九和の弓 周礼考工記

Traditional Archery from Six Continents より

ここで一旦、中国最古の弓製造マニュアルである「周礼 考工記」1に触れておきます。周礼について詳しくは触れませんので細かいところを知りたい方はwikiを読んでいただくとして、3000年前に書かれた本です。もっと後に書かれたという説2もありますが、その数字を採用しても2000年前に書かれた詳細な弓製造マニュアルで、中国最古、(合理的な指示としては)世界でも最古のものではないかと思います。細かな年代の議論は本質ではないと思うので、3000~2000年前の(古代中国)弓についてまとめます。

厳密ではありませんが()の中は私による注釈です。

弓は六つの素材を巧みに結合させることで完成します。

・幹(コアとなる木材)は矢を遠くまで飛ばす

・角(ファイス側のバッキング材)は矢を迅速に飛ばす

・筋(バッグ側のバッキング材)は矢が深く刺さるようにする

・膠は弓を接着して一体となす

・糸(絹糸)は弓身を堅くする

・漆は霜や露など水に対する抵抗力を増す

「幹・角・筋・膠・絲・漆」が弓をなす六材であり、木は冬、角は秋、漆は夏に準備する。膠は聞かず(いつでも良い)。幹(木)は叩いて澄んだ音がするものが良い。矢を遠くまで飛ばしたい者(射遠者)なら、形状は自然に曲を持っている材を選ぶ。矢を深く射ち込みたい((射深者))なら、まっすぐな材を選ぶ。幹は木目に対して斜めに裂いてはいけない。最上の材は柘(やまぐわ)であり、最下は竹である。

角は秋に殺した牛のものが厚みがあって良い。春に殺した牛は薄くて良くない。痩せた牛、病気の牛の角も良くない。角の根は白く、中央は青く、先は太い角が最良である。角は脳に近いほうが柔らかくその弾性を利用してやる。先端は脆いのでよく曲がるところに使ってはいけない。

筋は艶があるものが良い。機敏な動物の筋を使えば、その弓もまた機敏な弓となる。筋はくたくたになるまで叩いてから使う。

膠は最上の接着剤である。鹿、馬、牛、ネズミ、魚、犀(サイ)のものを使う。漆は澄んだものが良い。絹糸は水にあるような色のものが良い。

冬に幹を切り、(秋に獲た)角を春に浸し、夏に筋を作り始め、秋に接着する、冬にゆだめ(弓矯・檠=弓の形を成型するためのジグ)にかけて形を整え、大寒に漆の出来を試す。これで春には弓が完成する。

グリップ(写真の3)は薄いと力の抜けた弓になる、厚すぎるとスタッキングして引けない弓になってしまう。木材、角は火で炙って曲げる。弓は三尺(*)引く、引ききった時、弓は流水の如く曲線を描く。

*当時は20cm/尺=60cm、また1尺3(長さ)=1石(重さ)としているが、1石がどの程度なのかの確かな記録はない。およそ20キロ程度ではないか。つまり、3石とは60kgの弓である。

6尺6寸(122cm)は上製、6尺3寸は中製、6尺は下製である。射手の身長によって使い分ける。

・九和の弓

九和の弓は最高の弓である。九和とは三均の三均である。

一均.材・技・時 (良き素材・作り手の技術・正しい季節のバランス)

二均.角・幹・筋 (3つの反発力を生む素材のバランス = ブレース時)

三均.角・幹・筋 (3つの反発力を生む素材のバランス = 引き切った時)

これらが完璧である弓を九和といい、最高の弓なのである。

弱弓は狩猟と的あて競技に使用する、中弓は練習に使う、強弓は鎧などの硬いもの射抜くのに使う。

・スパイン調整とFOCの調整、シャフトの形状

この部分こそ理解にアーチャリーを知っている人が必要で、中国学の本田二郎先生は注釈で「あり得るのか?」と疑問を呈しているが、意味は明らかである。矢のシャフトを水に浮かべる。上を陽、下を陰。シャフトのノック溝は縦にいれる。

何をしているのかと言えば、水にシャフトを浮かべた時、素材が完璧に均一でない限り、比重が軽い部分(スパインが柔らかい)が上に来る。比重が重い部分(スパインが硬い)が下に行く。不完全な素材を使って矢を作る時、硬い部分と柔らかい部分が左右にあると矢は真っすぐ飛ばない。上下に配分するのが一番良い妥協案となるので、そのための製造工程ですね。3000年前から中国はこのような技術まで開発していたのはすごいです。

的あて・高射用の矢の重心は先端から1:2の場所に置く、兵矢・田矢(通常の矢だと思われる)は2:3の場所にに重心を置く、殺矢は3:4の場所に重心を置く。シャフトは前から1/3の部分まではストレートで、そこからノックに向かって細くテーパーしていく。

以上。

  1. 本田二郎 著『周礼通釈』下,秀英出版,1979.11. 国立国会図書館デジタルコレクション ↩︎
  2. 布野 修司,<エッセイ>『周礼』「考工記」匠人営国条考 ↩︎
  3. 浜口富士雄 著『射経』,明徳出版社 ↩︎
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山口 諒

熱海フィールド代表、サイト管理人。日本スポーツ人類学会員、弓の歴史を研究中。リカーブ競技歴13年、コンパウンド競技歴5年、ベアボウ競技歴5年。リカーブとコンパウンドで全日本ターゲットに何度か出場、最高成績は準優勝。

2 thoughts on “九和の弓 周礼考工記

  1.  写真を拝見すると、矢は弓の右側、引き手は耳の後ろまで引いていますし、取り懸けも親指リリースですね。
    なにより、弓の形がかっこいいと感じました。射ってみたいです


  2. 取り掛けはそうですね。引き方はいろいろとあるようです。射法に関する資料も手に入れましたので、今やっている歴史のパートが終わったら扱いたいと思います。

    来年には遠いかもしれません、熱海で射ってみることができるようにしたいと思っています。

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