーカー商品情報 抜粋)–
「日本人の食事摂取基準」(2015年)では、EPA+DHAを積極的に摂取することが望ましいとされています。 EPA・DHAを積極的に摂取することにより、血中中性脂肪の上昇を抑えるなど様々な健康機能が報告されています。
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(その2)ジョイントスーパープレミアム – DNS

・関節のけが防止・抗炎症効果 – 関節を守る効果。グルコサミンやMSMなどが中身。毎日摂取する必要はなく、特にハードなトレーニングをした日に摂取することが望ましい

–(メーカー商品情報 抜粋)–
強くするのは筋肉だけじゃない。本来スポーツの動作は、人間の身体には不向きな動作の連続だ。

跳んだり、投げたり、捻ったり、切り返したり…。不向きな動作を何度も何度も反復することで”巧さ”を身に着けていくが、もともと身体にとって不向きな動作だ。身体によかろうはずもない。その時身体のどこに負担がかかるのか?それは腱や靭帯、軟骨といった結合組織だ。

日々の反復練習では常に結合組織にダメージを与えることになり、ケガの要因になり得る。

現役で活躍できる時間は限られている。ましてや、高校、大学の部活は入学から卒業までの短い間だし、実業団の選手でいる時間は限られている。ケガをしている暇はない。
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(その1)マルチビタミン(メーカーはどこでも)

・体調を整える – 様々な仕事をしているビタミンは不足の内容に。

–(メーカー商品情報 抜粋)–
マルチビタミン1粒で、1日に必要なビタミンの摂取目安量をクリア。まずは、ベースサプリメントで健康の土台作りを始めましょう。人間に必要なさまざまな栄養素はチームプレーで働きます。
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(その2)ドクターズチョイス 3種ビフィズス菌+5種乳酸菌=350億個の善玉菌サプリメント(できるだけ多くの種類が入っているものを)

・体調を整える – 日本では特定の乳酸菌を含むものが人気だが、体調を整える意味では多種の乳酸菌を含むものが良いとされている。

–(メーカー商品情報 抜粋)–
ビフィズス菌、オリゴ糖、食物繊維のすべてを配合。
5種類の乳酸菌、3種類のビフィズス菌、あわせて350億個のプロバイオティクス配合。
ダニスコ社の特殊3重コーティングで善玉菌を腸まで生きたまま届ける技術を使用。
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(その2)オリヒロ 植物酵素カプセル 60粒(できるだけ多くの種類が入っているものを)

・体調を整える – 天然の植物から微量栄養素を取り入れて、バランスを整える。特に安全な生野菜が手に入らないような地域への遠征時に必要。

–(メーカー商品情報 抜粋)–
野草64種類、果物10種類、野菜9種類、海藻2種類の合計85種類の果物を使用。熟成に用いる陶製のかめは遠赤外線効果と微妙な通気性を持ち植物エキスを呼吸しながら熟成させます。
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以上、8種類のサプリメントを紹介させていただきます。気になるものはありましたか?

種類(=摂取量とはなりませんが)をみると、筋肉・体力というよりも、コンディショニングとけが防止のためにサプリを活用しているようです。

個人的には長く乳酸菌とプロティン(10g/日程度)は摂取していて、効果を実感できています。まぁ、マルチビタミンは食事のとりよう次第ですので、個人的にはあまり必要性を感じませんが、最後の天然の植物を多種集めて作られたものには関心があり、さっそくアマゾンで購入しました。

効果があるかわかるのは半年後くらいですかね。

続く。


参考文献 : Training for archery by Jake and Heather Kaminski


アーチャー向けのサプリの中身は 栄養・栄養学について考える 6

前回の記事では一般的なトレーニング用のプロテインについて解析しましたが、今回はアーチェリー向けのサプリメントについて考えます。国内の競技人口の関係だと思いますが、自分が知っている限りでは、日本ではアーチェリー用のアーチャー向けのサプリは製造されいていません。しかし、海外にはいくつか存在します。その中で今回は、アメリカのトップ選手も使用するMTN OPSのものを研究しましょう。

(ジェシー選手のフェイスブックより)

メーカーの説明では、アーチェリー向けの製品を開発するにあたり、トップ選手たちからの聞き取りを行ったところ、4つの機能が特に要望が多く、それに沿う形で開発を進めたとのことです。その機能とは、

