Nimes 2013 / 世界インドア ステージ2 を見て


Nimes2013の会場で行われていたメーカー展示会に商談に、隣の体育館では、ワールドカップ・インドア2013 ステージ2が行われていました。
3時間くらいしか観戦する余裕はなかったのですが、道具屋という視点からの感想を少し。上のビデオがダイジェスト編になります。
まず、個人的に面白かったのは、ヨーロッパ(の北の方)では大人気でも、日本ではほとんどのプロショップで販売されていないスウィングVバーを使用している選手がリカーブの男子部門で優勝したことです。おめでとうございます。これを機会に検討されてはいかがでしょうか★
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写真は試合に勝った後にみんなのリクエストに応じて、弓を引くリカーブ男子優勝のROHRBERG選手。たまたま見つけて写真撮りました。
さて、リカーブの方では、特に目立った動きはありませんでした。価格でもわかるとおり、フォーミュラはRX/HPX/ION-Xの間では、特にどれが上位機種といった差はないので、ION-Xを使用している選手は特に多くありません。RX/HPXを使用していた選手の多くはそのままでした。
WIN&WINでは、韓国選手が新しいINNO MAXハンドルを使用して試合に出場しましたが、そのくらいです。確か、この時期は韓国選手はナショナルチームの最終選考をしている時期で、毎年ワールドカップのインドアには韓国のトップ選手は出場しません。アジア圏の選手(日本含め)も多くは出ていないので、リカーブではHOYTが目立ちましたが、そんな理由なので特に評価できる結果ではありません。
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それに比べ、HOYT…というよりもプロコンプ・エリートの圧勝だったのがコンパウンドでした。最後まで残っていた選手のほとんどはHOYTのプロコンプ・エリートを使用していて、ION-Xが新しく出ても、既存のユーザーはGMXやRXから乗り換えない選手が多かったリカーブに比べ、多くのHOYTユーザーがプロコンプ・エリートに早速乗り換えていました。
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今回のワールドカップでは3位にとどまったジェシー選手ですが、HOYTのブースでプロコンプ・エリートの設計について意見交換したところ、面白い話が聞けました。
プロコンプ・エリートはこれまでにないほどユーザー中心に、ユーザーの好みを取り入れた弓だということです。この弓は、弓単体の性能をテストして開発されたのではなく、近年のターゲット競技においてのスタビライザーセッティングでシューティングした状態を想定して開発したものだそうです。
流行りのセッティング(2つ上の写真のように、センターを長く・おもりを先端に多く、サイドは片側で重量を持たせて、重心は若干低めに)で使うのであれば、プロコンプ・エリートは圧倒的に優れているとのことでした。というよりも、そのスタビライザーセッティングで使うために開発されたようなものです。
逆に、自分のスタイルがあって、写真のようなセッティングにしていないなら、プロコンプ・エリートの特性を生かすことができないので、アルファ・エリートなどの既存のモデルの方がいいのではということでした。
当然・スタビライザーとのセットで使用するのが今の常識ですので、スタビライザーを使用した状態を想定して弓を開発するのはどのメーカーもしていることで、ベアボウで弓具テストするメーカーはありません。しかし、そのセッティングの具体的な中身までも想定して弓を開発するのというのは、かなり新しいやり方で、理に適っているものの挑戦的な設計方法です。
リカーブに例えれば「長めのエクステンダーに水平80度のVバーに上にアッパーを一つ付けて、センターにウェイト3つ、サイドにはダンパー1つずつというセッティングで一番性能を発揮すハンドル開発しました」ということで、ここまで想定して設計したモデルは初めて聞きましたし、逆にこのセッティングにしていないアーチャーの購買意欲を失わせる結果になるので、かなりの挑戦です。ただ、今回、ほとんどのトップアーチャーがこの最新モデルに移行したことを考えると、エンジニアの狙いは当たりだったと思います。
他メーカーの状態を考えると、2013年はプロコンプ・エリートの独走になる可能性が高いです。
マシューズの人もいたので、話ししましたが、「Apex7の優れた設計は色あせていない・今でも十分に通用する」とのことでした。その意見には全く同意しますが、この10年でスタビライザーのセッティングから使用する素材、または、カーボンブレードやSFエリートのように今までにない形状のスタビライザーまで登場しているので、進化したアクセサリーに合わせた再設計はあってもいいのではないかと思います。
弓単体ではなく、全体で高性能の弓を作りこんでいくという話をつなげて、もう一つ目立ったのが、CX(Carbon Express)の矢でした。今回、最終的に残った8選手のうち、2選手もがCXの矢(X-Buster)を使用していました。世界戦では、特に決勝に残るレベルの選手はイーストンを使っているのが一般的でしたが、その法則が、少しずつですが崩れつつあるように感じます。
引き金はイーストン自身かもしれません。内輪の話になりますが、イーストンは1年前にHOYTと流通システムを統合しました。もともとから、HOYTはイーストンの傘下のメーカーでしたが、より結びつきを強化しています。それに対抗してか、他のメーカーも特定の矢のメーカーとの結びつきを強化していて、その関係性の中で、(日本では)無名だったシャフトメーカーが急激に製造技術を向上させています。
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PSEはCX(Nano pro)との関係を強化し、マシューズはビクトリー・アーチェリー(VAP)との関係を強化、WIN&WINはカーボン・テック(McKinney II)との関係を強化しています。SFはスイスの・SKYARTから供給を受けていますし、今回会場では、カーボン・インパクトというメーカーがいました(フランスと関係が強いメーカーですが、具体的な話は聞く時間がありませんでした…すみません)。
Carbon Impact
http://www.carbonimpact.com/catalog.pdf

