SCOTT  新製品 その2

1980年代前半、ビル・スコットが自ら開発したリリーサーを発表してから、その革新性とパフォーマンスは多くのトーナメントアーチャーやエキスパートハンターたちから絶大な信頼と人気を博しています。
そのスコットから、初のサムトリガーリリーサーが登場しました。

その名は「EXXUS(エクサス)」

~以下は説明文~
サムトリガーながら、スコットの代表的なトリガーレスリリーサー「ロングホーン」と同じプラットフォームを持ち、人間工学に基づいたその細身なテーパー状ハンドルは高い再現性を生み出してくれます。
トリガーテンションは、付属の3種類(弱中強)のスプリングから選び*、お好みの強さに調節が可能です。また、最大限まで引き上げられた内部パーツは、ステンレスの中で最も高硬度・強度を有する「440鋼ステンレス」で構成されており、これらのパーツには耐摩耗性の高いチタニウムコーティングが施されています。~
*プリセットは「中」です。


赤と黒のツートン。
STANのエレメント見たいな配色です。

確かに、カーターやTurBallなどのリリーサーに比にべると随分細身で、ロングホーンとほぼ同じシルエットで一見サムトリガーには見えないぐらいの細さです。
STANのエレメントも細身ですが、それ以上に細身です。

   
STAN エレメント   SCOTT ロングホーン(ProADV)

その細さに対する受け止め方には個人差があると思いますが、実際手にすると快適な感触が伝わってきます。
快適な感触とは、指先の均等なウエイト配分がスムーズに行え、矢筋を真っ直ぐに保つ感触を得られやすい、と言う事です。
表面仕上げは「つや消し」で、ホットショットのテンペストみたいな独特なさわり心地、“サラサラ”した感触。
色は赤/黒のコンビカラーのみ。
トリガーは、STANなどで良く見る?形状のアジャスタブルデザインが採用されています。
 

SCOTT初のサムトリガーリリーサー「EXXUS(エクサス)」
また一つ、注目のリリーサーが誕生しました。

店舗および通販店で発売中です。


現代アーチェリーの歴史…その一

(ちょっとしたメモ書きです)
先日、アーチェリー雑誌に弓具に関する技術的な文書を投稿したところ「その程度の研究・知識がある人間は日本に山ほどいるんですよ」と諭されました。自分がこの記事に書いていることは、常識レベルにちょっと毛が生えた程度のようです。
まだまだ、勉強が足りないことは理解していますが、それでも、ブログを読んでくれている方に、次の日の射場でネタになるような話が書ければと思います。また、ネット上に上がっているアーチェリーの情報が少しでも豊富になっていくことを願っています。
弓具に対する考え方のことで、ちょっと迷った部分があり、アーチェリーの歴史をもう一度おさらいしています。歴史といっても、弓が出現した時代の話などではなく、現代の弓具の始まりについての歴史です。英語では多くの文献があり、ネットで読めるものも多いのですが、日本語で正しく記載されているものは見つけることができませんでした。
まだ手に入っていない本が何冊かあり(アマゾンで新品が13万円の値段ついていたりして)入手しようと頑張っているのですが、これまでの理解を一度まとめてみたメモです。


