この記事は2023年4月1日に書かれたものです。最新の情報とは異なる可能性があります。ご注意ください。

デファクトの標準、ATAとHDS

下記の記事同様、歴史編に組み込まれるべき内容だとは思うのですが、どこに入れるか迷っているので、単独の記事として書きました。

イギリスをスポーツとしての発祥の地とし、弓具はアメリカで進化したアーチェリーの道具にはインチ・ポンド表示が使用されています。これはデファクトスタンダード(事実上の標準)と呼ばれます。対となるものは、デジュリスタンダード(定められた標準)です。これがアーチェリーではメートルとインチがごちゃまぜになっている理由です。民主的に運用されているWAはアーチェリーの競技形式を「定める」権限があります。現在、多くの国ではメートルを採用しているので多数決によって、競技ではメートルを使用することが定められていて、強制力が存在します。

そのため競技ではメートルが使用されます。一方で、道具はWAの管轄ではなく、国際的な団体ではないものの、事実上の標準としてアメリカのATAがあります。世界最大のアーチェリーメーカー組合です。彼らによってアーチェリーの規格が決められており、そこでインチ/ポンドが使用されているため、道具は未だにインチ表示になっています。その歴史を少し。

14世紀のイギリスにもアーチェリー職人組合が存在していましたが、それらは競争を促進するための組織ではなく、むしろ競争しないための組合として存在していました。最初の現代的な組合が組織されたのはアメリカです。第二次世界大戦後、軍事需要がなくなったことで、ホイットの創業者のように多くの技術者が転職することとなり、アーチェリーメーカーがどんどん増えていきます。

規格が混乱する中、組合のような組織のアイデアは1947年の全米アーチェリー大会の際に発案されます。1953年の全米大会で、実際に45社のメーカーとディーラーが集まって合意に達して、アーチェリー製造販売業者協会(Archery Manufacturers and Dealers Association = AMADA)が設立されました(法人化は翌年)。その目的は、業界の標準規格を確立、ボウハンティングとターゲットアーチェリーを普及です。

1965年に名称がAMO(Archery Manufacturers Organization)に変更され、ディーラーとの関係が変化します。AMOはメーカーだけのための団体となります。

初期の規格(AMO標準)は1968年に制定され、弓の名称や弦の長さなどを定めたものでした。現在では、コンパウンドに関する規格などが加わり、22の ルールが「ATA 標準」として定められています。86年からこれらの規格は、AMOではなくASTM(米国材料試験協会)のガイドラインとして運営されています。

推測になりますが、規格を決めるときにディーラーまで口出してきたら話がまとまらなかったなど、揉めたのでしょう。規格が広く知られた後、94年、AMOは略称を変更しないで、名称をArchery Manufacturers and Merchants(商業) Organizationとして、再度ディーラー参加できる組織に変更されました。その後、2003年にATA(Archery Trade Association)となり、私達のプロショップにとっては、メーカーと直接話し合う場であるトレードショーで知られています。

日本では1960年代にヤマハなどのメーカーがアーチェリー事業に参入しますが、当時はアメリカにもまだATAの規格はありません。そのために日本では、それぞれのメーカーが独自の規格を採用していました。

国産メーカーは少なくとも8社はありましたが、表示ポンドの基準すらバラバラでした。ネジサイズ等は詳細の記録がないのでわかりませんが、最後まで生き残ったヤマハ(ミリ採用)とニシザワ(インチ採用)の2社でもネジのサイズが違っていたので、過去にはもっと混乱していたのではないかと思います。まぁ、アメリカも初期は同じような状況で、それを主要メーカーが組合を作って話し合い、規格を統一していきますが、残念ながら日本ではメーカーがまとまることはありませんでした。21世紀に入って国産メーカーは消滅します。近年アーチェリーに新しく参入した西川アーチェリーはATA規格に沿って製造しています。

もう一つの事実上の標準はハンドルとリムの結合システムで、HDS(Hoyt Dovetail System)と呼ばれています。名前通り、ホイット社によって開発されたシステムだったのですが、ホイット社が特許を開放し他社にも使用させたために、現在ではすべての競技用の弓に採用されています。

この記事を書くに当たり、特許を再度読んでみましたが、私はこの特許がシステム全体のものだと思っていましたが、リムのピンとダボ(FIG.5)についてだけのものでした。つまり、リムボルトまでの距離は関係ありません。

21世紀に入り、ホイットはリムボルトからダボまでの距離を伸ばしたフォーミュラ規格を発表し、従来の規格をグランプリ規格と再定義しました。ホイットの商標ですので、他社ではフォーミュラ規格をF規格、グランプリ規格をILF(International Limb Fitting)規格と呼ぶことが多いですが、いずれもHDSシステムです(*)。

*HDS=グランプリ=ILFと勘違いしていました。申し訳ございません。フォーミュラもHDSです。


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Ryo

熱海フィールド・あちぇ屋代表。日本スポーツ人類学会員、弓の歴史を研究中。リカーブ競技歴13年、コンパウンド競技歴5年、ベアボウ競技歴2年。リカーブとコンパウンドで全日本ターゲットに何度か出場、最高成績は2位(準優勝)。

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