・エネルギー補給
・水分補給
・リカバリー
・Cardio Enhancement

の4つとのことです。前半の3つはどのような運動でも必要なものだと思いますが、最後のものはあまり見かけない機能ではないかと思います。つまり、海外からアーチェリー向けのサプリを輸入するか、既存の3機能を持つサプリに最後の機能を足せば、アメリカで開発されたアーチェリー用サプリに近いものを自作できるということです。

日本語に翻訳するのも難しいのですが、「Cardio Enhancement」を直訳すると心臓強化という意味になります。その効果(*)は血管を広げ、血流量を増やし、それによって血圧を下げ、血圧が下がることで間接的に心拍数を下げることです。心拍数を下げる、または運動中の心拍数の増加を抑えることがが期待されているわけです。

*独自研究にもづくものでアメリカ食品医薬品局によって承認された効果ではないとのこと

アーチェリー競技において心拍数の安定はある程度にはパフォーマンスと関係があるとされているか思います。では、その中身はどうなっているのか。

主たる原材料は、L-アルギニンと-LシトルリンとOPS Bio-Protectant Blendいう独自成分の3つです。L-アルギニンと-Lシトルリンの2つを調べると、国内では精力剤として利用されていることが多いようです。なるほど…血流を増やすと…まぁ、そうですね。どちらも比較的にそちら方面では有名な栄養素のようでサプリメントは簡単にDHCなどの大手も出しています。

難しいのはOPSの独自ブレンドのBio-Protectantの方で、中身はイノシトール、不安感の発生頻度を低下させるためのものから、伝統的に抗血液凝固作用を持つとされる霊芝エキスなどまで入っています。こちらの方を自分でブレンドするのにはちょっと知識が必要になるかもしれません。

決して、この記事をもって読者の方に何かのサプリをお勧めするつもりはありません。効果については人それぞれです。

ただ、アメリカではアーチェリー用にサプリが開発されており、それには一般的なものに日本では精力剤として用いられている原材料が使われ、血流を増やすことでパフォーマンスの向上が図られるよう設計されているということです。試すかどうかは自己責任で、まぁ、大手のDHCから出ているものでも1か月1,000円程度なので、弦を変えたくらいの気持ちでいかがでしょう。

続く。


プロテインの中身はプロテインか 栄養・栄養学について考える 5

今回はサプリについて取り上げます。まず、大前提として、私は日本の制度には問題があると思います。

日本にはJADA(日本アンチドーピング機構)というものがありますが、JADA認定というものを行っていて、国内でサプリメントなどの安全性を保障していますが、この制度は非常にグレーなものであるとされています。

日本アンチドーピング機構(JADA)は、分析費用ほか「別途、大手広告代理店を通じた協賛費が必要」(ドームの青柳清冶・サプリメント・メディカル事業部部長)で、認証に数百万円のコストがかかる場合もあるという。

健康産業流通新聞より

こういった報道に対して、JADAはコメントをしないという姿勢のようです。また、そもそもアンチドーピング機構が認定をすること自体に問題があるという批判があります。WADA(世界アンチどーピンク機構)では、自身の解析能力をメーカー側にばれないようにする、メーカーに対して第三者であることを貫くために、認証はしないという姿勢を取っています(*)。

*The World Anti-Doping Agency (WADA) is not involved in the testing of dietary/nutritional supplements.

ドーピングを防ぐために、メーカー側ずぶずぶの関係にはならない、緊張関係を持つことを宣言していますが、JADAはその真逆のことを、検査費用だけではなく、協賛まで(しかも、別途大手広告代理店を通して)求めているようです。

もちろん、その費用はサプリメントの価格に反映されます。よく言えば、日本のサプリメント(*)はその価格の半分が保険料なので安心だと言えますし、悪く言えばメーカーと検査機関がタッグを組んでアスリートからぼったくっている状態です。

*カロリーメイト・ネイチャーメイド・アミノバイタル・ウィダー・ザバスなどが該当する

さら、本題に戻り、サプリのはどういうものか。今回は主要のプロテインの中身を見ることにしましょう。初回に書きましたが、大事なのは「自分が何を食べているのか知ること」です。

下記がウィダーのプロテインの内容物です。目的別に4つ販売されているようです。

筋肉のため

ホエイたんぱく(乳成分を含む)、カゼインカルシウム、ココアパウダー、砂糖、食用油脂、ぶどう糖、炭酸Ca、乳化剤、酵素処理ルチン、グルタミン、香料(大豆由来)、甘味料(アスパルテーム・L-フェニルアラニン化合物、スクラロース)、ピロリン酸鉄、ナイアシン、パントテン酸Ca、V.B6、V.B2、V.B1、葉酸、V.B12

