この記事は2014年11月17日に書かれたものです。最新の情報とは異なる可能性があります。ご注意ください。

ウィン&ウィンの2015年モデルのカーボンハンドル WIAWIS NANO MAXはウィンにとっての原点回帰

WIAWIS_MAX_INNO比較新しく発表されたWIAWIS NANO MAXを見て驚いた人は多いと思います。写真の左がINNO MAX、右がWIAWIS NANO MAXです。まぁ、どう見ても同じですね。完成品を見ていませんが、写真で比較する限り、INNO MAXはほぼ100%同じ形をしています。遠目で見分けることはまず不可能です。

では、WIAWIS NANO MAXとINNO MAXは何が違うかというと、ハンドルのバランスが変更されていて、従来の重心よりも30%前方にハンドルの重心を置いています。

先日、他の最新設計のハンドルではなく、再度5年前に登場したホイットのGMXハンドルで世界記録を更新した時のコメントですでに書きましたが、カーボンハンドルの優位性とは何だったのかというものが問われています。ウィンが初めてカーボンハンドルを発表した時には、ホイットをはじめ他社も追随すると思われました。しかし、その後サミックからもカーボンハンドルが出るという連絡があったものの、結局発売されず、ホイットもMKもカーボンハンドルは製造していません。

GMXのレビューは2008年11月、ちょうど6年前に書きましたが、GMXのコンセプトはホイットにとっての原点回帰というタイトルにしました。今回のこのWIAWIS Nano MAXハンドルはどうかというと、こちらもウィン&ウィンのカーボンハンドルの設計の原点に回帰したモデルになったといえます。

TFSシステム
この広告を覚えていますか。これは、ウィンが2009-2010年にプッシュしていたTFSシステムというもので、写真のように、発射時のハンドルのねじれ(矢のクリアランスを邪魔する方向の動き)を最小限にするという目的のものでした。
TFSシステム_Apecsハンドル
その仕組みは…まあ単純なもので、発射のハンドルの動きは支点であるグリップを中心に発生しますが、ハンドルを的方向に長くして、重心をグリップから離すことによって、ハンドルがより”固定される”状態を作り出すというものでした。それを搭載したハンドルTF Apecsは悪くないものでしたが、特にトラブルもなく、不具合も少なかったのに…個人的な印象としてはその奇抜的なデザイン、または確か14万円ほどもした定価が原因であまり支持されず、商業的には失敗したモデルとなりました。それ以降、ウィンは同様のデザインのハンドルを設計しなくなります。

front_weight
モールド形成
今回のWIAWISハンドルでは、デザインはINNO MAXと同様なものにしながらも、削り出していくアルミハンドルとは違って、カーボンハンドルの特徴であるモールド形成(写真下)という手法だからこそできるやり方で、ハンドルのバック側(的側)にウェイトを挿入することで、見た目はINNO MAXと同じでもハンドルの重心を30%前方に置くことを実現しています。ウェイトをハンドルに埋め込むことでTFSシステムと同様のものを実現しているのです。

ハンドルの中でも重心や重さにに偏りが生じれば、当然、振動・負荷はハンドル全体ではなく、特定の部分に集中しやすくなります。その対策として、新しいWIAWISハンドルでは、カーボンハンドルに使用されているカーボン繊維のアップグレードを行っており、リムなどには既に使用されているナノカーボンをハンドルにも使用することで、これまでのウィンのハンドルと比較して30〜40%強化されたカーボンを新しいハンドルでは使用しています。
ウィンの資料によると、シューティング中の振動を30%削減することに成功しているそうです。
最初にこの、INNO MAXと同じ形というある意味では非常に奇抜なデザインのハンドルを見たときは戸惑いましたが、その設計に対する思想としては、ある意味では”ウィン”のカーボンハンドルに対する考え方、重心を前方にして動きを抑制する・またバックの振動をより重点的にとる(NXエキスパートなどでの設計)を取り入れた、ウィンなりの原点回帰があるように感じられます。

NX_ハンドル_バックイメージ参考資料:NXエキスパートハンドル(2008)