進歩の始まり

まず、スポーツとしてのモダンアーチェリーはイギリスではじまりました。その様子は、当時イギリス国内で無敵の成績を誇った、Horace A. Ford(*)の著書「Archery, its theory and practice」(1859年 著者死後133年のため著作権切れ)などで知ることができます。
*11度のイギリスチャンピオン。1857年に記録したタプル・ヨークラウンド – 100ヤード(91m)で12エンド、80ヤード(73m)で8エンド、そして60ヤード(54m)で4エンド – の1271点というスコア70年間破られていません。
その後、アーチェリーはアメリカにわたります。アメリカでベストセラーになった最初のアーチェリー本は「The Witchery of Archery」(1878年 著者死後112年のため著作権切れ)というもので、こちらはターゲットではなく、ハンティングについて主に書かれた本でした。その後、著者は初代USA ARCHERYの会長に就任。これによって、アメリカではターゲットよりも、ハンティングアーチェリーのほうが大きく発展していきます。
ここまで書くと、アーチェリーの弓具はハンティングがメインのアメリカではなく、イギリスで発展するように思われますが、イギリスの弓具の職人はデザインや仕組みを研究することより、それらを与えられたものとして考え、素材の選別する能力や木材の乾燥技術を高度化させることに専念したため、イギリスでは新しい今日のような弓は生まれませんでした。
アメリカで現在の弓が生まれた最大の貢献者は、ヒックマン(Hickman)博士です。そのほかに共同研究をしていたクロップステグ(Klopsteg – サイトの発明者 – US1961517)などがおります。
彼らは最初は個別に研究し、当時のアメリカで唯一のアーチェリー雑誌(Ye Sylvan Archer)に互いに投稿し、高めあっていきました。
ヒックマン博士は当時かなりの変人扱いを受け、馬鹿なマスコミに叩かれていたゴダード博士(*)とともにロケット研究をしていた人物で、その中で得た砲内弾道学(発射してから砲身内での弾頭の振る舞い)と、砲外弾道学(砲身から出た後の弾頭の振る舞い)の知識をアーチェリーに応用して、アーチェリーの研究を進めました。
*ニューヨーク・タイムズ紙は、物質が存在しない真空中ではロケットが飛行できないことを「誰でも知っている」とし、ゴダードが「高校で習う知識を持っていないようだ」と酷評した。(ウィキペディアより引用)…怖い時代だったんですね。。
ここから、アーチェリー弓具の進歩が一気に進みます。


ハンドルとリム
20世紀初旬のアーチェリーで使用されていたロングボウと、現代の弓との大きな違いは、ハンドルのデザインとリムのデザインです。
limb_cut.jpg

リムは現在のような長方形の断面ではなく、楕円のような形の断面でした。楕円形の棒を弓として、そこグリップを張り付けることでロングボウを製作していました。弓全体がリムの役割り果たしているため、リムはとても重く、逆に弓全体は軽く、シューティング後には弓全体が振動し、押し手に大きな反動があり、とても不安定な構造の弓です。さらに、物理的にも不安定な構造をしているために(後述)、弓を破損を防ぐ意味合いでも、弓を短く作ることができず、さらに、矢とびをきれいにするためには、下リムが上リムよりも2インチほど短く作られています(和弓と同じ)。
longbow_old.png
thumbpatriot.jpg

(写真上は1850年代のロングボウでスミソニアン協会の年次レポートより、下の写真はBear Archeryの現行モデルパトリオット)
ロングボウが作られてから、30年代のアメリカで進化するまでの間に、ハンドルは少しずつ変化しています。グリップの部分はますます重く・長く・硬くなり、初期のグリップ(3~4インチ)から、今日のハンドルと呼ばれる部分(20インチ程度)に少しずつ変化していきます。これは。職人が弓の発射時の反動を減少させるための工夫でしたが、これによって、弓(bow)における握る部分(グリップ)にすぎなかったものが、ハンドル(handle)と呼ばれるようになり、さらにリム(limb)と呼ばれる部分が明確に定義できるようになります。
そして、1930年代に、ヒックマン博士がリムを進化させます。ロングボウのリムの分析・解析をした結果、物理学的に見てロングボウのデザインはあまりにも、非効率的だということが判明します。下にその理由を書きますが、難しい話なので、とにかく、丸いリムは非効率だと理解していただければ、飛ばしていただいてもよいです。
limn_cut_2.png