回復のため

デキストリン、砂糖、ホエイたんぱく(乳成分を含む)、ココアパウダー、食用油脂、香料、乳化剤、V.C、グルタミン、酵素処理ルチン、ロイシン、ナイアシン、パントテン酸Ca、V.B6、V.B2、V.B1、葉酸、V.B12

減量のため

ホエイたんぱく、砂糖、ミルクカルシウム、L-カルニチンL-酒石酸塩、食用油脂、貝Ca、クエン酸、炭酸Ca、香料、乳化剤、ヒスチジン、甘味料(アスパルテーム・L-フェニルアラニン化合物、スクラロース)、酵素処理ルチン、V.C、ピロリン酸鉄、パントテン酸Ca、ナイアシン、V.E、V.B1、V.B2、V.B6、V.A、葉酸、V.D、V.B12

増量のため

デキストリン、カゼインカルシウム(乳成分を含む)、果糖、ドロマイト、食用油脂、カラメルパウダー、オルニチン、香料、乳化剤、甘味料(アスパルテーム・L-フェニルアラニン化合物)、ナイアシン、パントテン酸Ca、V.B6、V.B2、V.B1、葉酸、V.D、V.B12

原料にはタンパク質、糖質、ビタミン、特定の目的のための成分、味のため、または機能性を高めるため(水に溶けやすくするなど)のものが大量に含まれているのがわかるかと思います。プロテインということは「タンパク質(Protein)」という意味ですが、商品としてのプロテインは必ずしも、中身がタンパク質であるとは限りません。

*それぞれの成分の役割は最後に簡単にリストにしています。

筋肉のためとされているものは、すぐに消化されるたんぱく質(ホエイたんぱく)とゆっくりと消化されるたんぱく質(カゼインカルシウム)が両方入っています。それに補助的な代謝を促進する栄養素と、味付けが入っている商品です。プロテイン中のプロテイン量(タンパク質)は70%程度です。

回復のためにとされているのは、なんと、主成分は糖質です。タンパク質ではありません。糖分を68%含み、タンパク質は23%程度しか入っていません。タンパク質は消化が早い方のホエイたんぱくが選択されていて、味はダイレクトに”砂糖”が選択れています。これはプロテイン…というよりもエネルギーバーのような構成になっていますね。

減量のためにとされているのは…減量のためにプロテインが必要な理由がよくわかりませんが、ホエイたんぱくが50%程度、その次が砂糖(糖質)?! 減量のために糖質を摂取する理由が理解できませんが(*)、が入っていますね。脂質の代謝に必要なL-カルチニンと食欲を低減させるとされるヒスチジンが入っています。1食で55kcalです。

*もちろんエネルギーとしては糖質は必要ですが減量の選手が”補助食品”でまで糖質を摂取させる必要性は私には理解できません。

最後の増量のためのものは…最もプロテインではないです。タンパク質の量は16%で、商品の73%が糖質です。商品としてプロテインの具体的な定義はないですが、少なくとも半分くらいは入っていないと…これ以上のコメントは控えます。

今回の記事で知っていただきたいのはプロテインとして販売されているものがプロテイン(タンパク質)とは限らないということです。物によっては、16%しか入ってないものがあります。また、たんぱく質を摂取する・糖質を摂取するにしても、物によっては、食用油脂やスクラロースなどの人工甘味料も摂取することになってしまっていることにご注意ください。プロテインを選択するときには必ず、中身を確認することをお勧めします。

そもそもプロテインは”たんぱく質”を摂取する手段です。なぜなら、タンパク質を70%以上含む食品はほぼ存在しておらず、そのために高いお金を払ってプロテイン(タンパク質)を補助的に摂取する必要性があるのです。炭水化物なら砂糖は100%が糖質で、値段はプロテインの1/20程度でしょう。三大栄養素の脂質にしても、オリーブオイルなどの油は100%が脂質なので、こちらも高いお金を払って購入するようなものではないです。自然界になく、高いお金を払って購入する必要があるのは高たんぱく質だけです。

(こちらの商品はタンパク質97.6% 原料はホエイたんぱく、乳化剤、増粘剤の3つのみ)

また、飲みやすさを重視する方、パッケージされたものが好きな方は味付けまで全部メーカーがやってくれるようなものがよいと思いますが、トップを目指すはアスリートは、余計な味付けが入っていないものを購入して、それを”我慢”して飲むか、自分が納得できる最低限の味付けをして飲めべきではないかと思います。もともとパウダーなので、無味のもの買って、味付けするのは結構簡単ですよ。

