この記事は2020年2月8日に書かれたものです。最新の情報とは異なる可能性があります。ご注意ください。

我々は技術で負けたのか。国産アーチェリーがベガスで発表。

昨日、ベガスシュートで久しぶりの国産ハンドルが発表発表されました。詳細が明らかになったので、一度レビューを書いたのですが、読み返して、なんか違うと思い、すべて削除し、前田建設ファンタジー営業部という映画を見てきました。映画のおかげか、一晩寝て、睡眠学習したおかげかはわかりませんが、自分の中で謎が解けました。

発表当初からこの企画の応援をする気があまりしなかったのは、キーとなる技術そのもののインパクトもありますが、それよりも大きなモヤモヤとして、そもそも日本のメーカーは技術で負けたのか? ということです。

私がアーチェリーを始めたのが、20年前の2000年なので、それより前のことは詳しくありませんが、2000年にはヤマハとNプロという2社の国産アーチェリーメーカーがありました。それが2010年には1社もなくなってしまいました。

競争に負けたことは間違いないと思いますが、しかし、それは技術だったのでしょうか?判断は個々人がするものですが、私には技術で負けたとは思えません。私の近くの関係者にもそのような思いの人は多いです。技術ではないところで競争に負けたのに、もう一度技術でよみがえろうとしているところに、失敗の反省が全く生かされていないところが、私の違和感の正体です。

***以下、国産メーカー2社は少なくとも2000年段階では技術では海外メーカーに負けていなかったという前提に書かれています。単純に性能が悪かったから淘汰されたと思っている方は読む価値がないかと思いますし、その点でいまさら議論はしません。***

今回のプロジャクトにも参加しているNプロの本郷さんの2007年のブログが残っています(会社はもうないので発注は無理だと思います)。内容には言及しませんが、このような方が入ってやっているということです。

アーチェリー界への提言

さて、技術ではないとしたら、なぜ日本から国産メーカーがなくなってしまったのか。コストではないことは明らかでしょうか。日本とほぼ同じ給与レベルであるイギリス(Mybo)やフランス(UUKHA)、イタリア(SPIGA/Gillo)、もちろんアメリカ(HOYT)にもアーチェリーメーカーがあります。これらの国でハンドルを製造するコストは日本とは大きく違わないでしょう。

アーチェリーショップを経営する立場から見ると、国産メーカーが失敗しゼロになった理由は流通と価格にあると考えます。

まず、流通です。商品はメーカー → 卸・ディストリビュータ → ディーラー(プロショップ) → お客様という流れで動いていきます。この中間を省いて、メーカーから直接プロショップに納品されることもありますが、その部分は大事ではありません。メーカーは価格表を公開しています。そこには、定価(Retail Price)、ディーラー価格(Dealer Price)、ディストリビュータ価格(Distributor Price) が掲載されています(完全版の場合)。

私たちにとって大事なのは、メーカーが弊社にどの価格を提示してくるかです。一般的に言えば、大きなメーカーや老舗は販売したいと言っても、ディーラー価格しか提示しません。その価格は多くの場合、ディストリビュータから仕入れる方が安いくらいです。逆に新しいメーカー、小さいメーカーは販売網を増やしたいので、初回の注文量が少なくとも、ディストリビュータ価格で提示してくれることが多く、安く仕入れることが可能です。

当時、ホイットが日本の各プロショップにどの程度の金額で商品を卸していたかは、もちろん私にはわかりませんが、しかし、少なくとも当時日本に5つのディストリビュータが存在していました。この狭い日本に5つもです。これがどれだけ異常なことか。例えば、2020年現在、ヨーロッパ全体には1社しかディストリビュータがありません。ヨーロッパ全体で1社に対して、日本には5社ですよ。アーチェリー競技者人口で割れば、日本代理店密度はヨーロッパの100倍以上です。

それだけ、ホイットは日本には特別に安く商品を入れていました。同時期、競合メーカーがあったイタリアなどには、そのようなことはなかったと聞いています。韓国にもです。それだけ日本メーカーを競争相手としてライバル視していたということです。

