この記事は2013年5月20日に書かれたものです。1年以上前の記事は内容が書かれた当時とは異なる可能性がありますのでご注意ください。

古いこと

古い記事をアップデートします。

今思うと面白い題名をつけたなと思いますが、けっして予測していたわけではありません。
10月に「【予告】新しい事 その1」という記事を書きました。その反応として、期待してくださる方もいれば、書いてあることは正しいとしても、自分が愛用している商品の批判は見たくないというコメントもあり、その結果、別のサイトを移行し、おりたたみました。うっかり目に触れることはありません。「Continue reading →」というボタンを押してはじめて、続きが表示されます。
そして、今思うのは…古いことです。
アーチェリー用品の正しい評価について、そのシステムを構築してきましたが、最終的に行き着いたのは「古いこと」でした。

レビュー 日本製の低価格カーボンサイト T-9 AR
http://jparchery.blog62.fc2.com/blog-entry-1041.html

長くブログを書いているといろいろな反応が返ってきます。誤字脱字はともかく、今でも覚えているのは、ミザールハンドルを間違って「アルミ製」と書いてしまったことなどで、お叱りを受けて直ちに訂正しました。
逆に、正しいことを書いていてお叱りを受けたのが上記の記事(細かいことはコメント欄をご確認ください)です。2013年ではもう少し理解が進んだかもしれませんが、プライベートブランドというものは、販売者と製作者が違います。読者の方で、販売店が自分で作っていると勘違いされている方がおり、レビューの中で作り手に対して経験不足と評したことが、販売店に対して経験不足と言ったの様に受け取られ、お叱りを受けました。
正しい情報もあれば、間違っている情報もありますが、一番危険なのは、正しいと思い込んでいる間違った情報ではないかと思います。今回、コメントを頂いたのでお客様の勘違いを正すことができましたが、コメントを頂かなければ、すっど勘違いで私が批判される事態が続いたのかと思うと…恐ろしいです
弓具の評価を公開していくうえで、まずは、そういった誤った認識(この記事の場合はプライベートブランドは販売店が作っているというもの)を正していかないと、記事で提供する情報が正しくとも、間違った形で受け取られ、単純に自分が間違ったことを書いてしまったなら自己責任ですが、受け取り手の勘違いによって思わぬトラブルや批判が生まれるのではないかと考えるようになりました。これが今年の1月くらいの事です。
しかし、そんな心配をしていても…逆に考えるとアメリカやヨーロッパでは、自分がやろうとしているような弓具の評価・レビューというのは当然の様にアーチェリー雑誌に掲載され、広く読まれています。欧米人にできて、日本人にできないはずはないでしょう。
では、その違いはどこにあるのかと考えたのが、2月。
そして、「古いこと」…つまり、歴史があるのかないのか、、正確には歴史が語られているのかどうか、そこに違いがあるのではないかと思うようになりました。
欧米のアーチェリー用品のレビュワーと言っても、だれもゼロから道具の評価テストを立ち上げたわけではなく、そこには、1920年代から積み重ねられた知識と常識があり、レビューをする人間はその文法・文脈にのっとり、発言しているからこそ、誤解されずに、正しい情報が流通するのではないかというのが自分の現在の仮説です。
それに対して、前の記事で書きましたが、日本のアーチェリーのメディアの多くの商業主義に上に成り立っているものです。それらは歴史の様に積み重なるものではなく、流れていくもので、歴史や過去はむしろ邪魔です。
有名な話ですが、これはボジョレーの毎年の”自己”評価です。
1995年「ここ数年で一番出来が良い」[1]
1996年「10年に1度の逸品」[1]
1997年「1976年以来の品質」[1]
1998年「10年に1度の当たり年」[1]
1999年「品質は昨年より良い」[1]
2000年「出来は上々で申し分の無い仕上がり」[1]
2001年「ここ10年で最高」[1]
2002年「過去10年で最高と言われた01年を上回る出来栄え」「1995年以来の出来」[1]
2003年「100年に1度の出来」「近年にない良い出来」[1]
2004年「香りが強く中々の出来栄え」[1]
2005年「ここ数年で最高」[1]
2006年「昨年同様良い出来栄え」[1]
*以上、ウィキペディアからの引用
さあ、どれが一番いい出来だかわかりますか?
メーカーにとって、過去の話(歴史)を蒸し返されては、商売上いろいろと困ることが想像できると思います。
ただ、これはボジョレーに対する批判ではないです。本当にお酒好きで毎年ボジョレーを飲む人は、むしろネタとして「評価文」を肴にして飲むので、批判するようなものではないと思いますが、まれに、評価を本気にしてしまう人がいたとしたらかわいそうだなとも思います。
アーチェリーで検索すると、入手できる資料(本)は2007年が一番古いのです。アーチェリーのことを学ぼうとしても、この6年間に生み出されたことしか知る事ができません。ちなみに、アメリカでは古くは16世紀の資料から、フランスは15世紀の資料から入手できます。さらに、亡くなったアーチャーの多くが、著作権を放棄し、それらの本を無料で公開することで、死してもアーチェリー界に貢献するのです。素晴らしいと思います。
例えば、アーチェリー歴史学の第一人者であり、WA(FITA)やUSA Archeryの歴史を書いたRobert J. Rhode(2000年没)さんのページなどがあります。
HistoryBooks by Robert J. Rhode
http://www.texasarchery.org/Documents/NAAHist/History.html