続く。


それぞれの成分について

ホエイたんぱく : タンパク質(プロテイン)の部分の一つですぐに消化されます。原材料は牛乳であることが多く、製法によって純度が違います。現状ではWHIという製法が最も純度が高く、乳糖不耐性のリスクが最も低いのもこの製法です。

カゼインカルシウム : タンパク質(プロテイン)の部分の一つでゆっくりと消化されます。そのため長時間作用する(血中アミノ酸濃度を高いレベルで維持)と言わています。

L-カルニチンL-酒石酸塩 : L-カルニチンは脂肪の代謝に必要。L-酒石酸塩の方は水溶性を高めるために入っていると思われる。

ブドウ糖 : グルコース。脳の一般的な栄養源だが、血糖値を上げる。

炭酸Ca : カルシウム。

酵素処理ルチン : ポリフェノールの1つ。たんぱく質の合成をサポートすると言われています。

グルタミン : グリコーゲンの回復を促進する効果があるとされる準必須アミノ酸。

ピロリン酸鉄 : 鉄分。

ナイアシン : ビタミンB3、タンパク質の代謝に必要。

パントテン酸Ca : パントテン酸は糖代謝に関わる。カルシウムの方は水に溶けやすくする役割。

ビタミンA : 免疫力を高めるとされる

ビタミンB1 : 糖質の代謝に必要。

ビタミンB2 : 多くの代謝に必要。

ビタミンB6 : アミノ酸の代謝に必要。

ビタミンB12 : アミノ酸の代謝に必要。

ビタミンC : コラーゲンの合成などに必要。

ビタミンD : カルシウムの吸収を促進。

ビタミンE : 抗酸化作用。

葉酸 : アミノ酸の合成に必要。

デキストリン : ゆっくりと消化される糖質(炭水化物)

貝Ca : …すみません、炭酸Caとの違いが判りません。

クエン酸 : 疲労回復を早めるとされる。

ヒスチジン : 食欲低減効果。

ドロマイト : カルシウムとマグネシウムを含む。

オルニチン : 成長ホルモンを増やす。


栄養価計算の方法 栄養・栄養学について考える 4

理論・考え方編が終わったので、実践編に行きたいと思います。その前にテクニカルな栄養価計算の方法について取り上げます。

前回の結論としては「自分で試してみるしかない」としましたが、そのためには、まずは自分が何を摂取したのかということを理解することが必要なのは言うまでもないでしょう。管理方法の一つに、PDCAサイクルというものがあります。計画→実行→評価→改善というサイクルを続けていくことで、より効率的に活動を改善していくやり方です。

この場合、「計画=何をどう摂取するのか決める」→「実行=実際に食べて、練習・試合に参加する」→「評価=パフォーマンスを発揮できたか評価する」→「改善=よかった・悪かった点を整理して、次の計画を改善する」という流れが必要になります。

計画を立てるとき、成分のわかっているプロティンを水で飲むのでない限り、自分が何を食事から摂取しているのかを栄養価計算で知る必要があります。

簡単なやり方は多くあります。アプリを使ったり、ウェブで管理したり、いろいろとあるようで、無料のものから有料のものまであります。自分は使用していないのでアドバイスができませんが、そもそものデータ(国の発表する食品成分表)ですら、誤差がそれりにあるのに、簡易化すればするほど、さらに誤差が大きくなるので、本当にそれで管理できるのか疑問です。やらないよりはマシでしょうが。

ここでは、栄養価計算の一般的なやり方について方紹介します。考え方としては、「何を」「どう調理したか」の2つから、完成した料理の栄養価を計算します。「何を」の部分は食品成分表(またはネットの食品成分データベース)を使用し、どう調理したかはいろいろな資料が存在しますが、ここでは「調理のためのベーシックデータ 第4版(女子栄養大学出版)」のデータを使用しました。

料理はサラダチキンの照り焼きです(*)。

*アスリートシェフのチキンブレスト レシピ -鶏むね肉でパワーアップ! 荻野 伸也 著 を参考にしました。


食材はヘルシーで高たんぱくで人気のセブンイレブンのサラダチキン(蒸し鶏)です。これ単体では自分には味が薄いので、照り焼きにします。

この食材は115gで成分は

カロリー:120kcal
たんぱく質:27.3g
脂質:1.0g
炭水化物:0.3g

となっています。まずは、これを小さく切り、塩とみりんに漬け込みます。漬け込むことでたれの塩分の70%が食材に入り込みます。

塩分 : 1.4g(もともとの食材の塩分) → たれに漬け込む たれの塩分量 2g → 2.8g(1.4 + 2 x 0.7)

