ハイスピードカメラやいろいろな計測の結果から、次に進むためにいくつか話をしていますが、弓の性能の評価の基準が時代とともに進んでいるのを感じます。今日は自分の弓をどう評価するかという話を書きます。

かつては、弓の性能はfx曲線などで表現されていました(↑)。現在ではマニュアルなどでもあまり使われなくなっているので、もうリカーブでは見たこともない人もいるかもしれません。縦軸にポンド、横軸にドローレングスをとって、各ドローレングスでのポンドをプロットして作ります。横軸のブレースハイトの値から伸びて行く一本の線になります。通常は直線ではなく、波のような曲線になります。
なぜ、fx曲線と日本で呼ばれているのかは分かりませんが、正式にはそれぞれの軸の名称をとって「Draw-Force curve」「Force-Draw Curve」と呼ばれます。
昔はリムを買うと、このグラフが付いてきた記憶があります(結構昔の話で記憶があいまいです…ごめんなさい)。昔は、fx曲線を基準に議論していましたが、最近では効率性を基準として弓の評価・議論をするのが一般的です。
議論する前に、まずは、ご自身の弓の効率性(Bow Efficiency)を計算してみてはいかがでしょうか。そのやり方の説明です。ちょっとは数学の知識が必要かも。

多くのアーチャーが効率性を議論に使いだしたきっかけは、個人的には、その測定が2005年ごろから圧倒的に簡単になったのが原因かなと思っています。それまでは2時間くらいかかる作業でしたが、今では、5分もかかりません。
fx曲線などよりも、弓の効率性の方が弓を評価するための基準に適していることは、誰もが分かっていましたが、誰でも測定できるfx曲線と違い、効率性を簡単に測定する機械は、イーストンが販売を始めるまでは存在しませんでした。
しかし、今では10万円以下で弓を評価するための一式が揃うようになり、多くの意見が効率性を根拠に発信されるようになっています。
弓の効率性を計算するために必要なものは、イーストンのDraw Force Mapping system。なければ、ドローレングスアロー(もしくは、矢にインチの数字をマジックで書きこんだ矢)とポンドスケールで代用できます。それと、グレインスケールです。
手順は
1.弓のエネルギー量を計算する
2.矢のエネルギー量を計算する
3.弓の効率性を計算する
の3ステップです。

まず、1ですが、イーストンのfx曲線の測定器を使用してfx曲線を測定します。それをコンピュータの方に送信すると、機械が自動的に、弓に蓄えられたエネルギー量を計算してくれます。上の赤い部分が弓に蓄えられているエネルギー量です。
お持ちでない場合は、ドローレングスアローを見ながら、1インチごとの各ドローレングスでの実質ポンドを記録して線でつなげると、fx曲線を描く事が出来ます。


線が直線ではないので、機械を使わないで計算するのはかなり困難ですが、そこまで正確でなくても良い場合には1インチごとに区切って近似値を計算する事が出来ます。
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イーストンのシステムでは写真のように計算して(Stored Energyという欄です)、レシートのような感じで出力してくれます。
今回は写真に書かれている74(ft-lbs)という値を使用します。
次に、2について。矢に伝わったエネルギーは矢の初速と矢の重さから計算することが出来ます。まずは矢を6本うちます。その矢速を測定し、平均値を求めます。初速が必要ですので、1で測定したパワーストロークの長さ分だけ、矢速計の入り口のセンサーから離れてシューティングをして下さい。今回は平均値を300fpsとして計算します。次は、グレインスケールで矢の重さをはかって下さい。今回は350grとして計算します。
矢に伝わったエネルギーをKEとすると、その値はMKS単位系の場合
KE = 0.5 x 矢の重さ(kg) x 矢の初速(m/s) x 矢の初速(m/s)
から計算できます。矢の重さと矢速を入力するだけで計算してくれるサイトもあるので、そちらを使った方が楽かもしれません。
矢に伝わったエネルギーの計算サイト(by EASTON)
http://www.eastonarchery.com/products/selection_kinetic
上のサイトの「Arrow Weight (grains)」に350と、Arrow Velocity (ft./sec.)に300と入力して、「Calculate」ボタンを押すと、「Kinetic Energy (ft.lbs.)」の所に計算された値が表示されます。
この場合は
69.96となります。
手で計算すると
KE(J) = 0.5 x 0.02268(kg) x 91.44(m) x 91.44(m)
KE(J) = 94.81524771
となります。ここから、フィートの単位系に直すと
KE(ft-lbs) = 94.81524771 / 1.3558
KE(ft-lbs) = 69.93306366
となります。原理はこうですが、単位を変換せずに、グレインとfpsの値をそのまま使って計算する場合は
KE(ft-lbs) = 矢の重さ(gr) x 矢の初速(fps) x 矢の初速(fps) / 450240
で計算できます。
この場合は
KE = 350 x 300 x 300 / 450240
KE = 31500000 / 450240
KE = 69.962686567164179104477611940299
となります。
イーストンのサイトが計算してくれた69.96を使います。
これで終わりです。
フルドローで弓に蓄えられたエネルギー量は74.0でした。そして、矢に伝わったエネルギー量は69.96でした。つまりは、
弓の効率性 = 69.96 / 74.0
弓の効率性 =
94.45%
です。
良くリムの重さを取り上げますが、残りの6%のエネルギーはつまりは、弦・リムを動かすのに使われ、発射後は振動・音になります。コンパウンドの場合には、矢に重りを付けると矢速が上がるという話もありますが、この計算は、発射前のドローイングに使用する力と、発射後の結果としての矢速と矢の重さから計算するので、それらの要因は全て考慮されています(けど、分解するのは困難…)。
(*これはあくまでも計算上の話で通常の弓の効率性は75-85%程度です。95%近い弓は見たことがありません)
弓を評価する上で効率性が最も大事な指標とは言いませんが(*)、効率が良くて困ることはまずないはずです。また、リーチが短い・ポンドが低いアーチャー程、どれだけ弓がエネルギーを効率的に矢に伝えてくれるかが大事になります。同じポンドでも、このリムの方が速いといわれる場合、それは効率性の数字が高いからです。
話が長くなりましたが、技術の進歩によって、理論上に過ぎなかった話が、どんどん現実的な議論として出来るようになってきています。設計図を見ながらでしかミーティングできなかった時代には意味のあった事も、ラピッドプロトタイピングで、2時間待てば、その試作品がミーティングテーブルに並ぶ時代に、古き良きにいつまでも固執する必要があるとは思えません。
といいつつ、今度は「矢が飛んでいる所を見ることは出来ない」という前提に立って開発された、ペーパーチューニングのやり方のビデオ作ろうかという話が進んでいたりしますが…。。移行期ですから。。。
*最も大事なのは再現性ですが、現在のハイエンドモデルでは再現性に問題がある弓を探す方が難しいと思われます