令和のスタビライザー理論 – 3.当たり前のサイト

前回の続きとなります。全ア連のアーチェリー教本におけるスタビライザーの、そしてそこから現在でも何人かのアーチェリーのスタビライザー論について日本語で発信している人の間違いは上の写真です。

ここからは当たり前の話、勘違いしている人の洗脳を解くための記事ですので、正しく理解している方はパート3は読まなくても問題ありません。

全ア連のアーチェリー教本でスタビライザーを装着した状態で、慣性モーメントを計算して、図示しています。そして、アッパーはたった145gとして計算しています…え、200gくらいはあるサイトは?

慣性モーメントを計算する場合、実際には存在するレスト・プランジャー・クリッカーを計算に含めずとも、大きな違いはありませんが、9インチもエクステンションバーを持つ、実質スタビライザーとしての機能を持つ、サイトは流石に入れないとまずーいでしょうよ。

1973年のジョン・ウィリアムズ選手(John Chester Williams)、70年代にはエクステンションバーをもつ現代的なサイトは広く存在していました。

Controlling Bow Behaviour with Stabilisers – Steve Ellison

これは同時期の英語で書かれたスタビライザー論です。当然ですが、現代アーチェリーでは不可欠なサイトを装着した状態で慣性モーメント論が語られています。

9インチものエクステンション、そのバーの剛性・減衰を追い求めてのカーボン材の採用、サイトダンパーといったダンパー機能。70年代からサイトとスタビライザーなのです。スタビライザー論を語るときにサイトを抜いて語る理由は全くの理解不能であります。

この記事を読んで理解していただきたいこと、サイトをスタビライザーとして扱っていない理論には価値がないです。

RamRods JVD OPEN アーチェリーセミナー 日本語要約

Ramrods/JVDが素晴らしいリカーブチューニングガイドをYoutubeに公開してくれています。解説者のデントン氏は今年Denton Archeryを立ち上げるので、ぜひ応援よろしくお願いします。

話は一般的なリカーブチューニングをベースとしていますので、それらの理解をまずしてください。また、私の翻訳は意訳で、私の解釈が含まれます。
その上でより専門的な追加知識としてデントン氏は

アライメント調節においてスタビライザーを絶対的な基準点として推奨します。理論上スタビライザーが100%真っ直ぐに組み建てられ、ハンドルのセンターブッシングが100%の精度を持っていれば、ハンドルのアライメント=センタースタビライザーです。しかし、100%の製品はなく、さらに、5+30インチ程度の長さを持つことで0.1mmのズレが、トップウェイトでは10mm=1cmのズレになります、このとき、ハンドルのアライメントとスタビライザーのアライメントと同一ではありませんが、100%真っ直ぐなスタビライザーに出会うまで買い替え続けることを選択しない限り、スタビライザーを基準点とすることを推奨しています。

バイターゲージを使用するとき、これはリムにほぼ任意の位置に取り付けられるわけですが、最もハンドルに近い場所に取り付けるべきです。これはその点が最も弦から離れている位置であり、弦からゲージまで距離があったほうが精度が高くなります。

リムのチップねじれの確認を忘れずに(下記参照してください)。その上でハンドルのアライメント調整には幅があります(例えば、リムを左右にあるネジ)。それが10mmの調整幅を持っていても、チューニングによって、その調整幅を使い切らないと正しいチューニング結果がでない場合には、何かの問題が起きている可能性が高いのでプロショップに相談しましょう。

矢についてですが、リカーブにおいて世界大会でメダルを獲得しているシャフトは基本的にX10なので、X10をベースとして説明しています。

2023年の世界大会で確認したところ、ほぼすべての選手がセンターショットはシャフト幅の1/2-1/4外にあった。矢を発射したとき、完璧なチューニングであっても、弓のその非対称性から、わずかに矢を下に押し出します。そのために矢(シャフト)はプランジャーチップの真ん中か、もしくは僅かに上で接触しているのが望ましい。

現在は渋谷のレストを使っているが、以前にはAREレストを使用していて、レストバーの硬さ(太さ)を調節できた。このチューニングは再び蘇ってもよいのではないか?また、レストバーは消耗品だと理解し、年単位では交換を推奨します。

弦については韓国選手はすべてBCY 652 Spectraの20本弦を使用しています。この場合、0.014-15″のセンターサービングがSサイズノック(#1)に合います。私が知る限り、バイターアウトサートノックでLサイズ(#2)を選択する選手はいません。

弦をねじる回数はグルーピングに関係ありません。Vic Wunderle選手(シドニーオリンピック銀メダル)は弦がまるまるほど捻っていました。(山口注:ねじりゼロはおすすめできません。回数の上限は特に無いという意味であり、下限はあります。10回以上は捻ったほうが良いです)

ホイットでの実験からコンパウンド用の原糸使用は弓の破損リスクを5倍にします。

ファインチューニングをドイツチームは70mで行いますが、韓国チームは30mで行います。ドイツチームは4-5ダースのX10から競技用のシャフトを選別しますが、韓国はチームはそこまでせず、シャフトの厳密なスパインと重さを測定するだけです。また、彼らは完璧な結果ではなく、わずかに矢が弱めがゴールとしています。つまり、弓が僅かに強い状態です。これは韓国や日本のトレーニングセンターのような屋内からシューティングしてチューニングする場合、屋外での競技本番では、日光の影響で弓が僅かに弱くなります。そのために屋内での完璧は屋外での完璧ではありません。屋外での弓の変化はブレースハイトの変化に主に現れます。ブレースハイトを維持することが大切です。