写真(スミソニアン協会年次レポートより引用)はロングボウのリムの断面です。Bellyと呼ばれる側は、現在ではフェイスと呼ばれる側です。CDのラインはリムのデザイン時に、ニュートラル・レイヤーと呼ばれるものです。
リムがフルドローまで引かれるとき、リムのバック側は引っ張られ(引張)、フェイス側は圧縮される。そのとき、リムの中に引っ張られも、圧縮もされない中立軸(ニュートラルレイヤー)が存在します。ずれこむ力(わかりやすく言えば接着の剥がれやすさ)が最大になるポイントでもあります。
単層のウッドで弓を作ることは当時でもあまりなかったことですが、もし、リムがラミネート(多層)ではなく、単層だった場合、ウッドでは、リムのニュートラルレイヤーはリムの真ん中ではなく、かなりバック寄りになります。これは、ウッドが引っ張られる力と圧縮される力に対して、同じように反応しないためです。詳しくは、もうお手上げなのですが、ウィキペディアによれば、ウッドの圧縮強さは引張強さの1/3程度だとのことです。
単層であれば、これで話は終わるのですが、多層のウッドを張り合わせてリムを作るとき、使用されるウッドの物理的な特性をすべて生かすことは難しいということになります。また、当時の技術では断面が円の場合に、どのように素材を配置すれば、フルに性能を生かすことができるかシミュレーションすることも困難でした。
そこで、博士は現代では一般的な長方形の断面でリム(ニュートラルレイヤーの計算はかなり楽)を作り、そのリムを先端に行くにつれてテーパーさせる(薄くする・幅を細くする)ことで、ラミネートリムの効率性を大幅に高めることができるという設計を考案しました。
当時の計測では(アーチェリー用の矢速計を発明したのもヒックマン博士)、伝統的なロングボウの効率性が40%程度だったのに対して、新しいデザインのリムは75%の効率性を達成したとあります。これは驚くべき数字で、そこから半世紀たった今でも、効率性はその時点から10~15%程しか改善されていません。
ヒックマン博士と共同研究者たちは、この研究成果を「Archery the Technical Side(1947年)」として出版します。ちなみに、彼らはあくまでも物理学の研究者であって、その後メーカーの立ち上げなどは行っていません。


メーカーでの採用
さっそく、1947年にHOYTの設立者であるEarl Hoyt Jr.さんが、この理論を参考に、ダイナミック・リムバランスという名の、(今では当たり前の)上下のリムの長さが同じ弓を開発します。1951年に断面が長方形でテーパーしている異なるカーブを持ったリムを40ペア製造し、その中でもっと効率性がよかったリムが、(Earl Hoytさんによれば…そして、僕もそう思いますが)、今日もっともコピーされている形のリムとなっています。
同じ、1951年にベアアーチェリーが単一指向性ファイバーグラス繊維とウッドのラミネートリムの製造に成功し、現在でも使用されるグラスリムが市場に登場し、今に至るまで、ラミネートされる素材は時代に応じて変化しているものの、その基本構造は変化していません。
この後、1956年に丸いグリップに代わるピストルグリップ(現在のクリップ)が登場し、1961年にスタビライザーが登場したくらいで、もちろん、素材はウッドからアルミ、マグネシウム、カーボンなどといろいろと変わっていきますが、現在のハンドル・リムの概念、リムのデザインとその理論は驚くべきことに、1930~1950年の20年の間に一気に登場したものです。
次の大躍進が待遠しいです。コンポジットだとは思うのですが…基本設計はまだ大きく変わっていません。
参考文献
-Traditional Bowyer’s Encyclopedia: The Bowhunting and Bowmaking World of the Nation’s Top Crafters of Longbows and Recurves 2011 Edition
-Annual Report Smithsonian Institution 1962(スミソニアン協会年次レポート)
-Archery, its theory and practice 2nd Edition 1859


スペイン・フレックス モンテラ(闘牛士帽)ダンパー入荷しました。

DSC01116.jpg

本日入荷しました。1月に会社訪問したスペインのFLEX社のモンテラ・ダンパーです。モンテラとはスペインの闘牛士が被る帽子の名前で、その形に似ていることから名づけられました。
DSC01118.jpg

大きな特徴はチューニングをしながら取り付けができることで、チューニング用(シリコンカップタイプ)と取り付け用(両面テープタイプ)の2種類があります。取り付け用は8色全部入荷していますが、チューニング用は在庫の関係上、黒と赤の2種類しか発注はしていません。ご理解ください。
左がシリコンカップタイプで、右が両面テープタイプです。ダンパー本体に違いはありませんが、足の部分の違いにより、取り付けすると、シリコンカップはつぶれるので、3mm程度高さが違くなります。両面テープの方が高さがあります。ご注意ください。
DSC01109.jpg

