2003年 - ヤマハ フォージド2ハンドル & Nプロ ZX ウッドカーボンリム
自分がアーチェリーを始めたときの最初のハンドルはヤマハのフォージド2でした。非常に優れたハンドルで、対応するリムが手に入らなくなるまでは使っていました。今回の記事とは関係ありませんが、下記の記事をあわせて読んでいたたければ、営業面と技術面の両軸で理解が進むかと思います。
昨日の記事と直接の繋がりはあまりありませんが、順番としては先にお読みください。
昨日も記事をアップしたところ反響があり、いろいろと話をしたところ、この話をまとめるには1996年のヤマハの日本語版説明書があれば十分ということがわかりましたが、難しいでしょうね。今回はヤマハのセンター調整機構の話。
ヤマハのセンター調整システム
一般的には、そして、チューニングとしてもリムアライメントが正しい作業が、日本ではセンター調整を呼ばれている理由はやはり、ヤマハの姿勢にあることまでは把握できましたが、その前にヤマハ最期のセンター調整機構を理解する必要があります。
*以下、アーチェリーの仕入れ担当としてのネタです。全部読んでも、アーチェリーが上手になったりはしないので、ご注意を。
1960年代からアーチェリーハンドルは大きな進化を遂げてきました。WAのユーチューブチャンネルに1960年代からの世界選手権のダイジェストがアップされていますが、1960年代と1980年代の20年間では使用されているハンドルが全く違います。別物です。それに比べて、1980年と2000年の20年間では使用されているハンドルはそこまで大きく変わりません。そして、2000年と2020年では使用されてハンドルの違いはもはや細部だけです。
1960年代からの劇的な進化に比べてる、近年ハンドルの性能の進化が少しずつ停滞してきていることは明らかです。かつては、新モデルが開発されるたびに劇的に性能が向上(*)し、選手が一斉に新モデルに移行するというサイクルがありました。しかし、性能の向上が停滞するにつれて、この販売手法が困難になっていきます。
*もちろん、失敗した新作ハンドルも存在します。
ハンドルはリムと違い消耗品ではありません。同じモデルでは買い替え需要は基本的に期待できません。メーカーがハンドルの売上を維持するためにはハンドルのデザインと、細部の設定を定期的に少し変えて、短いサイクルでハンドルをもモデルチェンジしていくことが求められるようになりました。この販売方法に最も適した製造方法が現在のほとんどのハンドルに採用されているNC加工です。
これは私見ですが、2000年前後でハンドルの性能の向上は止まりました。2001年頃だっと記憶していますが、このときに開発されたサミックのウルトラハンドルは2004年にWA1440で1405点を記録します。現在はシングルではなく、70mが一般的になりましたが、その世界記録351点もウルトラハンドルによって達成されています。この記録は17年間のハンドル・リムの進化によっても破られていません。
自分も使用していましたが、スリムな設計がありなが、しっかりとした重量・質感があり、いいハンドルです。1990年辺りまでは鋳造ハンドルが一般的でしたが、初期投資が高く付き、一度作ってしまうと売り続ける必要があります。つまり、長期間モデルチェンジできないのです。これがヤマハが作り出し、最期のリムとなってしまった「リム側に搭載されるセンター調整機構」を生み出す原因となります。
センター調整機能の搭載されていないイオラはヤマハの最期のロングセラーモデルとして数々の実績を残していきますが、当時のヤマハの開発者の気持ちまではわかりません(下に続く)が、これを最期にヤマハもモデルチェンジが容易なNCハンドルへ切り替えを行います。それが初代のフォージドハンドルです。
イチから設計するハンドルですので、フォージドハンドルにセンター調整機構を搭載することには、特許を除けば、なんの問題もありませんが、しかし、イオラには搭載されていません。更にイオラは設計の変更が容易でない鋳造ハンドルです。フォージドはリムポケットをNCで加工しますが、鋳造ではリムポケットまで金型で作ってしまうので変更は困難です(*)。結果、新しいハンドルと実績のあるイオラハンドルの2モデルを次年度に併売するには、リム側にセンター調整機能を搭載するしか選択肢がなくなってします。
*コメント欄にお客様からの質問が寄せられていますが、その回答と誤解を修正するために加えられた一文です。コメント欄の流れを読むときには、この一文は加えられていない前提でまずは読んでください。
結果がこれです。現在ではワッシャー式にしてずれないように、ネジを二重にして両側から固定したり、更にそれに加えて、ロックボルトを入れて強固に固定しているセンター調整システムを、この小さなワンポイントに搭載するしか選択肢がなくなります。実際の開発者の気持ちはわかりません(上のを承ける)が、マーケティング的な制約のもと開発した、するしかなかった機構を酷評されるのはいたたまれないものだと思いますが、こんなものでしっかりとセンターが固定できるはずはありません(*)。
*この機構が開発者主導で導入されたという話を聞いたことがありません。もし、あれば、コメントください。
そして、その解決策としてヤマハが提示したのは、しっかり固定できないなら、接着剤で止めてくれという…だったら出荷時にセンター出して接着剤で止めれば良くないか?それではハンドルの個体差に対応できない?だったら、手持ちのリムも接着してしまったら、もう特定のハンドルでしか使えないじゃ?
どう突っ込むかはおまかせするにして、その後フォージド2ハンドルを発表して、ハンドル側では、意図通りの短期間のモデルチェンジをしたものの、このリムを最期にヤマハはアーチェリーマーケットから退場することとなりました。そして、私達はセンター調整機構はしっかり固定されるべきであることを学んだのです。
*私は開発ではなく仕入れ担当ですので、営業側の証言が多い状態で構成されています。開発者側にはまた違う意見があったのかもしれません。