FIVICSのトップセーバーについて

SONY DSCFIVICSから新しく発表されたトップセーバー(弦とリムの間に入れるタイプのダンパー)が届き、間もなく実射テストの予定です。シューティングマシンと測定センサ類がある大久保店が朝から大忙しとのことで、現在近射レーンの順番待ちです。

なので、この商品に関して少し書きます。

販売する前のテストで一つびっくりしたのが、この商品がヤマハによって、特許が取られていたことです。特許公開2003-75095というもので、その後アーチェリー事業から撤退したためか、特許は放棄され、権利消滅日は平成20.2.4です。また、もう一つ、2004年にも同様の特許申請がされていますが、こちらはその後自主的に取り下げられています(未審査請求によるみなし取下)。

実際に特許になった申請 – 洋弓及び振動吸収部材並びに振動吸収方法
取り下げられた申請 – 洋弓及びその振動吸収部材

特許の中身を知りたい方はリンクの先で見ていただくとして…特許の仕組みにはあまり詳しくありませんが、発明しなくても簡単に特許ってとれるんですね…。

この商品はリカーブというものが使われ始めた時から、おそらく500年前から存在しているものです。それで特許が取れるとは…。

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前に、京都店の米田からリカーブの定義を聞かれたことがありますが、言葉上の定義はともかく、アーチェリー屋の定義としては「弦がリムのチップ以外の場所でリムと触れている弓」がリカーブボウです。なぜ、そのように定義されているかというと、伝統的なロングボウと呼ばれる弓ではリムチップのみで弦とリムが接触しています。このタイプの弓は非常に静かです。リムチップでしか弦が弓と接触していないので、弦がリムに当たって発する音がありません。

対して、リカーブボウではリムチップ以外で、弦とリムが接触しているので、発射時に弦がその場所に当たり音が発生します。リカーブボウではロングボウは違い、その対策が必要になります。

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上の写真のものは「リムサイレンサー」と呼ばれるものです。その理由は、現在の競技においては振動を吸収し弓を安定させることが目的ですが、このアイテムがはるか昔にアーチャーによって発明されたときには、獲物に逃げられないようリカーブ構造によって発生する音を消し、獲物に気づかれないようにするのが目的でした。そのため、ダンパーやセーバーではなく、サイレンサー(消音器)と呼ばれます。ただ、働きは同じです。
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革の切れ端やゴムの切れ端で自作するのが一般的ですが、商品としても販売されています。商品としては60年前くらいから販売されていると思います。

もうヤマハの特許は失効しているので、現状でトップセーバーなどの「リムサイレンサー」を販売することには何の問題もないと思いますが、何百年もリカーブスタイルのボウハンターたちによって使われてきた商品で特許を取れることは驚きです。失効していなかったら、この商品を販売できなかったことを考えると、「特許」というのは恐ろしいものですね。


新しいアプローチとしての竹コアリム

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傑作とかというわけではありません。あくまでも、良いリムを作るための一つの新しいブローチです。本日、竹をコアとしたリムが入荷しました。
カーボンは使われていません。竹(バンブー)とグラスファイバーだけで作られているリムです。
竹という素材は、今でも和弓の世界では一般的です。和弓は竹と竹を焼いて作った天然のカーボン(グラファイト構造)であるヒゴを使って作られます。ちなみに、竹の勉強をする中で、和弓の弓師の方が書いた面白い本を見つけたので、取り扱いすることにしました。探してみてください。
話を戻しますが、昔の日本では洋弓の世界でも竹の弓が使われていたようですが、雑誌アーチェリーの昔の記事を読むと、いい印象を持っている方は少ないようで、引きにくいという意見を持つ方が多いです。
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Mechanical properties of bambooより引用
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自分は昔の竹弓は引いたことがないですが、今はアメリカのロングボウの世界では竹の弓は活躍し、優秀な素材として上位モデルに使用されています。なんといっても、その特性は軽いこと。木と違って中が空洞になっているためです(リムの写真の切れ端からファイバーが見えるかと思います)。アメリカでは、フライト競技で(矢が飛ぶ距離を競う)一般的に使われています。マーチン社のバイパーという竹コアの弓は7万円以上もする弓です。
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(弓具の見方と扱い方 浦上栄著 P.81より)
昔の洋弓での竹弓がどういう構造か、資料を見つけることができませんでしたが、アメリカでの活躍から考えて、引き味が悪いのは、素材の問題ではなく、設計の問題だったのではないかと思います。上の図は和弓のFx曲線を測定したものですが、ほぼ直線で、アーチェリーの世界でよいとされているふくらみのあるものとは大きく違うことが分かるかと思います。
本来竹を弓に使うという文化はアメリカにはありませんでしたが、おそらく、日本、もしくはアジアから輸入された練習用の弓から伝わって、一般的になったのかもしれません。その技術をリカーブ用のリムに利用し、開発されたのが竹コアを使用したこのリムです。
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価格も、グラスファイバーしか使っていないことからも、決してこのリムは上位モデルとして作られたわけではありませんが、自然の中空素材をコアに使用することで、”良い”リムを作るための一つの新しいアプローチとしては、大変興味深いモデルなのではないかと思っています。
一番の特徴はやはり引きが大変柔らかい事です。非常に柔らかくスムーズです。ただし、写真の通りリムはかなりの厚みがあり、M34ポンドで、INNO EX POWERのM44ポンドよりも厚いです。重さはカーボン550より少し軽い程度で、M34で200グラムになっています。カーボンも使われていませんので、けっしてスピードが出るリムではありませんが、その引き心地は大変良いです。
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(左がバンブーファイバー、右がINNO EX POWER)
リムの設計はクラシックです。高速でシャープなINNO EX POWERに比べて、かなり緩やかなデザインです(なのでスピードは出ません)。
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チップは小さく作られています。

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COREアーチェリーは中国のメーカーで、いくつかの種類のリム・ハンドルを製造しています。記憶によれば、このブランドで営業を開始して、3年くらいです。
現在世界中で竹コアを使ってリカーブ競技用のリムを作っているのはこの会社と、アメリカのSKYアーチェリーだけです。SKYアーチェリーだけです(たぶん)。SKYのモデルは販売するとしたら6万円を超えるものですので、手軽に試していただけるものではありません。
そのために今回このモデルを仕入れました。好評であれば、SKYの竹をコアに使用した上位モデルの取り扱いも検討する予定です。また、低価格のリムですが、取り扱いしたことのない素材ですので、長期保証が付きます。60年代の竹の弓を引いたことはあっても、現在の技術で加工された竹の弓を引いたことがある人は少ないと思います。本当にスムーズなリムです。高速リムではないことを理解の上で、試していただければと思います。この新しいメーカーさんにも期待しています。