両面テープタイプは取り付けるだけなので、チューニング用のシリコンカップタイプを使って説明していきます。入荷しているのは黒と赤の2種類のみ。このタイプのものは、基本的にはチューニングだけに使用してください。ダンパー中央のロゴの部分を強く押し込んで、シリコンカップを真空にすることでハンドルやリムに取り付けするのですが、取り付け強度のテストはしていますが、長時間の使用に耐える取付方法ではないので、シリコンカップタイプを常時使用するのはお勧めしません。
ダンパーの使い方としては、まず、チューニング用のシリコンカップタイプをいろいろな取り付けできそうな場所に取り付けて、この効果を確認し、最も効果がある場所を見つけ、そして、その場所に両面テープタイプのダンパーを張り付けて使用します。
一般論として、効果がある場所というのはいくつかありますが、実際にはそれぞれの弓で異なりますので、自分の実際の弓でチューニングをしながら、最も効果的な場所にピンポイントで使用できるダンパーというのは、かなり画期的だと思います。

ただ、一点残念というか、仕方ないことは、このダンパーはいろいろな場所で機能するように、適度なサイズになっています。広い方が31mm、狭い方が21mmで、重さは5gです。リムセーバーと同じ場所で使用するのであれば、より大きさがあり、重さも持っているSVL社のリムセーバーの方が効果を発揮します。同じ程度の効果をこうダンパーから得るには、少なくとも同じ程度の重さにする必要があるので、3個取り付けることが必要です。
小さな5gのダンパーですので、1個だけ購入されて弓に取り付けても、実感できるだけの違いを得ることは難しいかもしれません。実感したい場合には、少なくとも2つは取り付けることをお勧めします。
では、シリコンカップでどこまで取り付けできるのか。早速、取り付け強度についてテストしてみました。テスト環境ですが、W&WのINNO MAXハンドルに、INNO EX ROWERリムのM44ポンド、リムセーバーなどはなしで、矢は矢や重さのあるX10です。
まず、結論から書くと、バック側のリムチップ以外は問題ありませんでした(フェイス側のその位置は弦に触れるのでそもそも取り付けできません)。バック側リムチップ付近以外は、シリコンカップで十分にダンパーを固定できます。より厳しい環境(より高いポンド、長いリム、軽い矢)では、外れてしまう場合もあるかもしれませんが、ほぼ下記の写真の場所、それに準ずるような場所は大丈夫だと思います。
DSC01108.jpg

ちょうどうまく写真が撮れましたが、チップ側にダンパーを装着すると、ダンパーはシューティング時にこれだけ移動します(残像で確認できるかと思います)。確認した限りでは、この場所が限界でした。これ以上、ダンパーをリムチップ側に移動させると、発射時の衝撃でダンパーが飛んでしまい、チューニングになりません。
次に、問題なく取り付けられ効果を確認できた場所です。
DSC01100.jpg
1.リムのハンドル寄り部分 – リムのしならない部分であれば完璧に取り付けできます
DSC01102.jpg
2.ハンドルのリムポケット裏側 – 取り付け面が確保できれば問題なく取り付けできます。
DSC01101.jpg
3.リムのチップよりフェイス側 – バック側と違いフェイス側は弦溝近くでも取り付けできます。
DSC01103.jpg
4.サイトバー – 取り付け面が確保できれば取り付けできます。
DSC01105.jpg
5.ハンドルの中 – INNO MAXだけかもしれませんが取り付きました。

直線的なデザインのINNO MAXでは取り付けできそうな場所はたくさん発見できます。より曲線的なデザインのハンドルでは、取り付け場所が減るかもしれませんが、それでも、いろいろと試せる場所はあるかと思います。この新しいダンパーを思いつく場所に取り付けて試していただけたらと思います。


ドイツの新しいシャフトメーカー

Aurel_Oryx_Promo_750_570.png
Beiterのノックが対応するということで初めて知ったシャフトメーカーさんです。ドイツのAurel Archeryというメーカーで、アルミシャフトとカーボンシャフトを作っています。
最新モデルはOryXというフルカーボンシャフトで、小売価格だとACGとACEの中間くらいの価格帯のものを作っているようです。このシャフトが最上位モデルになります。ホームページをじっくり見てみましたが、まだまだ、イーストンシャフトと競争できるレベルにはないように思います。
昨年のオリンピックだと、イーストン以外の矢でメダルを獲得できたのはCXだけでしたが、新しいシャフトメーカーは次々に生まれている状況です。現状でイーストンと競争できるメーカーはほぼないと思いますが、将来が楽しみです。順調に競合メーカーが成長していけば、10年くらいで状況変わるかもしれません。
Aurel Archery
http://www.aurel-archery.de/


