先日、コンパウンド弦の働きについてお客様より質問があり、コメントで回答しました。お客様に伝わったのかどうかはともかく、非常に下手なイラストで説明したのが心苦しく、新しい記事とちゃんとした写真で再度説明させていただきます。
*理解には中学校レベルの物理学の知識が必要です。
説明する内容は「コンパウンド弦はなぜウェイトを弦に追加すると矢速が増すのか」です。よく知られているように、リカーブの弦にウェイトを追加すると矢速は遅くなります。しかし、コンパウンドでは弦にウェイトを追加すると矢速が速くなります。Flex ターボ・ボタンの場合、実測で2fps矢速が速くなりました。
では、なぜ、コンパウンドの弦にウェイトをつけると矢速が速くなるのか。それはコンパウンドのパワーストロークの終わりで、角運動量保存の法則が働くからです。いつか忘れましたが、中学校か高校で習ったはずの法則の一つです。
ウィキペディアの説明によると、
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質点系について, 単位時間あたりの全角運動量の変化は, 外力によるトルク (力のモーメント)に等しい(ただし, 内力が中心力であるときに限る)。
この特別な場合として, 外力が働かない(もしくは, 外力が働いていたとしてもそれによるトルクが0の)場合, 質点系の角運動量は常に一定である。例えば、フィギュアスケートの選手がスピンをする際、前に突き出した腕を体に引きつけることで回転が速くなる(角速度が大きくなる)。このとき回転軸から腕先までの距離が短くなるため, かわりに回転が速くなることによって, 角運動量が一定に保たれる。
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ということです。それがどうコンパウンドの弦に働くのか。ハイスピードカメラの動画と測定されたドローフォースで説明します。
まずはスタート地点、リリースされる前。リムにはフルにエネルギーが蓄えられており、弦は直線になっています。
次にリリースされた直後、パワーストロークが2インチ進んだ地点です。矢とスピードノック(ウェイト)の加速が始まりますが、パワーは35ポンド程度で、スピードノックが追加されている部分は、慣性の法則によって、元の場所に留まろうとするので、加速が遅れ、弦は直線ではなく曲線となります。
次にパワーストロークが16インチ進み、弦にフルパワーが働く地点で、その力によって弦は再度直線となります。、ここで弦にエネルギーが蓄えられ、先の例で言えば、フィギュアスケート選手が回転を始めるポイントです。
ここで初めてスピードノックが仕事をします。パワーストロークが21インチ進み、リムのパワーは56ポンドから10ポンドまで下がります。ここまで来るともうリムの力は弦には伝わっていません。弦は最もパワーが強かったときに蓄えられたエネルギーで動いています。この地点で角運動量保存の法則が働き、より回転軸(アクセル)に近いスピードノックのほうがより速く回転し、前に進みます。この力が的側に弦を引っ張り、その結果矢速が1%程度増加します。
これがスピードノックが矢速を速くする理由です。ただし、スタート時点で加速が遅れるように、ピークポンドが低い(20-30ポンド)などの場合では、スピードノックが矢速を減少させてしまう可能性もあります。また、リカーブではドローフォース(fx曲線)がコンパウンドとは違うので、このような効果はありません(そもそもスピードノックの装着は禁止されています)ので、ご注意ください。