当店では、Nano ProとVAPはテストしましたが、自分の判断で、まだ本格的にイーストン以外のシャフトを販売することはしていませんが、大手アーチェリー製造メーカーとシャフトメーカーが関係を強化して、技術を高めあえば、近いうちにはこれらの4つのメーカーのどれかから、イーストンよりも高品質で、低価格のシャフトが登場する可能性はあると思います。実績でいうと、CX(世界選手権で2つメダル、今回のオリンピックで1つのメダル)が先頭ランナーでしょうか。
HOYTとイーストンの倉庫の統合はイーストンのアーチェリー部門のロジスティックの合理化がメインの目標だったと思いますが、その動きが意外なところに影響を与えている気がしました。
まぁ、そんなこと考えないで、素直な気持ちで見ても、面白い試合なので、ワールドカップのステージ2の動画楽しんでください。2月の7~10日はワールドカップ ステージ3が行われるラスベガスに行って来ます。いくつか新商品が発表される予定です。お楽しみに。


だれでもモノづくりができるのか (FLEX ARCHERY 前篇)

 

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フランスNimesでの展示会とワールドカップインドア観戦後にスペインのFLEXに向かいました。日にちの都合で1日自由時間があったので、スペインの西側、サンティアゴ・デ・コンポステーラという町に向かいました。
西洋世界ではバチカン・エルサレムに次ぐパワー・スポットで、お世話になっている方にパワースポットのパワーストーン(黒琥珀)買って来ました…なんか効用ありそうじゃないですか★

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景気があまりよくないスペイン…聖地でも、銀行のリストラに反対している人たちのデモがありました。スペインの物価はヨーロッパの中でもかなり安い方なので、旅行者としては助かるのですが…どうなっていくのでしょうか。

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ちなみに、通訳の塩飽はアンドラ、京都店の米田はバルセロナに。さらに、ちなみに、サクラダ・ファミリアが教会として認められる(2010年)まで、毎年見に行ってましたが、この教会は寄付のみによって建設されています。寄付金によって、細々と建設されていたために、完成するまでに200年と言われていましたが、近年マスコミなどに取り上げられたことで、観光客が急増し、入場料と寄付金が建設費としてあてられるのですが、この建設費が潤沢になり、あと、想定工期がどんどん短縮され、建築物だったのが、着工から128年目の2010年には教皇によって教会として認められ、外観も後10~15年で完成する予定です。未完の状態を見たい方はお早めにどうぞ。

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2012年の11月にクリス・アンダーソンが来日して講演を行いました。以前から、この「メーカーズ」という運動には注目していたので参加しましたが、簡単にいうとだれでモノ作りができる世界がやってきます。
講演会自体は100人くらいの参加者が集まって、こじんまりと行なわれたのですが、その内容が斬新だったのか、12月ごろにはこぞって(経済系の)マスコミが記事として取り上げました。
興味がある方は読んでみてください。ただ、web記事は1か月くらいでリンク切れると思います。ご了承ください。

 


ものづくりデジタル革命、生産者・消費者の垣根消える(日経マーケ)
MAKERS クリス・アンダーソン著 製造業を変える個人のものづくり(日経新聞)

2030年のモノ作り (日経ビジネス・バックナンバー)

製造業が根底から変わり始めた! メイカーズ革命(週刊東洋経済・バックナンバー)

『MAKERS』に見る製造業の新潮流 (週刊ダイヤモンド・バックナンバー)

 


話をアーチェリーに戻すと、まず、アーチェリー業界では少し前には「機械弦」「手作り弦」とどっちが優秀かという議論がありました。現在では、機械で作った弦が優秀というのが一般的な意見です。まだ、手作りの弦を好んでいる選手も多いですが、いずれ、すべて機械弦に変わっていくでしょう。
まぁ、木製の弓で天然繊維で作った弦を使用している世界であれば、弦も手作りの方が優秀かもしれないですが、ハイテクを駆使したカーボン繊維で作った弓に、合成された繊維(8190ならSK90)を編んで作った原糸を原材料とする弦ですら、機械の精度がますます上がってくれば、弦の製造も機械で作った方が、バランスが取れるのは理解していただける話かと思います。ただ、弦自体の性能ではなく、融通が利くという意味では、手作りの方がいいのは続いていくのでしょう。
*機械製と手作りの弦についての議論は、オペレータが同じレベルという前提です。手作りの弦を作る人が50年のベテランで、機械の弦を作るオペレーターが新卒なら、前者の方が優れている可能性が相当に高いです。
2012年末、アメリカのSpecialtyで弦を作る機械が発表されました。もちろん、FLEXやWinners Choiceのような弦を作るメーカーがあるので、これまでもこのような機械はありましたが、とても高価な機械で個人どころか、プロショップが買えるような値段ですらありませんでした。

SS-600 Cropped

しかし、この機械は16万円程度で、その他の備品一式を購入しても、30-40万円で弦を機械で作る設備を整えることができます。前の「メーカーズ」の話につなげれば、まさに誰でも、優秀な機械製の弦を作ることができる時代がやってきました。
これからやってくる、その時代に大規模メーカーとしてのFLEXの優位性はどこにあるのか、その疑問を胸にFLEXに向かいました。

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Flexはスペインのサンタンデールという素敵な海辺の町にあるのですが、ホテルに着いてすぐフロントから、荷物があるといわれ受け取ったのがこちら。
私たちが泊まるホテルをFlexに連絡したところ、アポの前日にわざわざFlexの方がホテルに来てくださって、歓迎の手紙を置いて行ってくれました。素敵な心遣い感謝いたします。