道具に関してのまとまってない話…


お客様からの質問に答えていて、思ったことがあるので少し。最後まで書いて思ったのですが…全然まとまっていない記事になってしまった。でも、削除するのはもったいないほど書いてしまったので、暇があれば読んでみてください。
上の動画は韓国のパク選手(Park Sung-Hyun)です。トップ選手の方やナショナルチームのコーチの方と話している中で、今世紀で一番すごい選手としてよく名前が挙がる方です。
実績としては、シングル1405点(更新される前の記録は1388点)と70mwと70mと50mの世界記録、2度のオリンピック出場で金メダル3に銀メダルが1つ、世界選手権は4度出場し、毎回個人か団体で金メダルを取り、とれなかったときは銀か銅メダルというすごい選手です。
park_20130302160401.jpg
park3.jpg

そんなすごい選手ですが、こちらの写真を見てみてください。奥の選手がパク選手です。
何か違和感を感じませんか。


そうです。弓が長いのです。パク選手の身長は170cmですが、弓は彼女の身長とほぼ同じです。66インチの弓は長さにすると、158~160cmほどですので、こんなに長いはずがありません。写真から見ると168~169cmほどの長さがあるかと思いますが、これは70インチの弓です。
では、170cmのパク選手は矢尺が特別に長かったから、70インチを使っていたのかというと、2枚目の写真。
フルドローに入った時のリムチップを拡大したものですが、リムチップは立ち上がってすらいません。今お持ちの弓を引いてみてください。”常識”で弓を選んでいれば、必ずリムチップは垂直よりもノック側に傾くはずです。このスナップの効果によって、はじめてリカーブが活きて来るので、必ずリムはそう設計されています。
da1_2011.jpg

この写真の状態が正解です。
しかし、パク選手が使っているリムチップの状態から矢を発射しても、リムの性能を生かすことは全くできません。パク選手の引き尺はちょっと覚えていませんが…すみません…このリムチップの位置から推測するに、後3インチほどひかないといけない位置にあるので、27インチ前後だと思います。
では、なぜパク選手が70インチを選んだのか、しかも、それをオリンピックという大舞台で使用したのか、その結果は個人・団体での2つの金メダル。
本人から直接話を聞いたわけではないので、まわりのコーチたちの推測ですが、矢速、リムの性能よりも、弦が鼻につくことにこだわった結果だといわれています。これだけの選手ですから、要望すれば、メーカーはいくらでも特注の道具を作りますが、弦を鼻につけるためには、弓を長くする以外に方法は存在しません。その結果、一般論では考えられない、リムの一番性能が発揮されるリカーブ部分を使わないで、オリンピックに出ることになったのです。
park2.jpg

写真を見ると、確かにしっかりとアンカーした状態でも、ぎりぎり鼻についているくらいなので、68インチだとだめだったのでしょう。
パク選手の選択が正しかったことは、その実績が証明していますが、これは今の時代だからできる選択です。十分に弓具の性能が向上し、リムの性能を生かさなくても、十分な性能を確保できるようになったからこそです。グラスリム・ダクロン弦・アルミ矢で70mを射っていた時代で、鼻につけるためだけに、ここまでリムの性能を犠牲にしていたら、同じ実績を残すのは到底無理だったと思います。

みんな鼻につけるの大事だから、そこで弓のサイズを選んでねという話ではありません。上達するために大事なことは、常に考えるということです。そして、常識に縛られないこと。常識の多くは生まれた時代には正しかったことですが、道具に関していえば、道具は常に進化していますので、1~2年もあれば、変わっていきます。
DSC01089.jpg

まえがきが長くなりましたが、伝えたかったことは、リムの柔らかさは「リムの柔らかさ」にすぎないということです。リムの柔らかさが語るのは引き味だけの問題です。
例えば、リムの柔らかさをリリースのミスを拾いやすい、拾いにくいといった話を関連付ける説は、UDカーボンをはじめとする新しい素材が出てから、あまり意味を持たなくなっています。ミスを拾うかというのはリムチップやリムの硬さのうち、写真でいうと、左右にストレスを与えた時の反応と関係します(もちろん、それだけじゃないですが)。しかし、引き味というのは、写真でいうとリムの前後にストレスを与えた時の反応と関係します。
expow3.jpg