となります。そして、漬け込んだチキンに片栗粉(15kcal)を適量つけて焼きます。焼くことで鶏肉はエネルギーが88%、脂質が78%、たんぱく質は98%となります。

よって、チキンは

カロリー:120kcal (120 x 0.88 + 15)
たんぱく質:26.7g (27.3 x 0.98)
脂質 : 0.8g (1.0 x 0.78)
炭水化物:0.3g

となります。

次にたれです。醤油・みりん・かぼす(果汁)・砂糖・水(30ml)を煮詰めて作ります。 成分の合計は上記の通りとなります。

煮詰めたたれは最後にチキンと絡めて完成です。ただ、たれはすべて使うわけではなく、この量ではおおよそ3割程度は残るので、たれは70%摂取したとして計算します。

よって、自分のレシピで完成したチキンの照り焼き(115g)の栄養価は

カロリー:120kcal (120 + 119 x 0.7)
たんぱく質:27.6g (26.7 + 1.3  x 0.7)
脂質 : 0.8g
炭水化物:18.1g (0.3 + 25.4 x 0.7)
- 糖質 推測値 17g程度
塩分 : 4.3g (2.8 + 2.2 x 0.7)

*写真撮るように仕上げにかけたコショウとパクチーは計算に入っていません。

となります。たんぱく質と炭水化物の量が多く、アーチャーにとっての必要性が高くない脂質が少ない理想的なレシピの一つだと思います。ちなみに、たれのカボスをクエン酸を含むレモン果汁に買えれば、クエン酸(グリコーゲンの回復を早めるとされる)も摂取できます。

また、糖質については次回に。

いちいち計算するのは大変ですが、自分の場合、自分用の「アスリートめし」のレシピは10個もないので、1つ計算するのに20分程度はかかりますが、2時間ちょっともあれば全部できるのでそんなに大変な感じはしませんでした。

また、アスリートとして管理しなくても、一度自分で栄養価計算をしてみるだけでもよい経験になると思いますので、ぜひお時間あるときにやってみてください。

続く。


栄養学は科学なのか? 栄養・栄養学について考える 3

食生活指針という文部省・厚生省・決定、農林水産省が策定しているガイドラインがあります。ウィキペディアによれば、これは「どのように食生活を組み立てればいいのかを示した指針である」とされています。では、そのトップにある項目は何でしょうか。

1.食事を楽しみましょう。

全くその通りだと私は思います。

さて、前回の記事では間違いについて書きましたので、今回は正しいことについて書きます。記事のタイトル「栄養学は科学なのだろうか」というのは、私の言葉ではありません。これは、佐々木敏さん(厚生労働省の食事摂取基準の策定などにかかわった医学博士)の著書に出てくる言葉です。皆さんはどう思われますか。

栄養学は科学なのかと問うた上で、彼は、

私たちの健康を守ってくれているのは、ヒトの研究の中でも、最新の数編の論文ではなくて、多くの研究者によって行われた、たくさんの研究によって築かれたおちついた情報です。

(佐々木敏の栄養データはこう読む! P.317)

と書いています。誤解を恐れずに言えば、栄養学の中身のほとんどは、正しいことではなく「仮説」なのです。ただ、仮説であってもそれは科学の一様態です(*)。

*科学とはなにかより詳しく知りたい方は「科学が作られているとき―人類学的考察  ブルーノ ラトゥール著」をお勧めします。「仮説」がいかに科学であるかについて書かれています。

ではなぜそのような状態であるのか、そのような状態でなければいけないのか。科学に興味がある方であれば、覚えている方も多いと思いますが、昨年の2月にアメリカのチームが「重力波」を検出したと発表しました。初めの直接的検出です。重力波とは何かを説明するのは難しいのですが、音波が音の波であるように、重力波はその重力の波です。実際に変換可です。

こんな音です。

重力波、世紀の発見をもたらした壮大な物語
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/021200053/

この重力波は1916年にあのアインシュタインによって、その存在が予言されたものです。そして、その仮説が実際に直接的な検出という形で実証され、存在すると確かめられるまで、100年もかかっているのです。

仮説が正しいとされるまで…仮説ではノーベル賞は受賞できないので、1944年の研究が1983年、約40年後にやっと認められて、ノーベル賞を受賞したバーバラ・マクリントック博士(DNAの研究者)は「ノーベル賞を取る条件の一つは長生きする事(受賞時81歳)」とまで言っています。ただし、彼女の場合は女性研究者ということもあり、実証されるまで時間がかかるということ以外の意味も含んでいると思われます。

