銃弾を空に向かって撃つとどうなる?

前回の記事で矢の位置エネルギーについての計算をしていますが、銃弾にもそれがあるはずだというコメントを頂きました。コメントには返信しました。存在はしますが、それは理論上のものであり、使用はされていないと書きましたが、書いたあとに…なんでだろうとふっと思いました。

AIに向かい合う2つの塹壕書いてもらったら…繋がった

第一次世界大戦での塹壕戦では、直線では相手を狙えないために手榴弾など上から降ってくる系の兵器が活躍しています。であれば、銃も上に向かって撃てば、弧を描いて相手の塹壕に届き、敵を殺傷できるはずで、そのような戦法がないとも言えないですね。良い気付きをありがとうございます。

調べました。やはり、軍事家でも同じようなことを考えていて、マグヌス効果を観測したベンジャミン・ロビンズが1761年にて最初の実験が行われています。その後、詳細な実験は20世紀に前半に集中して行われ、ジュリアン・ゾンマヴィル・ハッチャーという日本語のウィキもある有名な技術者がこれらをまとめ、「役に立たない戦法」であると結論づけて一連の研究は終わりを迎えます。

ジュリアン・ゾンマヴィル・ハッチャー(Julian Sommerville Hatcher、1888年6月26日 – 1963年12月4日)はアメリカ陸軍の軍人で銃技術者。ストッピングパワーの研究を行った初期の学者でハッチャースケールを作成し、銃の研究開発でいくつかの著作を残している。引退後は全米ライフル協会の発行誌アメリカンライフルマンのテクニカルライターを務めていた。

https://ja.wikipedia.org/
マイアミにあった垂直発射実験装置

詳細はその著書「Hatcher’s Notebook(第20章:Bullets from the Sky)1」で詳細に書かれています。10ページ程度ですので、文書をテキストファイルにして、Notebook LMにぶち込んで、AIに要約してもらいました。

まず、弾丸を垂直に発射した場合、その落下地点を予測することは非常に困難であることが述べられています。これは、高高度における風の影響が大きいためです。高高度の風は地上とは異なる方向に吹いていることが多く、弾丸の軌道を大きく変化させる可能性があります。特に、弾丸の上昇速度が低下する頂点付近では、風の影響を長時間受けるため、落下地点の予測はさらに難しくなります。

次に、資料では弾丸の落下速度と危険性について、実験結果に基づいて詳しく解説されています。実験の結果、.30口径の弾丸の場合、落下時の速度は約300フィート/秒(約91メートル/秒)で、そのエネルギーは約30フィートポンド(約41ジュール)であることが明らかになりました。このエネルギー量は、一般的に致命傷を与えるには不十分であるとされています。つまり、.30口径の弾丸の場合、垂直に発射しても落下時に致命傷を与える可能性は低いと言えます。ただし、.50口径の機関銃弾や12インチ砲弾など、より口径の大きい弾丸の場合、落下時の速度とエネルギーは著しく増大するため、非常に危険であるとされています。

さらに、資料では落下地点の予測可能性について、弾丸の弾道係数との関連性が指摘されています。弾道係数は、弾丸の空気抵抗に対する性能を表す指標であり、値が大きいほど空気抵抗の影響を受けにくいことを意味します。資料によると、12インチ迫撃砲弾や航空爆弾、ロケット弾などのように、重量が大きく弾道係数の高い飛翔体は、落下地点を正確に予測することが可能です。これは、これらの飛翔体が空気抵抗の影響を比較的小さく受け、安定した軌道を描くためです。

一方、小銃弾や機関銃弾のような小型の弾丸は、弾道係数が小さく空気抵抗の影響を受けやすいため、落下地点の予測が困難であるとされています。特に、高高度における風の影響が大きいため、垂直に発射された弾丸は落下地点が大きくばらつく可能性があります。

AIによる要約の抜粋

つまり、矢に比べて遥かに高くまで届くので、1.上空の風の予測まで必要にになる、2.風の影響を受ける落下時間が長い、3.小型の弾丸は空気抵抗の影響が大きい、4.そもそも十分に致命的なエネルギー量がない、という以上の理由から、位置エネルギーを利用した空からの銃弾(Bullets from the Sky)は現実的ではないと論じています。

*これは90度での発射についての実験ですが、3の致傷エネルギー量以外は45度などでの発射にも適応できる議論だと考えます。

一方で、科学ライターのMike Followsは関連するコラム(Can bullets fired upwards cause injuries when they return to earth?)で、

(矢の位置エネルギー)を利用したのが、1066年にイングランドで行われたヘイスティングスの戦いで征服王ウィリアムであろう。ハロルド王率いる相手軍は高台に防御陣地を構えていたため、ウィリアムのノルマン人弓兵の矢は盾の壁に当たって無害に跳ね返った。一部の学者は、戦いの終盤にウィリアムが弓兵に命じて、矢を盾の壁の上に高く放ち、上からイングランド軍に降り注がせたと考えている。重力の力で落下する矢は、直接放たれた矢ほどの速度は出なかっただろうが、そのエネルギーは、上空からの矢を予期していなかった兵士たちを殺すには十分だったのかもしれない2

と語っています。ハッチャーの研究を引用すれば、1.矢はせいぜい40mほど上空までしか飛ばないので地上から上空の風の予想が容易、2.落下時間が短い、3.重さに対しての空気抵抗は小さい、4.十分なエネルギーを有していて落下地点の予測が困難ではない&銃弾に比べて大きいので目視可能性が高い、という点で、非現実的な「空からの銃弾」と違って、「空からの矢」は有効だったと考えます。

前の記事、なぜか嘘の記事だと思った人がいるようですが、真面目に書いているつもりです。

追記メモ : 3人以上で操作するマシンガンでの弾道を利用した間接射撃は存在していたようです3

  1. Julian S. Hatcher, Hatcher’s Notebook, Harrisburg, Pa., Military Service Pub. Co., 1947 ↩︎
  2. https://www.newscientist.com/lastword/mg25233622-900-can-bullets-fired-upwards-cause-injuries-when-they-return-to-earth/ ↩︎
  3. https://vickersmg.blog/2021/01/17/indirect-fire-a-primer/ ↩︎

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Ryo

熱海フィールド・あちぇ屋代表。日本スポーツ人類学会員、弓の歴史を研究中。リカーブ競技歴13年、コンパウンド競技歴5年、ベアボウ競技歴2年。リカーブとコンパウンドで全日本ターゲットに何度か出場、最高成績は2位(準優勝)。

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