アーチェリーのリムにカーボンが使われ始めた時には、リムの反応は全方向に対して同様だったから、そのような説ができたのかなと個人的には思っていますが、現在のリムには方向性があるカーボンが使われています。簡単にいえば、ある方向のストレスにだけ反応する素材です。例えば、U/Dカーボンは単一方向性カーボンという意味で、漢字の通り、並べられた繊維の方向にしか力を発揮しません。
*実際のUDカーボンの写真はこちらに
https://archerreports.org/?page_id=33

そのために、以前と違いリムの硬さは引く方向とねじれる方向とでは、全く別にテスト・測定する必要があります。単一方向や三軸カーボンが使われ始めたことで、リムの引きの柔らかさは、引きの柔らかさ以外の意味を持たなくなってきまいます。引きが柔らかいことは、他の部分の柔らかいことを意味しません。

言いたかったのはそれだけです。長くなりました。
こちらの知識とお客様の知識が食い違ったりすることもあるので、お客様からの質問に対しては、まずお客様の考えている事、実現したいこと、求めていることをしっかりと確認してから、返信するようにしています。やり取りが長くなったりしてしまいますが、ご理解ください。
追記、USA ARCHERYの翻訳が終了しましたので、今日から編集作業に入ります。3月中に終わるといいなぁ~。


新しいテーパーロッド CX-350 HMカーボン

DSC01072.jpg

入荷しテスト終了しましたので本日から取り扱いします。現在、市販されているスタビライザーはほとんどがストレートロッドを使用していますが、以前には、テーパーロッドが流行った時期がありました。ロッドの太さ(直径)が一定ではなく、先端に行くほど細くなっているスタビライザーです。
*正確には「直径」だけではなくHMC Plusのような先端に行くほど「厚み」が薄くなるものもテーパーロッドに入るようです。
テーパーロッドの中でも、極端なもの、例えば根元が20mmで先端は10mmしかないようなスタビライザーは、現在の軽いリム・軽い矢・軽く伸びない弦でセッティングされた弓では、まったくといっていいほど振動を吸収してくれません。部室などに転がっている場合には、試していただくと、弓具の進化が体感できるかと思います。あくまでも重いリム・重さ矢・重く伸びる弦でセッティングされた弓が活躍していた時代の設計です。
そのために、現在ではほとんどのメーカーはテーパーロッドを作ることを止めてしまいましたが、2000年頃に発表されたテーパーロッドのトリプルスタビライザーを、最新の素材(ハイモジュラスカーボン)で再設計し、かつ、テーパーをかなり抑え(30%程度)、根元を太くすることで、テーパーロッドを最先端の弓でも使用できるようにしたのが、このスタビライザーです。
ハイモジュラス(高弾性)というのは一般的にいうと強い(変形し難い)素材なのですが、それをたわみやすい(変形しやすい)テーパーロッドに採用したのは正解かどうかはともかく、面白い選択だと思います。
121220000L1.jpg
DSC0107601.jpg

43ポンドのINNO CXTハンドルにX10シャフトでテストしましたが、全く問題がありませんでした。ただ、価格は4,800円で、価格からもわかるとおり、けっして、最上位のモデルではありません。
今回、あちぇ屋でこのスタビライザーの取り扱いを開始したのは、テーパーロッドの独特なシューティング感(太く剛性が高い根元までは接続されたハンドルとの一体感があり、柔らかい先端部は別のロッドかの様に振動します)が好きなお客様のためです。トップアーチャーの選択を見てもわかるように(初心者でもトップでもCXTの43ポンドをうった時に発生する吸収すべき振動は大きくは変わりません)、現在の弓との調和を考えると、やはり一般的に優れているのはストレートロッドだと思います。
ただし、セッティングによってはテーパーロッドの感覚の方がいい場合も確実にあるのです。
ですので、このロッドはエントリー向けにお勧めするものでもなく、競技用としてお勧めするわけではなく、取り扱いの意図としては、シューティング時の感覚を変えて気分転換したり、新しい可能性に挑戦したいときにお勧めする一本になると思います。

ちなみに、僕はテーパーロッド(FB S3 30インチ)を使用しています。


INNO CXTとINNO MAXの外見比較

DSC01060.jpg

前回は性能・設計について書きましたが、今回は外見の比較です。本日、実射テスト用のハンドルが入荷しました。まだ、セッティングはしていませんが、今週中にはいろいろと実射データを取れればと思います。
DSC0105901.jpg
DSC01066.jpg