以前はFOCが話題にのぼたりしていましたが、X10においては、buckle(バックリンク)のほうが大きな問題です。X10はバレルタイプのシャフトなので、ノックエンドか始まるパラドックスはポイントの重量が大きすぎるとは問題となり得ます。

樽型シャフトとポイント重量による矢の挙動

正常なパラドックス vs 座屈と干渉

待機中

ボタンを押すと、4秒間のスローモーションで物理挙動を確認できます。

物理学の要点

  • アーチャーズパラドックス: 矢は一定の周波数で左右にしなりながら飛びます。
  • 座屈(Buckling): 先端の慣性が強すぎると、復元できないほど大きく折れ曲がります。

(山口)上記に図示しました。x10/100grにおいて矢が正しく挙動するという意味ではなく、100grにおいて正しく飛び出すとしたら、過剰にポイントを重くした場合、FOCの数字が上がっていく以上に何が起こるのかを示しています。

X10においてポイントを重くしていくことは、FOCを変化させる以上の意味を持ちます。バレルタイプシャフトであるX10では、ポイントがある程度以上になるとバックリンク(座屈)という現象が発生する危険性があります。X10でクリアランスの問題が発生している場合、この可能性を考慮してください。

キム・ウジン(Kim Woo-jin)選手は120grを選択していますが、エリソン選手は90/100grのポイントを選択しています。120grと100grで風に対する抵抗力が異なるという実験結果はありません。ポイントによって重心の位置だけではなく、クリアランスに変化が出る可能性があります。


ほかにも色々と語っていますが、このサイトでガッツリ触れてこなかった情報は以上かと思います。参考になれば幸いです。

元ホイットのデントン氏が新ハンドルを発表

20年近くHOYTでリカーブ部門の設計に関わっていたデントン氏は2025年にRamRodsに職場を変えていたのですが、今年、自身のブランドで新しいハンドルを発売することになりました。

新しいブランドである「Denton archery」のインスタは全体図と詳細なリムポケットのデザインが公開されていますが、新しい機能が何なのか気になりますね。彼の設計の特徴、ホイットにいた期間の大きの変化はほとんどリムポケット・ハンドルとリムの接合についてでしたので、新しいイノベーションをもたらしてくれることに期待したいです。

デントン氏(Douglas Denton)の最近の動向を確認のために再検索したら、去年のJVDで行ったセミナーがなかなか興味深い物でしたので文字起こしして解説記事を書きたいと思います。

元の動画もユーチューブにはありますが、3月の事件でもネットに上がっていた情報が大量に削除されたので、大切な情報はブックマークやリンクを持っておくだけでは不十分ではないかと思います。手元に残すことをおすすめします。

令和のスタビライザー理論 – 2. 誤りを探る

(下記の記事の続きです)最新のスタビライザー理論を考えるのにまずは、過去に書かれた昭和・平成時代のスタビライザー論の間違っているところを探るところから始めます。自分が知る限り、一番まとまったスタビライザー論は全ア連が発行したアーチェリー教本の中で、ヤマハでアーチェリービジネスに関わっていた伊豆田さんによって書かれたものです。

これまでも何度か読んだことはありますが、改めて精読してみるとスタビライザーとはなにかの根本を正しく捉えられていない事がわかり、ちょっとショックでした。思った以上に間違っていました。彼の理論では、単純にスタビライザーを装着するとエイミングが安定します。しかし、これは試してみれば誰でもわかることです。押し手でハンドルを的に向けて狙ってみると、ベアボウの状態が最も安定するはずです。スタビライザーをつけるだけどんどん不安定になります。スタビライザーが「安定させる働き」をするのはフルドローのときと発射後だけだという前提がまるっと抜けています。

文書は「静的安定」「動的安定」という項目から始まります。その説明は正しいのですが、なぜこれを分けて考える必要があるのかの説明がまったくありませんでした。多くの間違いがありますが、この部分の間違い(説明がまるっと無い)が一番致命的なので、これだけでも読者の皆様に伝えたいと思います。

アッパーロッドの静的・動的効果

スタビライザー装着状態(150g)— 静的と動的で効果が逆転する

アッパー 150g ピボット(支点) 重心 (CG) 重力 36N ↓ 前傾抑制 (安定)

↑初めて導入します。ボタンを押すと切り替わります。


ここに「静的」と「動的」の違いを図示しました。静的はフルドロー時のスタビライザーの働きです。ハンドルにアッパーを装着したことで重心はピボットポイントから、的側、かつ、アッパー側に移動しました。「エイミング時=静的」ハンドルは重心が的側に移動したことにより、的側に倒れようとする力(緑の矢印)が働きます。

一方で、発射し押手によってハンドルが的側に押し出されたとき、「発射時=動的」ハンドルが的側に動こうとすると、重心は支点より上方にあるので、ハンドルは上向きに回転(赤の矢印)という全く逆の動きをします。この違いが「静的な安定」と「動的な安定」の違いです。同じスタビライザーセッティングでも、

(本当の静的状態) = 弓の重量が大事 =できるだけ無い(軽い)方が良い

(エイミング時) = 弓の重量が大事 = X軸の重心位置が支配的

(発射時) = 弓の重量の5倍以上の押し出し力が大事 = Y軸の重心位置が支配的

となります。静的安定性と動的安定性の中に適切なスタビライザーセッティングが存在することとなります。