しかし、栄養学の場合はそうもいきません。重力波の検出であれば、検出するまで焦らず研究すればよいだけなのですが、食事は日々人々が摂取しているもので、仮説が実証されるまで100年間も気長に待っているというわけには行きません。仮説であっても、それで現在、健康問題で苦しいでいる方の健康状態の改善に役立つ(*)ならば、さっさと使ってしまおうという状態なのが、栄養学の実態です。

*実際にはマイナスのリスクが少ないといった基準だと思います

もちろん、仮説の状態で見切り発車して悲劇も引き起こすこともあります。有名例では日本での脚気という病気があります。陸軍が脚気について誤った仮説を採用したことで、10,000人近い脚気死亡者を出したと言われています。

日本の脚気史(ウィキペディア)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E8%84%9A%E6%B0%97%E5%8F%B2#.E8.84.9A.E6.B0.97.E6.83.A8.E5.AE.B3

さて、アスリートが摂取すべき食事・栄養というものの根拠である栄養学について書いてきました。そろそろ、具体的な話に切り替えていきたいと思います。

突然ですが、みなさん、ビタミンCはどの程度の摂取が良いと思いますか?

ビタミンCは、1927年と90年も昔に発見された栄養素の一つですが、この利用については現在でも答えが出ていません。同じ人類ですが(笑)、推奨量は英国食品基準庁の40mgを最低に、WHO(世界保健機関)の45mg、アメリカ科学アカデミーでは90mg、日本では100mgとされています。また、日本では成人という枠で100mgの推奨だけがされていますが、アメリカの科学アカデミーでは喫煙者は35mg多く摂取することを推薦しています。また、これはウィキペディアからの情報にすぎませんが、1,000mg(イギリスの25倍!)を推奨する論文(*)もあるようです。

*Vitamin C: Is Supplementation Necessary for Optimal Health?

1,000mgは別として、英国食品基準庁の専門家とアメリカの科学アカデミーの専門家で考え方が違うものについて、正直これ以上私の知識では太刀打ちできません。多くの方がそうではないかと思います。ではどうすればよいのか。

結局、専門家同士でも結論が分かれるものは、どちらも根拠に乏しいからだと考えられます。どちらの説も決定的な”正しさ”を持たないために、しかし、だからと言って「議論が決着するまでビタミンCの推薦量の発表は待て」とするわけにもいかないので、それぞれの国の主流派が推薦量を決めているのでしょう。

それに対して、私たちができることは、もっともっと専門知識をつけていくことではないと思います。そもそも最終的な”答え”が存在していないのであれば、実践レベルでは、自分でリンクを考えながら、いろいろと試してみるしないというのが私の結論です。

続く(次回から具体的な話になる予定)。

参考

佐々木敏の栄養データはこう読む! 佐々木敏 著
栄養学の歴史 (KS医学・薬学専門書) ウォルター・グラットザー 著


“専門家”にだまされないために 栄養・栄養学について考える 2

栄養学についての記事の続きです。先日、根拠のないコピペ記事ばかりを書いていたDeNAのサイトが問題となり、謝罪会見にが行われました。アーチェリーについて書かれたサイトでもでたらめ情報を発信しているところがありますが、いろいろと検討した結果、否定する記事を書いて拡散させるよりは、放置するのがベストだと判断しています。

DeNA、「3時間謝罪」でも解明しない詳細経緯 ‐ キュレーション事業の現場責任者は欠席
http://toyokeizai.net/articles/-/148657

“弱者”のための栄養・栄養学について考える

さて、DeNAではでたらめな記事が問題となりました。当然ですが、嘘を書いてはいけません。しかし、ミスリードを誘う、読んだ人に誤解をさせる情報はグレーゾーンとなっています。この部分が栄養学においては、かなり大変なことになっています。アーチェリーをしない人はいますし、ネットを見ない人もいると思いますが、食事を取らないという人はまずいないでしょう。食に関する市場は莫大なものであり、その莫大な利益を目的として、グレー情報が多く出回っているのが現状です。

栄養について計算するうえで”根拠”となっているが食品成分表というものです。このデータ自体は文部科学省が無料でPDFとして公表していますが、よく使うのであれば、1000円程度で売っている製本されたものが便利だと思います。ここのデータが栄養の”根拠”となっていて、ここを疑い出したらきりがないので、これは正しいものとして使っていきます。

日本食品標準成分表2015年版(七訂)について
http://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/1365295.htm