定価は決まっています。定価から2割引いて売るとすれば、どれだけ儲かるかは、単純にどれだけ安く仕入れできるかです。つまり、国産メーカーを売っても儲からない、海外のメーカーを売れば儲かるという状況が国産メーカーの敗因の一つです

もう一つは価格です。記憶ではヤマハの最も安いリムでも6万円でした。ただのグラスリムでこれは高すぎます。そもそも、国内でグラスリムを作る必要があるのでしょうか。例えば、現在のウィンがそうですが、ウィン&ウィンラインで最も安いリムはWINEXで、大手での販売価格約6万円です、価格で見れば、当時のヤマハと同じですが、低価格のグラスリムは中国で作って、別のブランド(WNS/KAP)で売っています。

技術が必要な上位の商品は国内で作り、価格が重視されるエントリー向けの商品はコストダウンを第一に製法・製造場所を計画して安く作る。現在のグラスリムが1万円で買えることを考えれば、6万円は高過ぎます。ぼったくりということではなく、最上位のリムとほぼ同じ製法を採用していたことを考えると、コストから逆算した価格だとは思いますが、そういう事情はお客様には関係のないことです。より安く作る(コストダウン)のも大事です。

ウィン(WNSブランド)でも、SpigaやMyboなどのヨーロッパのメーカーも低価格商品をラインナップしています。逆にホイットは近年上位モデル帯のみに注力し、グラスリムの製造をやめました。どちらも正しい判断というか、まぁ、メーカーそれぞれの戦略かなとは思いますが、最上位モデルと同じ製法で、手間暇かけて、丁寧に国産にこだわって、「グラスリム」を作るという戦略は負け戦としか思えません。単純にV1グレードのインスパイアシャフトには需要がないのです。

(PRWireより)

技術では負けていなかった日本メーカーが負けた理由はこの二つだと思っています。この反省を今回のプロジェクトに生かせるか。逆に言えば、既存のメーカーと同等かそれ以上の性能を有するという条件をクリアし、かつ、既存のメーカーよりも、SH-02をプロショップが売りたくなるコミュニケーションが必要です。そして、低価格モデルの導入。ホイットは現在上位モデルのみで勝負していますが、それはホイットというブランドがあるからです。近年の新規メーカーで、その方法で成功したのは、トップ選手とともに開発し、発売とともにトップ選手が世界大会で実績を残した、MKとChaserだけです。現状、この売り出し方法ができるとは思えません。

やればできる!中国メーカーのハンドルが4か月で銀メダル獲得。

MyboやGilloなど多くのメーカーは、実績を残すまでの3-4年間、幅広い価格帯の商品ラインナップで売り上げを確保してきました。個人的には、3-4万円で購入できる国産ハンドルがあったら、それなりの需要はあると思います。イタリア(Spiga)で出来るのですから、日本で出来ないことはないでしょう。コストではなくな、やるかどうかでしょう。

昨日書いた技術的な記事は消したので、この記事ではSH-02についての技術的なことは書きません。大事なのはそこよりも、流通、価格帯、プロショップとのコミュニケーションです。以前に下町ボブスレーについて書きましたが、あれも技術以前に、選手とのコミュニケーションの失敗の話でしたね。

テレビ東京・ガイアの夜明け・下町ボブスレーの真実について。

NISHIKAWA-archeryさんには本郷さんがいるので、日本メーカーが海外メーカーの技術的な競争で敗れたとは考えていないとは思っています。しかし、負けたのは事実であり、総括が必要でしょう。その部分を反省しての再挑戦となることを願っています。ホイットの最上位モデル以上の価格で、販売するプロショップも少なく、ネット直販もするとかなったら…頑張ってください。

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山口 諒

熱海フィールド代表、サイト管理人。日本スポーツ人類学会員、弓の歴史を研究中。リカーブ競技歴13年、コンパウンド競技歴5年、ベアボウ競技歴5年。リカーブとコンパウンドで全日本ターゲットに何度か出場、最高成績は準優勝。
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