誰もが自分は過去の上に立っていたと知っているからこそ、自分も踏み台になりたいと願うのでしょう。
日本で2007年にアーチェリーを語った人にしても、ゼロから何かを生み出している人は少ないのではないかと思います。過去の知識・知恵の上に立って発言しているケースがほとんどでしょうか。しかし、それを読む人はその過去を知るすべがありません…英語の資料が豊富にあるので、ないというよりも、簡単には知ることができないといった方が正確でしょうか。
さらには、歴史がまとまった形、整理された形で存在しないことをいいことに、勝手に書き換えられたりしています。例えば、私たちも行っているハイスピードでの弓具の研究は、日本のY社が初めてだとい某記事には書かれていますが、アメリカでは1930年代から行われており、これは私がこっそりと手に入れた情報ではなく有名な話です。なぜなら、その研究からスタートしたのが、まさに現在の弓具の形を作ったヒックマン博士だからです
また、同時期には和弓の世界でも、旧海軍兵学校の協力のもと、120fpsで弓具の動きを撮影し、弓具の研究が行われていました(*)。どちらも80年以上前の話です。
*「紅葉重ね 浦上栄 著」でその写真を見ることができます。
このような例は本当にたくさんあります。現在のアーチェリーは19世紀の後半から、脈々と続いてきたもので、多くの研究によって進歩してきたものです。アーチェリーの記事を書くほどの偉大な人達ですから、常識的な知識を知らないとは思えません。ほとんどのケースで知っていて、わかるはずがないと思って、歪曲して伝えているのでしょう。
これは、考え過ぎだといわれるかもしれませんが、感性の科学には突っ込みが入り訂正記事が出ました。これはステークホルダーがたくさんいるからです。しかし、Y社が世界初だというハイスピードカメラの話は、間違っていたとしても、わざわざ突っ込みを入れる関係者はいないのでしょう。
前者と違って、誰もその誤った情報によって、損をしない場合もあります。記事の前半で商業主義と書いたのはそういう意味です。アーチェリーの道具や歴史について圧倒的に、情報を握っているのはプロショップの人間ですが、誤った情報を見つけても、それによって損をしない限り放っておくのが、美徳の様な雰囲気があります。
日本で弓具のレビューが困難なのは、そんな流れがあるのだと思います。レビューで難しいのはネガティブ(批判・否定)な部分です。弓具を知らない人は批判が的外れであることが多く、業界に中にいて知っている人は、生活がかかっているので、悪く書くのは怖いものです。欧米人にそれができるのは、その場で取得したデータや理論だけではなく、歴史的な文脈の中で肯定・否定をしていくからだと思います。
5月にホレース・フォードの本を翻訳したのをはじめ、ホイット氏のインタビューの編集(*)など、弓具のレビュー以前に取り組むべきことがあるように感じます。
*彼は生涯にわたって弓具の進歩を願い、フォームコアをはじめてとして、数多くのイノベーションを起こしましたが、一部の人間によって、なぜか弓具に関して保守的な人間であるというイメージが作り上げられています。しかし、英語で書かれたどの文書を読んでも、彼は前衛的な人間です。
現代のアーチェリーが19世紀から続いていくものであり、弓具は20世紀初頭にはじまる一連のイノベーションが現在まで続いているのです。大天才でない限りで、その流れの中でしか、道具を評価することができないと思いますし、実際自分は凡人なので、自分が書くとしてもその流れの中でしかすることができません。
HMC+とHMC22の記事を書きましたが、現在でも限られたトピックの中であれば、書くことはできます。しかし、ハンドルやリムの様な大きな枠組みの中で道具のテスト・評価をするためには、まず、そのフレームワークを読む方に提供することから始めるべきと判断しました。
欧米人がそのフレームワークを持っていて、日本にはない(と自分は感じる)のは、今に続く歴史を15世紀からたどって知ることができるかどうかの差に集約され、そして、正しいアーチェリーの歴史を語ることで、日本でもそのようなものが、時間はかかっても成熟していくのではないかと思っている今日この頃です。


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Ryo

Ryo

山口諒 - JPアーチェリー代表。担当業務はアーチェリー用品の仕入れ。リカーブ競技歴13年、その後コンパウンドに転向。リカーブ・コンパウンド両方で全日本ターゲットに何度か出場、最高成績は2位(準優勝)。

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