HOYTのION-XとHPXのように大きな設計変更はありませんが、いくつか設定が変わっています。
まず、1の距離(ハンドルのフェイス側~プランジャーホール)ですが、CXTハンドルに比べて、MAXハンドルでは2.5mm長くなっています。2の距離(プランジャーホール~センターブッシング)は5mm短くなっています。同じ長さのセンターを装着しても、CXTハンドルに比べると若干重心がハンドル寄りになりますが…5mmなので大きな差ではないです。
また、ハンドルのウィンドウサイドの幅が1.8mm太くなっています。CXTハンドルではバイターの17-23mmでも使用できますが、MAXハンドルだとハンドルの幅だけで17.6mmもあるので、21-27mmプランジャーでないと厳しいと思います。WIN&WINのWK500プランジャーだと29mmが対応サイズになります。
DSC01064.jpg

ハンドル全体で一番変わったところはこの部分の太さです。CXTハンドルでは細く曲線的なデザインだったものが、MAXハンドルでは直線的で骨太なデザインになっています。
また、2012年モデルで一番問題だったリムポケットのモジュールの問題が、Tブロックシステムになったことで解決されました。
DSC010601ー
DSC01070_20130220155710.jpg

わかりやすく写真が撮れなかったので、スペアパーツに矢印を付けましたが、新しいMAXハンドルでは矢印の方向にスペースが大きくとられています。わずかに0.2mm程度ですが、矢印方向に0.2mm長くなったので、HOYTとSAMICKのリムがまた取り付けられるようになりました。
ということで、MAXハンドルではHOYTとSAMICKのリムが使用できます。それ以外では、特に大きくCXTから変更になったところはないです。次は実射テストです。


Nimes 2013 / 世界インドア ステージ2 を見て


Nimes2013の会場で行われていたメーカー展示会に商談に、隣の体育館では、ワールドカップ・インドア2013 ステージ2が行われていました。
3時間くらいしか観戦する余裕はなかったのですが、道具屋という視点からの感想を少し。上のビデオがダイジェスト編になります。
まず、個人的に面白かったのは、ヨーロッパ(の北の方)では大人気でも、日本ではほとんどのプロショップで販売されていないスウィングVバーを使用している選手がリカーブの男子部門で優勝したことです。おめでとうございます。これを機会に検討されてはいかがでしょうか★
DSC00665_20130203185325.jpg

写真は試合に勝った後にみんなのリクエストに応じて、弓を引くリカーブ男子優勝のROHRBERG選手。たまたま見つけて写真撮りました。
さて、リカーブの方では、特に目立った動きはありませんでした。価格でもわかるとおり、フォーミュラはRX/HPX/ION-Xの間では、特にどれが上位機種といった差はないので、ION-Xを使用している選手は特に多くありません。RX/HPXを使用していた選手の多くはそのままでした。
WIN&WINでは、韓国選手が新しいINNO MAXハンドルを使用して試合に出場しましたが、そのくらいです。確か、この時期は韓国選手はナショナルチームの最終選考をしている時期で、毎年ワールドカップのインドアには韓国のトップ選手は出場しません。アジア圏の選手(日本含め)も多くは出ていないので、リカーブではHOYTが目立ちましたが、そんな理由なので特に評価できる結果ではありません。
DSC0065201.jpg

それに比べ、HOYT…というよりもプロコンプ・エリートの圧勝だったのがコンパウンドでした。最後まで残っていた選手のほとんどはHOYTのプロコンプ・エリートを使用していて、ION-Xが新しく出ても、既存のユーザーはGMXやRXから乗り換えない選手が多かったリカーブに比べ、多くのHOYTユーザーがプロコンプ・エリートに早速乗り換えていました。
DSC00628up.jpg