このハンドルは今後のアーチェリー業界でのカーボンハンドルの成功を予想するための、一つの試金石になるように思います。


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Ryo

(株)JPアーチェリー代表。担当業務はアーチェリー用品の仕入れ。リカーブ競技歴13年、コンパウンド競技歴5年、2021年よりターゲットベアボウに転向。リカーブとコンパウンドで全日本ターゲットに何度か出場、最高成績は2位(準優勝)。次はベアボウでの出場を目指す。

5 thoughts on “ウィン&ウィンの2015年モデルのカーボンハンドル WIAWIS NANO MAXはウィンにとっての原点回帰

  1. 漠然とした質問で申し訳ないのですが、トップ選手(特に国内)にカーボンハンドルを利用している選手が少ない理由はなんだと思いますか?
    よく聞く話だと、個体差があるから嫌だとか振動を取りすぎてフィードバックが少ないなどがあります。しかし前者に関してはトップモデルのハンドルに差はあるのかは疑問ですし、後者に関しても他部品では振動がないのを是としている(サイトやスタビなど)のと反しているのではないかと思います。
    個人的見解で構いませんので教えていただけると幸いです。

  2. >後者に関しても他部品では振動がないのを是としている(サイトやスタビなど)

    まず、この一点に関して言えば、是かは一概には言えません。振動はありますので、問題をそこをどこに逃す、つまりにどこを振動させるかという点となり、グリップからある程度離れたところ(10-12インチ)から先端までに振動を持っていくというセッティングが多いように思います。もちろん、振動がない=できる遠ざける=例えば、すべてのスタビライザーに太く剛性のあるHMC22を使用して、先端に柔らかめなダンパーをつけて、ダンパーとウエイト部分に振動を集中させるといったセッティングは2013-16年ごろに一時増えた気もしますが、細いロッドが流行り出してからは少ないように感じます。

    さて、カーボンハンドルですが、単純に選択肢の少なさではないかと思います。ホイットもMKもFIVICSも作っていないので。当然、アーチャーがカーボンハンドルを試す機会も、カーボンハンドルの優位性を伝える営業もウィンだけだと思いますので、比例しているかと思います。技術的な議論ではなく申し訳ございません。

  3. 振動の位置という考えはありませんでした、ありがとうございます。
    確かに単純に選択肢が少ないのは間違いなく大きな理由ですね。
    前コメントに記したように個体差があるだとかグルーピングしない、のような話は技術的に根拠のあるものではないのですかね?

  4. >前コメントに記したように個体差があるだとかグルーピングしない、のような話は技術的に根拠のあるものではないのですかね?

    グルーピングしないという致命的なトラブルが発生していることは絶対にないと思います。個体差があるということに関しては、心理的な問題だと思います。

    アルミ製ののCNCハンドルというのは、一本のアルミ材を削っていくので、中身まで全部アルミです。和牛肉ステーキみたいなもので、外側に見えているのがサーロインなら、中身も同じサーロインです。
    対して、カーボンハンドルは削っていくのではなく、層を積み上げていくようなものです。ですので、成形肉のステーキみたいなもので、外側がサーロインに見えても、中に何が入っているか推測することは不可能です。渋谷アーチェリーでは、以前に中に何が入っているのか、ウィンのハンドルを真っ二つに切ったことがありますが、そこまでしないと中がどうなっているかわかりません。

    成形肉とは
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%88%90%E5%9E%8B%E8%82%89

    だからと言って劣るわけではありませんが、アルミが理論的には製鉄所から出荷された段階で個体差がなければ個体差がないのに対して、カーボンはカーボンメーカーから個体差がない状態で出荷されたとしても、アーチェリーメーカーの工場で製造時に個体差が発生する可能性があり、かつ、中身が外見からは推測できない製法が、可能性があり、検査できないことによって、そのような心理状態を生み出していると考えています。

  5. すごくわかりやすい説明でした、ありがとうございます。
    個人的にも最上位ラインのハンドルに欠陥があるとはあまり考えられなかったため、スッキリできてよかったです。

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