この記事は2013年6月3日に書かれたものです。1年以上前の記事は内容が書かれた当時とは異なる可能性がありますのでご注意ください。

ヒックマン博士とホイット氏の手紙

明日、FIVICSのブラスタブが入荷します。歴史ばかり調べていないで仕事のきちんとしているのでご安心ください。1日3時間ほどまでに制限しています。

1978年にホイット氏はHOYTアーチェリーの経営権を販売しているので、現在のHOYTアーチェリーとは違うものの、そのホイット氏は20世紀を代表するアーチェリー業界のイノベータでした。
そのホイット氏はヒックマン博士の研究した理論をもとに弓の開発をしていたのですが、史料として、その裏付けとなる手紙を見つけました。
本日はこのネタです。
まずは手紙の中身です。書いたのはHOYTアーチェリーのホイット氏(48歳)で、あて先はヒックマン博士(70歳)です。書かれたのは1959年1月29日です。訳はできるだけ英文に忠実にしています。

あなたは我々がここで得た結果について興味を持つだろう。使用した42~45ポンドブラケットの弓は(28″のドローレングスで)、#1816イーストンシャフトで190から200fps、1オンスの矢では170~179fpsの速度を計測した。だがこれはまだ序の口だ。我々はシングルとコンパウンドの異なる種類のコアテーパー、さらには様々な仕様の弓を使って実験している。また、現在の実験結果を見る限り、リムの稼働域が19 1/2~20″がリムの効率性を最も高める長さだと指し示しているようだ…あなたのスパーククロノグラフは、私がいままで一番興味を持っていたことに対して多いに満足できる結果をもたらしてくれた。精確なデータを得るということは、本当にゾクゾクするものであり、また私たちにとってそれぞれの弓のデザインの利点を評価する上で計り知れないほど重要な判断材料となる。この時代にヒックマンスパーククロノグラフを手に入れることができたことを、言葉では言い表せないほど嬉しく思っている。今までに私がしてきた投資の中で、これは最高のものだ。

文通仲間ということは知っていましたが、文面を見る限り、想像以上に情報を共有していたようです。
この手紙の背景について書きます。ヒックマンはアーチェリーの研究に、ピアノ会社が鍵盤の打鍵スピードを計測するために購入したアバディーンクロノグラフ(Aberdeen Chronograph)を使用していた。今でいう矢速を測定する機械です。しかし、ポータブルで直流電源で稼働可能な矢速計がほしくなり、自分で作った。
海軍の主任研究員であるジョン P.クレーベンに宛てた手紙で(…なぜ海軍かは不明…アバディーンクロノグラフを開発したのは陸軍)、

私はこの国においてアーチェリー関連の書物を最も多く所有している。だが不運にも、これらの資料は矢の弾道についてあまり多くの情報を提供してはくれない。1928年に私が計測をおこなうまで、誰もストップウォッチ以外の計測器以外で矢の速度を測ろうともしなかったのだ。そこで私はクロノグラフを使って、重さの異なる矢とデザインの異なる弓のそれぞれの組み合わせがもたらす矢の速度と加速度を計測することにしたのである。

と書いていて、自分で開発した矢速計(スパーククロノグラフ)で多くのデータを採取して、多くの記事を書いた。また、戦時中はこれを改良して、リボンフレームカメラ(ハイスピードカメラ)を開発し、クロノグラフでロケットの飛行中の速度を計測し、撮影する仕事をしていた。

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写真がその矢速計。
その後、ホイット氏はこのアーチェリーのために作られた世界初の矢速計を、1958年にヒックマン博士自身から300ドルで買い取り、自社での実験に利用し、そして、この手紙につながるのです。

ヒックマンに関するもう一つの話。現在では一般的にリムに使用されているグラスファイバーですが、これがアーチェリーで使われるきっかりになったのは…日本です!!(と韓国)
というのは話の盛りすぎですが、関連はあります。
リムは本来、木で作られていましたが、この木に違う木をはり合わせて、反発力を高めようとする弓が19世紀登場します。(トルコ弓などでははるか以前から採用されています、あくまでもアーチェリーの世界の話)
違う素材をコアにはり合わせて反発力を向上させる作業をバッキングと言いますが、1930年代にヒックマン博士は、その素材に繊維を使うことを提案します。その素材とは「シルク」でした。今風でいうと、シルクファイバーリムです。
しかし、第二次世界大戦によって、シルクの輸出国だった日本から素材が手に入らなくなり、また、米軍もパラシュートを作るために、シルクを買い占めていたので、だんだんとシルクが入手できなくなります。そこでヒックマンはバッキングに新しく開発されたフォルティザン(Fortisan)繊維を使うことを提案します。これは商標で、現在ではポリノジックレーヨンと呼ばれている繊維だそうです。
アーチェリー業界は、シルクファイバーリムから、レイヨンファイバーリムに進化します。この繊維はシルクの2~3倍の強さがあり、ヒックマン博士は1946年3月のAmerican Bowman-Reviewに、レイヨンファイバーのリムへの利用に関する記事を書きます。
が、歴史は繰り返すといいますが、その後朝鮮戦争が勃発(1950年)し、高性能レイヨンは又もや軍によってパラシュート製造用に買い占められ手に入らなくなります。その後、レイヨンのかわりとして、当時登場したのがグラスファイバーです。
ヒックマン博士はテストしたものの、具体的に記事にする前に、フレッド・ベアが1951年にグラスファイバーのリムへの応用に成功します。しかし、当時ではすでに知られている構造だったので、アメリカでは特許には出来ませんでした(1953年にカナダで特許の取得に成功)。
こうして、日本がきっかりでシルク繊維がレーヨン繊維となり、韓国がきっかりで、レーヨン繊維がグラスファイバー繊維となり、今に続くのです。


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Ryo

Ryo

山口諒 - JPアーチェリー代表。担当業務はアーチェリー用品の仕入れ。リカーブ競技歴13年、2014年コンパウンドに転向、2018年よりベアボウに挑戦中。リカーブ・コンパウンド両方で全日本ターゲットに何度か出場、最高成績は2位(準優勝)。

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