この記事は管理栄養士という立派な国家資格を持った専門家が監修した”ひじき”を称えた記事です。いわく、

「食物繊維が豊富」
「鉄分が豊富」
「カルシウムが牛乳の10倍以上」

だそうです。

(食品成分データベースより)
では、実際はどうなのか見てみましょう。これは食品成分表の「ひじき」の項目です。比較のために牛乳を追加しました。数値を見てみればわかると思いますが、食品栄養士の方は確かに”根拠”に基づいてこの記事を書いています。文部科学省のお墨付きです。しかし、それは”乾燥ひじき”の情報なのです。

ひじきを食べたことがある人は多い思いますが、乾燥ひじきを食べる人は…いますか?

シイタケなどと同じように乾燥したものは、水に戻してゆでて食べるのが一般的だと思っています。では、一般的な茹でられたひじきはどうでしょうか。鉄分は58.2mgから2.7mgと約95%まで減り、カルシウムは1/10に。牛乳とほぼ同じ値に…とはいっても牛乳をコップ一杯(約200ml)飲む人は多くても、ひじきを200g食う人は少ないでょう。食物繊維も51.8mgから3.7mgと約93%減です。

*豚レバー(生)の鉄分は13mg いわのり(素干し)の食物繊維は41.7mg(乾燥した状態の数値ですが、ひじきと違いのりは乾燥した状態で食べる人はいるでしょう)

別にこの管理栄養士の方だけ攻撃したいわけではありません。ひじきには鉄分が豊富というグレーな情報を広めているサイトは無数にあります。そして、このように栄養に関する情報では、専門家は間違ったことは書きませんが、データをうまく操作して、読者に誤解をさせるようにしているのです。

おまけに上記のサイトではこんなことまで書かれています(これが書かれていることが今回私がこの記事が悪質と判断した理由です)。

乾燥ひじきを水で戻した後に下茹でをすると半分以上も無機ヒ素の量が減ることがわかっています。50kgの人が仮にひじきの煮物を食べた場合、週に3回以上ひじきを食べ続けなければ摂取量の基準値を超えることはないので、それほど深刻になる必要はありません。

ひじきとヒ素との関連について書かれた部分ですが、栄養素の値は乾燥状態のものを意図的に使用しながら、実際の運用(調理)では茹でられることを前提に安全だと言っているのです。また、記事中にも乾燥した状態での値であることは明示されておらず、間違っているとは言わないものの、これは果たして正しい情報なのでしょうか。

これが栄養学の現状なのです。これは管理栄養士という資格を持つ人が、栄養学が正しく扱われる現場(*)だけではなく、フリーで国家資格を権威にお金をもらってグレーな情報を生産してい人がおり、そして、責任を取る必要がない状態であるのが原因でしょう。

*病院食など本当に正しく栄養価を計算しないと大変なことになり”責任を負って”栄養学を運用している方々

当然このサイトには、

-閲覧や情報収集は利用者ご自身の責任において行っていただくものとし、当社はいかなる責任も負いません。

という文書が添えられています。なぜ、責任を負わずに情報提供するのでしょうか(*)。

続く。

*その不便性は分かります。お客様から、改造・非推奨のセッティングについて可能かという問い合わせがあったりしますが、個人的には問題ないと思っていても、問題になった時に責任を取れないので、無理ですと答えなければいけないときがあります。しかし、それで良いと個人的には思っています。


参考

体にいい食べ物はなぜコロコロと変わるのか」畑中 三応子 著 


“弱者”のための栄養・栄養学について考える

%e9%a3%9f%e4%ba%8b%e3%81%a8%e3%82%b3%e3%83%b3%e3%83%87%e3%82%a3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%8b%e3%83%b3%e3%82%b0この半年間、試合には出ていませんでした。たまに、何しているのと聞かれることがありますが、「料理作ってました」と答えると、???となったりします。

アスリートであれば、コンディションと体づくりには十分な栄養が必要であることは知っていると思います。そして、正しい食事・栄養摂取の方法などについて、検索したり、本を買ったりといろいろな方法で勉強したことがある人も少なくないと思います。私も個人的に、何度も勉強してきました。

ただ、15年以上、納得するような考え方や、栄養学の本に出合うことができませんでした。そこで、試合があるとコンディショニングが必要なので、じっくりと取り組むために当分試合に出ないで、栄養学というものに向き合ってみようと決めたのがきっかけです。


下記、私の個人的な経験についてです。人それぞれ体質が違いますので、私の考えが違う方に当てはまるとは限りません。また、何でも食べられるという強者の方には参考になりません