今回のワールドカップでは3位にとどまったジェシー選手ですが、HOYTのブースでプロコンプ・エリートの設計について意見交換したところ、面白い話が聞けました。
プロコンプ・エリートはこれまでにないほどユーザー中心に、ユーザーの好みを取り入れた弓だということです。この弓は、弓単体の性能をテストして開発されたのではなく、近年のターゲット競技においてのスタビライザーセッティングでシューティングした状態を想定して開発したものだそうです。
流行りのセッティング(2つ上の写真のように、センターを長く・おもりを先端に多く、サイドは片側で重量を持たせて、重心は若干低めに)で使うのであれば、プロコンプ・エリートは圧倒的に優れているとのことでした。というよりも、そのスタビライザーセッティングで使うために開発されたようなものです。
逆に、自分のスタイルがあって、写真のようなセッティングにしていないなら、プロコンプ・エリートの特性を生かすことができないので、アルファ・エリートなどの既存のモデルの方がいいのではということでした。
当然・スタビライザーとのセットで使用するのが今の常識ですので、スタビライザーを使用した状態を想定して弓を開発するのはどのメーカーもしていることで、ベアボウで弓具テストするメーカーはありません。しかし、そのセッティングの具体的な中身までも想定して弓を開発するのというのは、かなり新しいやり方で、理に適っているものの挑戦的な設計方法です。
リカーブに例えれば「長めのエクステンダーに水平80度のVバーに上にアッパーを一つ付けて、センターにウェイト3つ、サイドにはダンパー1つずつというセッティングで一番性能を発揮すハンドル開発しました」ということで、ここまで想定して設計したモデルは初めて聞きましたし、逆にこのセッティングにしていないアーチャーの購買意欲を失わせる結果になるので、かなりの挑戦です。ただ、今回、ほとんどのトップアーチャーがこの最新モデルに移行したことを考えると、エンジニアの狙いは当たりだったと思います。
他メーカーの状態を考えると、2013年はプロコンプ・エリートの独走になる可能性が高いです。
マシューズの人もいたので、話ししましたが、「Apex7の優れた設計は色あせていない・今でも十分に通用する」とのことでした。その意見には全く同意しますが、この10年でスタビライザーのセッティングから使用する素材、または、カーボンブレードやSFエリートのように今までにない形状のスタビライザーまで登場しているので、進化したアクセサリーに合わせた再設計はあってもいいのではないかと思います。
弓単体ではなく、全体で高性能の弓を作りこんでいくという話をつなげて、もう一つ目立ったのが、CX(Carbon Express)の矢でした。今回、最終的に残った8選手のうち、2選手もがCXの矢(X-Buster)を使用していました。世界戦では、特に決勝に残るレベルの選手はイーストンを使っているのが一般的でしたが、その法則が、少しずつですが崩れつつあるように感じます。
引き金はイーストン自身かもしれません。内輪の話になりますが、イーストンは1年前にHOYTと流通システムを統合しました。もともとから、HOYTはイーストンの傘下のメーカーでしたが、より結びつきを強化しています。それに対抗してか、他のメーカーも特定の矢のメーカーとの結びつきを強化していて、その関係性の中で、(日本では)無名だったシャフトメーカーが急激に製造技術を向上させています。
DSC0063601.jpg

PSEはCX(Nano pro)との関係を強化し、マシューズはビクトリー・アーチェリー(VAP)との関係を強化、WIN&WINはカーボン・テック(McKinney II)との関係を強化しています。SFはスイスの・SKYARTから供給を受けていますし、今回会場では、カーボン・インパクトというメーカーがいました(フランスと関係が強いメーカーですが、具体的な話は聞く時間がありませんでした…すみません)。
Carbon Impact
http://www.carbonimpact.com/catalog.pdf

当店では、Nano ProとVAPはテストしましたが、自分の判断で、まだ本格的にイーストン以外のシャフトを販売することはしていませんが、大手アーチェリー製造メーカーとシャフトメーカーが関係を強化して、技術を高めあえば、近いうちにはこれらの4つのメーカーのどれかから、イーストンよりも高品質で、低価格のシャフトが登場する可能性はあると思います。実績でいうと、CX(世界選手権で2つメダル、今回のオリンピックで1つのメダル)が先頭ランナーでしょうか。
HOYTとイーストンの倉庫の統合はイーストンのアーチェリー部門のロジスティックの合理化がメインの目標だったと思いますが、その動きが意外なところに影響を与えている気がしました。
まぁ、そんなこと考えないで、素直な気持ちで見ても、面白い試合なので、ワールドカップのステージ2の動画楽しんでください。2月の7~10日はワールドカップ ステージ3が行われるラスベガスに行って来ます。いくつか新商品が発表される予定です。お楽しみに。