私は個人的には魚介類が体質に食べられません。というと刺身が苦手なのと聞かれることがありますが、そのレベルではなく、卵焼きの出汁や、チンジャオロース(青椒肉絲)にたまに入れられているオイスターソースも苦手です。さすがに出汁は我慢すれば口に入れることは可能ですが、現在はコンディショニングの観点から風味を感じるものは口にしないようにしています。

そういった人間です。なので、日本の栄養学にそれとなく漂う「全部食べなれる人間になれるのがベスト」という感じにはずっと違和感を感じてきました。まぁ、負け犬の遠吠えであることは分かっていますが、学問というものは弱者にも寄り添うべきだというのが私の考えです。

栄養学・食事というものにじっくりと取り組もうと考えてから、かなりの本を読んだりしてきましたが、ついに自分が共感できる2冊の本にたどり着くことができました。ともに、”弱者”に寄り添う視点を持った本です。

1冊目は「精進料理と日本人」という本です。著者は鳥居本幸代さんという家政学修士の方で、比叡山西麓生まれの方です。。精進料理にはバランスよくなんでも食べるという考えはなく、信仰に則り、鳥獣魚介、および香り高い五葷(にんにく、ねぎ、にら、たまねぎ、らっきょう)を除いた野菜・豆類・穀物類を上手に、限られたものをバランスよく食べるという考え方によって調理される食事のことです。

2冊目は「ジョコビッチの生まれ変わる食事」という本です。著者はテニス選手のノバク・ジョコビッチ選手、世界トップクラスのテニスプレーヤーです。彼の食事に関する考えもバランスよく何でも食べるというものではなく、自分の体がよく消化できるものを中心に食事を組だてていくというものです。具体的には彼は小麦と乳製品をあまり消化(不耐性)できず、トマトもあまりよくないという血液検査の結果となったようです。

誤解のないように書きますが、体に良い(うまく消化できるか)かどうかは個人差があります。ジョコビッチ選手は乳糖不耐症だから乳製品を避けるのであって、人によって異なります。専門サイトによれば、北欧に起源をもつ人では2~5%しか見られない傾向です(*)。

*http://www.biv-decodeme.jp/health/conditions-covered/lactose-intolerance.html

まぁ、簡単な話にすれば、アルコールと同じで、同じ量を飲んでも、酔っぱらう人もいれば、酔っぱらわない人もいるということです。それは個人差であって、「○○は体にいい」と言い切る事に無理があるというのが私の考えで、それを信仰(精進料理)と不耐性を持つプロアスリートの本で同じ考えを見つけたという話です。

(ウィキペディアより)

誰かか何かを言ったからと言って、それをそのまま実践しても得るものは少ないと思います。そこに一般論的なものを探して自分に当てはめて実践していく必要があります。探してみると、驚くことにこの2冊の本には共通点がありました。食事(栄養摂取)に関して共通して下記のことをアドバイスしているのです。

精進料理 – 「五観の偈」より抜粋

・この食事がどうしてできたかを考え、食事が調うまでの多くの人々の働きに感謝をいたします
・食とは良薬なのであり、身体をやしない、正しい健康を得るために頂くのです
・今この食事を頂くのは、己の道を成し遂げるためです

ジョコビッチ選手(プロテニスプレーヤー) - 著書より

・食事は情報だ (P.115)
・ゆっくりと意識的に食べよう (P.118)
・肉体に明確な指示を出せ (P.133) *注釈 食べたものがどのように体に働きかけてほしいのかを意識しながら食事する

どうだろうか。感じ方はそれぞれですので、全く違うと感じる方もいるかもしれませんが、私は一つの共通するものを発見したように感じます。

“弱者”にとっての栄養学・コンディショニングのスタート時点は「自分が何を食べているのか知ること」ではないかということです。ジョコビッチ選手の食事法と中世の宗教家たちの食事法はこの点をスタートとしているのではないかと思います。

冬休みの間、このテーマでいくつかの記事を書きたいと思います。続きます。

*例えば、クッキーを食べて「食事が調うまでの多くの人々に感謝」とは「クッキー焼いてくれた相方にありがとう」ということではなく、その材料である小麦粉を作ってくれた農家さん、全卵を作ってくれた養鶏場の方、バターを作ってくれた酪農業者、サトウキビ(和三盆を使った場合)を栽培してくれた方とそれを製糖してくれた方、そして、すべての源である太陽と水と空気と大地に感謝することではいかという解釈です